78〜狂想曲の強襲〜
君がため、は……
――GARARAANN――
「おはようございまあす」
「お、亜子ちゃんいい所に来た」
誰かと話す料理長が亜子の挨拶に立ち上がり招く手に妙なハシャギを見せていた。
これまでにそんな態度は見せた事は無く、亜子の背筋にゾワゾワとした何か嫌な雰囲気を纏う料理長の興奮に、向かいの席に座り亜子にニンマリと笑いかける男の目の奥にはエゴイズムを感じさせる狂喜が見えていた。
あまりお近付きになりたくはないタイプだが、料理長の知り合いかお客さんか営業かはたまた取引相手かも判らない。
先ずは挨拶する他にない状況に、いつもの営業スマイルを作りまだエプロンもかけていないが御用聞きとばかりに仕事モードで顔を出して見せる事にした。
「どうかしたんですか?」
料理長が亜子の肩を掴んで相手の男に自分の紹介をし始めると思いきや、これがウチのレジと配膳だと告げ説明よろしくと相手の素性の説明も無く背中を叩いてキッチンへと消えて行った。
「え? ちょっと、まだ私荷物も……」
亜子が荷物を掲げてみせるが、そんな事はお構い無しと男は説明を始め出した。
「これから暫くの間、この席にはこのカードを持つ人以外座らせないで下さい。その上で私達には干渉しないで下さい」
「え? え、ちょっと、それ、何を言ってるんですか?」
亜子が振り返り料理長を見るが、逃げの手を打つ時に見せる忙しい演技。
亜子の嫌な予感は確信へと向かう。
男が亜子の様子を見て安心させようとしたのか素性を聴かせる。
「大丈夫落ち着いて、私達は警察の仕事で来てるんですよ」
「警察?」
「シーッ」
驚きの声をあげる亜子に男は周りを気にしてみせるが目は笑う。
驚くのを確認し思惑に嵌めたと確信したのか、余裕を見せ静かにゆっくりと相手を引きつけるように説明を続ける。
「あ、すいません」
亜子は悪い事をした訳でも無いのに警察と聞き何となくかしこまる自身の姿勢に違和感を感じつつも、面倒事から逃げる為に自分を身代わりにした料理長に対する恨み節を頭に過ぎらせ苛々とかしこまりの相反する対応に心も割れる思いから、想い人への救いを求めながら目の前の面倒な男の話を聞いていた。
そのせいなのか意味が理解出来ずに困惑していた。
「それ、何の意味が?」
「いや、意味が無いように見せる事が大事なんですよ! 下手に動くとあなたに危険が及びますから! あなたは私達の言う通りにしてくれれば大丈夫です!」
亜子の不信感と質問を打ち消すように力強く諭し出した男の声の大きさは、周りを気にする様子も無くただ自分の我儘を通したいとする中高生のような稚拙さを感じ、別視点からも警察の捜査への不信感を募らせる。
「それ、この店でやる必要性ってあるんですか? というかこれ専務の許可は貰ってるんですか?」
「いや、だから今確認してたんですよ」
そう言って料理長を指す男に見切りをつけたように、それまでのかしこまる姿勢は消え失せ馬鹿らしさを感じると共に料理長への恨み節を素直にぶつけようと何も言わず立ち上がりその場を後にしていた。
――BANN――
「お、亜子ちゃん、どうだっ……ごめん」
内容確認処では無い怒りを纏った亜子の気迫に腰が引く。
「何あれは? 今度ああいうのが来たら専務呼んで下さい」
「え? え、だって警察でしょ?」
「知るか!……です。どのみちウチが協力する義理の無い話ですよ、アレ! 横暴にも程があるでしょ、お人好しも程々にして下さい……というか私に気を遣うべきでしょ!」
「ごめん、だって亜子ちゃんなら警察慣れてるかなと思って……あ、」
亜子の眼が変わり、すぐ脇の包丁を確認する亜子を見て、料理長他数名の調理スタッフが逃げ場を探すが退路は更衣室への袋小路。
早々に逃げるのを諦め料理長を押し出す調理スタッフの潔さは清々しく、割り切りの良さは料理長のソレと同等に、必死に謝る年配の料理長の姿は寧ろ若さを感じさせていた。
「じゃ、夕飯一週間分で」
「いや、せめて三日にして」
ようやく笑顔が溢れだした調理場に足を踏み入れようとする男に気付いた調理スタッフが制止する。
「ここに入られては困りますよお客さん!」
「いや、大事な話が……」
制止する調理スタッフを制止して前に出た亜子が男への態度を一変させ、責任感を持って対応する。
「お帰り下さい」
「あ?」
「専務に話を通してからにして下さい」
「え?」
料理長を指し示すも料理長は首を振る。
男が戸惑いを見せると亜子が詰め寄って行く。
「何の捜査か知りませんけど、お客様を馬鹿にするような対応をするのを専務が良しとするとは思えませんので、とりあえず今日はお引き取り下さい」
先程男が出したのと同等に声大きく前に出た亜子に対して、男の目が泳ぐ。
流れ的に自分が押していたと思っていた男には予想外の展開だったのか、
引き下がる術を知らないイキった中高生の様な態度に、亜子の眼が男を凝視していた。
「お帰り下さい、他のお客様に迷惑です」
顔を傾げて手を扉に向け男に対峙し目を見開いて外へと促すソレは、周りの誰しもにも明らかなる亜子の学生時代を理解させる。
バツの悪い状況に諦め出て行く男の後ろ姿を目で追い、閉まった扉を確認すると溜息一つで営業スマイルに戻った亜子に、皆目を反らし触らぬ神に祟りなしと平穏無事を願い図らずも己から日常を取り戻そうと客もスタッフも空元気を出していた。
「さ、仕事仕事」
塩でも撒いたかのように手を払い荷物を置きに奥へと向かう亜子に料理長が不安を吐露する。
「あ、でも警察を追い出しちゃって平気なの?」
顔を曇らせ一瞬考えると尚更に不信感を過ぎらせた亜子が怒りを吐露し出した。
「だって、今の人警察の仕事って言ってたけど警察手帳も見せないし、犯人の事も危険人物とかで何の犯罪者かも言わないし、そもそも何でウチの店なのかも曖昧だし、協力事項もアレ可怪しくないですか? 犯人の前で演技とかって、危険て言いながら接触を求めるとかあり得ないでしょ!」
「え、ああ、確かに」
料理長もお客さんも調理スタッフも亜子の不信感に納得と同時に、その観察眼に感心し、荷物を置きエプロンを着て戻って来るまで店の中は亜子の話で花を咲かせていたが、なかなか戻らない若さを見せた主役は奥の更衣室で震える手を必死に抑えていた。
皆の前で咲かせた花は季節が合わず、恋の花に頭を切り替え咲かせる花を満開にしようと想い浮かべる陽気は暖かく、期待の祭りに目を向けた。
花柄のカレンダーの十五夜に書かれた富士山グランプリのはなまるへ想いを寄せて、手の震えは腹へと移り笑顔を戻した。
我が衣でに




