表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/154

73〜静寂の狂騒曲〜

 固まる決意の先に



「あれ?」


 藤真が電話を切り思案していた。

 病院かもしれないなとメッセージを送信してとりあえず頭を切り替え仕事に戻った。


 奥の部屋からは怒鳴り声が響いていた。

 普段お客さんには絶対見せない態度を取るが、こういった怒鳴る話は大抵の場合は二瓶が相手の時と相場が決まっている。


 それは、藤真が子供の頃に珍しく泣いた日、二瓶達が来て藤と怒鳴り合い暴れていた。

 藤真は泣くのも悔しくなって、その悔しさを怒鳴り暴れる藤達にぶつける様に思い切りドアを開け奥の部屋に入ると、藤も二瓶も他の大人達も泣いていた。

 それを見て藤真も大人達も同じ思いを知る同士として理解し、その日から大人も子供も関係ない同志となった。


 けれど、まだ子供だった真には危険が多過ぎるからと当然大人達のしている事に関与する事は出来なかったが、それでも目的を果たす為に交わした同志として藤の元に就く事にした。



 そして、先日ようやく藤真も藤達と同じ様に使命を任された。

 その話で二瓶と藤がまた怒鳴り合っている。

 つまり、鈴木の件にあの日と同じ奴等が関わっている可能性が高いという事と同時に危険が見え隠れしているという事を示唆していた。


 そんな折に電話に出ない鈴木を危惧していた。

 藤の怒鳴り声が響く中で……



――DONN――


 藤のデスクが揺れる。

 開かれた資料に丘元の名前が在ったが、藤は鈴木の話から二瓶とは別の方面から調べていた事が細井の件に繋がってる可能性に気付き、二瓶が話を濁した追っている相手というのは誰なのかと考えたが、仲間に調べて貰っていた結果を知り確信を持って二瓶に文句を言っていた。


 その文句の内容に、名前も言えない相手が絡んでいる事が怒鳴り声の原因であるが、政治絡みにする事で逮捕出来ない犯罪が起こる。

 いや、起こす為に政治絡みにするのが愚劣な犯罪者の狙いなのは警察も検察も政治家も裏社会を知る者なら皆知っている。

 それでも逮捕されないのが何故なのかも……


 それが絡む可能性を知りつつ待てと言って放置していた二瓶に対してとめどない怒りをぶつけていた。


 二瓶も調べていた折で、ここ迄早く繋がるとは思っていなかったが、繋がる前に手を出せば犯罪証明を突かれて潰され兼ねなかった。

 そこで証拠を掴んだらスグに繋がる手前で引っ張り出す筈だった。


 が、後手を踏み引っ張り出す処か闇の中に引き摺り込まれて手出しが難しくなった今、藤に怒鳴られるのも頷けるが、頷いてしまってはいけないと知っている。

 だからこそ藤の怒りを受け止める必要があった。







――KASHA!――

『…ひーほーほー…』


 楓香の作った零の隣で肩を組む零がニンマリ嘲笑ってスマホにポーズをとると、楓香がボタンをタップしていた。


「これで良いの?」



『…ひほ、いや、俺が映ってねえだろ…』


 何が起きたか零は楓香にスマホを買い与える約束を交わし操作方法を教えていた。

 手始めにとっ突き易くカメラの使い方から始めようとしていた。


「何か違うボタンになった」

『…ムービーだろ?…』



 兎角スマホを初めて弄った時の反応は皆同じだと判る程に同じ失敗と問いに自身を振り返るが、零の場合は他には無い苦労もあった事を思い出し、顔が曇っていた。



 零は人形である。


 これで大半は分かるだろう苦労の数々。

 先ず指が無いので指紋認証不可。

 タップ範囲が広過ぎて誤作動不可避。

 当然顔認証も不可。


 しかし、タッチペンという物がある。

 零はこれに救われた。


 当初は自らの手に入れ込んだネオジム磁石にペンを付けていたが、入れ込んだネオジム磁石はあらゆる場面で零の行動を妨げた。


 唯一これは、と思えたのは冷凍庫を開ける時に登り易い事位で、後は悲惨だった。

 歩いている間に移動した磁石は突然腹に向けて飛んでくる透子のヘアピンや商品の針金。

 急に重くなったと思ったら背中に缶詰が……



 そうして今は、手に裁縫ボンドで貼り付けた伝導帯シリコンがある。

 どんなに透子にグシャグシャにされても剥がれていない事に裁縫ボンドに感謝する零だが。

 失敗した時の恐怖の記憶も有り、プラモデルを作る子供の様な感覚では扱えないと知っている。

 故に透子達が気付く前に裁縫道具から抜いてレイサイドホテルに隠していた。



――KASHA!――

「ん?」


『…ひーほー、後は画角とセンスだな…』


 楓香のセンスを見定める為にテーブルの上に上がった零が目にしたのは正しく裁縫ボンドだった。


『…ひほ? 何でここに…』



「何?」

――BUSYUU!――


『…殺す気かっ!…』


――KASHA!――



 楓香が撮影に夢中になって肘をついた折に蓋と中のボンドが圧力で飛び出していた。

 零はギリギリの所でかわす。

 残っていた量が少なかったからか被害はテーブルの上だけで済んでいた。


 しかし、何故ここにボンドがあるのかと見るが少しサイズが小さい様に見えたソレ。



「ごめんなさい、これ透子が買ってきたヤツだ。怒られるかなあ?」


『…いや、先ず俺が怒ってんだけどな…』

「そっか」

『…、じゃねえだろ…』


 と、詰め寄った零の足の裏にネットリとした嫌な感触が……


「あ、うん、ごめんなさい」

『…いや、うん、ごめんなさい…』

「ん?」



 零は今楓香に怒る事は出来ないと悟り、怒鳴りたい気持ちを押さえて優しく語る。

 今から自分を洗って貰う為に……

 ここぞという程の気持ち悪い顔で



『…楓香ちゃん、もお、駄目だ、ぞっ!…』




 固まる楓香と固まり始めるボンドは、どちらも零の動きを止めていく。


「うぇ、ごめんなさい」



『…ん、待って? 待って、何処行く気だ? ちょっと、助けて、楓香ちゃあああん…』



「うわ、ごめん、ちょっとトイレ」


『…噓、噓でしょ? おい、早くしろよ…頼むから…』



――TIKATIKATIKATI――


 


 雨降って地固まる


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ