68〜静寂の狂騒曲〜
廻るは金か道化か
「良かった、実は今日の営業先で資材確認の日と重なっちゃって間に合うか判らなくてどうしようか迷ってたんだよ」
茶尾が土産のおからドーナツを出すと藤真が社の営業部の先輩達と同じセリフを吐いて来たので、端折る事にした。
「やっぱりアレって、春る菜市の豆腐屋の事だった?」
「いや、まあ、そう……かな?」
藤真は茶尾との約束を忘れて鈴木と食べに来ていた気不味さを惚ける為に口をついただけの話だっただけに、一瞬何の話かも解らず、思い出すもその店を知っている訳ではない、お客さんからお茶請けに出された程度で何の事か良くわからないままに話を合わせる。
「? うぅん、一応だけどソコ閉店してたよ」
「そ、そうなの?」
藤真の曖昧な返事に何となく勘付いた茶尾だが、常連客が割って入る。
「それ、春る菜の豆腐屋の話か?」
奥さんがその豆腐屋のおからが好きで良く買っていたがデパートやスーパーに卸していたのに急にテナントや棚から消えてしまって、最近になって何となく思い出して食べたくなったから今度連れてけと言われていたらしいが、
閉店と知り困惑顔を浮かべていたが茶尾の土産を見てやはり社の先輩と同じセリフを吐いて来たので、端折る事にした。
「箱入り六個で六百円位ですよ」
「安いな、天扉岩か……プチドライブに調度良いかもな」
「ええ、ココ近くに滝がありますよ」
「おおアレか、あの凍るやつ」
年上に好かれる茶尾が常連客と意気投合する中、何の話か良く分からない藤真がバクバクとドーナツを食べていた。
――BAAAAAANN――
「痛ぁっ、何すんだよ亜子」
「いや、何普通に土産物食ってる訳? ここお店なんですけど」
「あ、ごめん」
「こんな馬鹿にオーナー権は渡せないわあ」
「ズルはすんなよ」
「しないわっ! ガリが」
「誰がガリだ」
亜子は恋の花を咲かせる為に近付いていたのを思い出し切っ掛けを間違えた事に気付き内心後悔していたが、目はまだ機会を狙っている。
店の中はそこかしこで盛りあがり話に喧嘩にと華が咲いていた。
――PATIPATIPATIPATI――
「先生方、わざわざ遠い所貴重な御講をありがとうございました」
車へと向かう丘元と田中を見送る久美の旦那と兄の俊輔が並んでいる中、車を建物の前にまわして来た高足が佐藤に声をかけると福山等が目を向け小さく頷いていた。
胡唆と喪積は丘元の頑張って下さいの声かけに笑みを浮かべると、島口が鼻で嘲笑っていた。
見送りの群れから離れ車の前で小佐田が高足達をスマホで盗撮するポーズをとり嘲笑う顔を見せると、高足が中指を立てていた。
それに呼応する様に指で金を匂わせる形を作り見送りに群れる連中の後ろへと回り立ち去って行く女の後ろ姿に高足は口元が緩む。
親密な関係というより如何わしい関係を愉しんでいた。
――BATA――
二人の先生等が乗り込み誰かがドアを閉めた音で高足が振り向き確認するとエンジンをかけたと同時にスマホのフラッシュが光る。
――BATANN!BOKKU!――
静かになった見送りの中で一人うずくまる男を無視して皆が車を拍手で送り出していた。
――PATIPATIPATIPATI――
「私達やっておきますからプレゼント買いに行かれて構いませんよ」
遠藤がスマホの通知にまた立ち上がるとスタッフがウンザリした顔で言うが、大丈夫ですと言い残してトイレに向かう。
スタッフが苛々を募らせ小声の文句が囀る中、トイレでは遠目から撮られた写真付きの情報にズームしていくと見覚えのある後ろ姿が映っていた。
「ん、長林の……」
ズームした写真のスクリーンショットを送り返すと文句鳥の鳴き喚く部屋の方を見やり鼻で嘲笑うと、写真の中の運転手を見て頭を掻き何かを思い出そうと記憶を辿っていたが、時間を確認して戻って行った。
「誕生日はなくなりましたんで」
「え?」
スタッフも遠藤が相手と何が起きたのかも分からず気不味さに固まる中、嘲笑っている様にしか見えない遠藤が黙々とチェック作業を進める手に勢いが増していた。
「皆さんも早く終わらして今日中に帰りましょう」
「あ、はい」
急なリーダーシップに嫌っている筈の遠藤に素直に従うスタッフ達は気付いていないが、見事なまでに遠藤の思惑通り踊らされていた。
そこに沢抹と音岳が帰って来た。
「お、やってるねぇ、ちゃんとチェックしてよ! チェックされてもバレない様にね!」
「あははは、はい気を付けます」
スタッフの合いの手の笑い声に気を良くして沢抹はニタニタと笑い、奥の金庫に明らかに金だと解る何かが入った三つの紙袋を誰にも渡さないとばかりに一人で抱えて行った。
いつもの意地汚い姿に反吐が出る思いを遠藤は顔に出さずにただ深く息をし吐き出していた。
「お疲れさん」
音岳が遠藤の肩に手を置きパソコンを覗き込むと何かをチェックするかの様に見回すが、元々チェックする気は無くただ主従関係を争いマウントを取り合う小競り合いに遠藤が眉間にしわを寄せると音岳も睨みつける。
不穏な空気にスタッフのパソコンの音が変わっていた。
――KATAKATAKATA――
「チャッビーが来れないなら俺今日なんの為に……」
「ごめん、代わりに鈴木さんにお願いしようかとも考えたんだけど、流石に申し訳なくてさあ」
「当たり前だろ」
喧嘩も話もようやく収まりが見えた頃、店は常連と藤真達だけになっていた。
他の席の椅子は既に上げられ閉店の準備を続けていた亜子が空いた皿を片付けているとチャンスに目を光らせた。
「呼びなさいよ」
「は?」
「鈴木さんも呼んであげなさいよ、祭りでしょ」
「え、ああ、そうだな」
「絶対だからね」
「いや、鈴木さん次第だけどな」
「絶対!」
藤真の後ろで茶尾が何かに気付いて亜子に親指を立てていた。
自分の役目からの解放と共にウィンウィンとでも言いたげに。
しかし亜子に茶尾は見えていない。
「よし」
主役の代わりも誰かの主役。
助演の代わりも誰かの主役。
誰もが誰かの主役になるのが恋の舞台。
恋の助演は大事な役目。
誰が主役で誰が助演か物語とは関係なく恋の演出家が勝手に決める。
恋のヒロインは勿論亜子。
お祭りデートに胸踊り、椅子を相手にダンスの練習。
「チャッビー、帰ろう。なんか今ここに居ると不味い気がする」
閉店時間の知らせは音も無く廻る椅子は常連客にも気付かせていた。
――FUFUFUFUUUNN――
「あ、亜子ちゃん、レジ……」
椅子IS楽舞




