67〜静寂の狂騒曲〜
ソレは何を解くのか
『…ひほぉぉぉぉ…』
透子の作った練習人形はパッケージの零とはまるで違い、鏡を見る様に零と全く同じ零だった。
「……何で?」
『…お、俺がいる…』
零は思い違いをしていたと気付く。
楓香に作って貰おうとしていた完璧な練習人形では自分の身代り人形にはならないのだと……
そして、目の前に作り出されたこの不器用女にしか作れないだろう身代り人形としての出来に。
「もう一回!」
そう言って箱から練習人形キットを抜き出した透子はそそくさとまた作り始めていた。
零は止める事も無くそれを見ていたが、透子の作る身代り人形を取るか楓香の新たな使用方が上かと楓香に期待を寄せ顔を向けていた。
流石に透子の作る身代り人形をネットに上げた処で、バズって量産……されるとは到底思えない。
勿論、世の中どう転ぶかは判らないが、自身の事とはいえそれが起らない自覚と自信があった。
程なくして楓香が作って見せたのはカラフルな猪のぬいぐるみ……
可愛く完璧でセンスを感じるホームページのマスコットキャラクターにピッタリな、商品として成立するだけの出来。
「どう?」
しかし、零が求めるそれとは違っていた。
可愛いが、わざわざ練習人形キットを買ってこれを作る必要は無い。
これではただの二度手間だ……
返答に悩む零の苦悩も知らずいつの間にか透子は三個目の挑戦に転じていた。
視線の脇で透子の作った身代り人形が増えている。
既にそれがどちらが先に作られたのかも判らない程に零と同じ零が二体……
「よし、私も出来たよ」
『…ひほ? お前は俺を作っとけと…言って…何だそれ?…』
「いや、猪でしょ」
「え、うん」
『…いや、甘やかすな楓香…』
豚と見るのも中々に難しいそれは、位置からして牙では無く角が生えた何か……
水牛ともとれなくもないが明らかに違う豚鼻。
ブルドッグの様だが角があって長い四足。
そして妙にリアルで口から垂れた長い舌が揺れていた。
――BUBIBI――
『…「「!?」」…』
固まる三人。
何かを察した零が、慌てて透子の作ったソレを楓香に投げ付け叫ぶ。
『…楓香、急いで解け…』
「ふみゃっ!」
アホ面の透子を他所に楓香が縫製を解いていく。
零が透子の作った二体の零を振り返るが特別動きは無い。
安堵する零が楓香と何かの声に顔を戻すと、舌をいやらしく振り回し妙に長い四足を足掻き悶えるソレに怯える楓香がどうすれば良いのかとソレを持つ手をのばしてコチラに向けていた。
――BUBIBIBIBI――
『…解け! いいから解け解くんだ…』
「ふむぅぅぅぅぅ……」
――BUBI!BUBIBIBIBI――
何かを察し更に暴れ舌を伸ばし足掻くソレが透子達に想起させる畜産業者の重い思い。
そして、楓香が解き抜いた最後の一本はソレの動きをビタリと止めた。
まるで呪縛から解かれるように。
「ぁぁぁぁぁ、あの、これ、私のせいなの?」
『………』
零は思っていた。
最後の一本を解き抜かれたソレの最後の姿は自身の最後と理解出来る。
そう自身の殺し方なのだと。
確実に楓香は気付いた筈だ。
そしてこのアホ面もスグに……
「でもこれ、零も最後の一本までは死なないって事だよね?」
『…!?…』
底無しの……
透子の質問に焦る零だが、透子は喧嘩の仕返し程度にしか考えていない。
そのおかげで逆転の発想に繋がった。
つまり、最後の一本さえ残っていれば別の何かに作り変えられるのではないかと。
出来れば楓香の作る何かになりたいと思うのは必然。
愛される何かに……
しかし、失敗すればアレと同様に動きを止める。
今はまだ危険は避けたい。
頭に過ぎる悪癖よりも凡そ性質の悪い考えに躊躇う良心の欠片が自らに叱責する最中に。
「スッカリ綿も落ちちゃって、これ埋葬するべきなのかなあ?」
「埋めるの?」
「燃やし……燃やせるゴ」
『…ゴミ扱いか!…』
自身に重ねた事を伺わせるツッコミに自身で気付き、過ぎった考えは諦める事にした零が楓香に別の何かに作り変えるように伝えると嫌そうに頷いた。
その後、ハギレを片付け夕飯にしたが肉を食べる気が失せていた。
ネギを切り乾麺を茹で流水にさらし、三人は黙々と蕎麦を啜りわさびなのか啜り泣いていた。
――ZUZUZUZUJURUZUZUZU――
、食事の後に楓香が雑誌を手に思いを改め作ったのはハロウィンなら売れそうな可愛らしいお墓のぬいぐるみだ。
元は角だったコウモリと共に墓標らしき部分には【ブービー】と刺繍され、まるで怪しい教会の鐘が聴こえて来そうな出来だった……
――KAAANNKOOOOONN――
「明日から仕事だから今日は早目に、おやすみ」
「おやすみ」
『…安らかに、ひーほー…』
「おい、やめろ」
――PERONN――
零にツッコんだ序でにスマホを確認し、亜子から送られて来た内容に戸惑う透子が三分程悩み考え答えを出したか急に気が抜けた表情になっていた。
〈元通りなだけか……〉
解き放たれた先に待つものは




