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66〜静寂の狂騒曲〜

 違い間違い勘違い



「よし、あとは……」


 透子が亜子に返信すると富士山グランプリへの闘志を固め、楓香との連携をどうするかと考え顔を上げ、下の箱を器用に登りレイサイドホテルで缶詰めをコソコソと隠している零を静かに見ていた。






――GARARAANN――


「いらっしゃいま、あれ?」

「うん、真に呼ばれてな」


 藤がまた現れてどうしたのかと見る亜子に困り顔で応えると、亜子が一瞬考え何かを思い出した顔をする。

 その顔を見逃さなかった藤も……


「亜子ちゃん、真から何か聞いてるか?」

「え? 何かって何です?」



 明らかに違うと分かる反応に若者同士の別の何かかと考え、真がわざわざ店に呼び出して何の話かと考えれば一つしか浮かばない。



「ああ、」


 一人で勝手に納得する専務を見るのは慣れている。

 亜子はまたかと思い様子を伺っていると、細かに頷きながら亜子の顔を見つめ予想が付いたのか口にした。



「いや、多分下らない話だ」

「はぁ……」


 亜子の中では真が来る予想が当たった事によしと考えていたが、もう一つ……



「あ、」


 思い出して話しかけようとした専務は既に客の中の知り合いに声をかけられソチラヘ向かっていた。

 また逃したチャンスに自身を悔みレジに戻ると台の下から零を取り出していた。




――BOKKOBOKO――






「シレッと隠してんなよ! コレ、私の好きなオイルサーディンまで……」


 隠し場所を覗かれていたと気付かずにバレて殴られレイサイドホテルから放り出されると、まるで飼い犬が埋めた物を掘り出すかの如くに隠していた食料を透子が持ち去って行く中、零はクローゼットの下の箱に手を入れた。


『…クソ…… おい、楓香、コレ! お前の全力を出して完璧な俺様を一つ作って見せてくれ…』


「ふぅむ……」



 箱から出した練習人形のパッケージを見ていた楓香が何かに気付き、零と零のパッケージを見比べていると、キッチンから戻ってきた透子をチラ見し気不味さに押し潰されそうになっていた。



「う、出たな、忌まわしきパッケージ」


『…ふ、お前の心を打ち砕いてやるぜ! な、楓香…楓香?…』


 気不味さから逃げ、パッケージを開け中を確認していた楓香が戸惑っている。


「これ楓香でも難しいんじゃ……無いか」

『…無いだろ…』


 楓香が思い詰めた顔を向けると零も透子も息を呑む


「……これ、テキスト付いてないけど?」


『…ひほ?…』

「あるよ」



 思惑が崩れ去る音に零の生気が消えていくとパッケージのイラストと同じポーズになっていた。

 基本的に教材系の商品はテキストが別売りな事が多いのは、教える場と先生の存在があってこその商品。

 それ故にテキスト掲載は勿論だが作り方のホームページ掲載はアウトとなる可能性が高い。


 つまり、作り方のテキストが無い練習人形キットだけを買う可能性は低い……

 が、先日見つけたテキストを持って来る透子の手に零が飛び蹴りすると思い付いた何かを口にした。



『…楓香、何でも良い! そのキットで何か良い感じの作れ…』


「ん?」

 ブシュッ#

「は?」


 踏み付けた透子も困惑する中、潰れるボディーに見合わないギラギラとした笑顔を浮かべる零。



「ふむぅ……」


「じゃあ私も」


『…お前は、どいとけ!…』

「ああっ? 蹴っておいて何言ってんだこの駄フィグ」



「うるさいなぁ……」


『…「ごめんなさい」…』



 生地を取り出し考えていたが、ふと楓香が雑誌を手にしたのを見ていた二人は見合い楓香が何かを思い付いた事に気が付いた。

 と、案の定生地を測り出す。

 もう出来上がりを待つのみ。


 透子がそのすきを見て練習キットを抜いていた。



『…お前は、テキストをもう一度ちゃんと読んで俺を作ってみろ…』

「え? それ良いじゃない!」


 脂肪も無くなり細くなった指に死角無し!

 そお思い零の挑発にのった透子も裁縫道具を横に楓香と背中合わせで静かな挑戦が始まっていた。







――GARARAANN――


「いらっしゃいませえ」

「真は?」


 亜子が手を指し示す先には常連客の輪の中に藤が居た。

 茶尾が亜子を見返すとお手上げポーズ。

 気付いた藤が手を上げ茶尾を呼んでいるのを見て頷いて見せた。


「おお、相変わらずデカイな。真か?」

「はい。え、藤さんもですか?」

「あああ、やっぱり下らねえ話だなこりゃ」


――GARARAANN――


「いらっしゃ……来ましたよお」

「は?」


 真がキョトンとする中、藤や茶尾やが振り向いた。

 手を上げるアホ面に藤の予感が当たっているだろう事を悟った茶尾も藤と同じため息を漏らしていた。



「何? 何かあった?」

「何でも無え。それより何だその大事な話を先に言え」


「え、あ、じゃあ、茶尾、ごめん、俺、これからは一対一(いったいいち)でアイツに挑む事にする。なんで専務、今度の勝負なんですけど」


 常連客が盛り上がるでもなくポカーンとする中、藤が頭をかきながら渋い顔で立ち上がり話を切る。


「あああクソ、やっぱり下らねえ話か。そんなもん勝手にしろよ」


「いや、一応皆の前で宣言した方が良いのかなと……」



 正直そんな重く受け止めてる者は誰も居ない。オーナー権争奪戦も余興なのだから。

 しかし、その馬鹿さが面白いからこその盛り上がりだとは藤真だけが気付いていなかった。


 今尚も……



「すまん帰るわ。亜子ちゃんここビール一本入れといて。茶尾君ごめんな、馬鹿に付き合ってやってくれ」



 頷く茶尾とビールに浮かれ笑う常連が藤に手を振り見送ると、独り立ちだと茶化して遊びだしていた。


 藤真はアホ面のままに……


「ん?」


 


 馬鹿は真面目と正直か?

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