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61〜対峙の芽吹き〜

 汁は朝から夜の営み迄。



【天扉岩地区】


――KUFOOOO!PIEEEE!――


 何の動物かも判らない様々な鳴き声は、まるでジャングルか何処かで彷徨(さまよ)い倒れたかの様な目覚めに、早朝に漂う川霧で気付かされる凡そ高くもない標高に油断していた涼しさは茶尾を震えさせていた。



「お、早えな、寒かったか?」

「はい、ここまでとは思いませんでしたよ」


「だから暖かくして寝ろって言ったろ」

「これキャンプと変わらないですよ」


「まあな、ハハッフハハハ。今キノコ汁温めてっからそれ飲んで我慢しな! すぐに下界だろ」


 茶尾は昨日現場に運んだ資材持ちの為に呼ばれただけなので本来は昨日の内に帰っていた筈だが、他の人達はこれからまた山に入って新河林業の持つ山間部の視察と手入れ確認が始まる。

 その為、茶尾は一日数本のバスで帰る事になっていた。



「では、先輩お先です。あの穴が何なのか解ったら教えて下さい」


「おお、アレな。滝さんが解かんねえってんだから、おっかねえモンじゃないと良いけどな」


 先輩が不安そうな顔を浮かべるのを見るのは初めてだったが、営業の茶尾には山の事情までは分らない。

 そうこうしている間に役場の人が迎えに来ていた。



「バス停でいいんですか? 駅までなら行けますよ」

「いえ、皆さんこれからまた山登るのに大変ですから」


「また来て下さい、今度は熊鍋食べましょう」

「はい、お腹空かして来ます」



 バス停に着くと滝が娘を見送りに来ていた。




――CHUNNTYUNNCHUNNTYUNN――




「あ、朝……」


 昨夜久々にゲームに興じた透子が窓からの陽射しに目を覚ますと、何とも言えない匂いが部屋を包んでいる事に気付き辺りを見回す。

 寝起きの涙で曇る目にキッチンで楓香が何かをしているのだけは判ったが、その匂いが味噌汁だとは思うが何かが違っている。


 楓香も寝不足が続いていたのか先に寝ていた筈だが、何時起きたのかとスマホの時計を確認すると既に十時を回っていた。

 慌てて起き上がるが、寝転がってゲームをしチャットする為にキーボードを手前に置いてモニターを見上げていたせいか首と肩が異様に重い。


 昨夜はログアウトまで起きていたが、警戒心から零の姿を確認しようとクローゼットを見るが、相変わらず朝は扉が閉まっている。

 安堵と同時に楓香の作る何かが違うだろう味噌汁の正体を確認しようとキッチンへ向かった。



「おはよ」

「あ、間に合わなかったぁ……」


「ん? サプライズだった? てか味噌……何コレ?」


 ミルクパンの中を覗いた透子は初めての料理に戸惑っていた。

 (いわし)の……缶詰めが流しに見えて納得したが、何故?



「ふむぅ……作ろうと思ってたのと違うんだけど何で?」


 楓香の質問に応えるまでもなくガス台の隣に置いてある、透子が貰って来たスーパーのサッカーにあったレシピ冊子を見て作ろうとしていたのは理解したが、缶詰め等とは何処にも書かれてはいない。


 いや、(いわし)とは何処に書かれているのか……

 タダで配布しているスーパーの簡略レシピに細かい絵や写真は無い。

 主婦や一人暮らしに毎日の献立にソコで売ってる商品で作れる物の立案程度に食材と調理工程が書いてあるだけだ。

 普段それなりでも生きる為にでも作っていれば何となく判るだろう物だが、初めての料理にこのレシピは中々に難しいのかもしれない。


 何故なのかは透子の推測通りなら……


「ひょっとして、このニボシって書いてある所、その缶詰め?」

「え、違うの?」


 透子はレシピに記載された食材部分を確認したが、レシピはベビーホタテを使った味噌汁だ。

 (いわし)は何処からかと考えればニボシの商品名に書かれているニボシ(カタクチイワシ)の文字だろう。

 レシピが置いてあったスーパーに売っている商品だ。

 疑問は解決したが、問題は味。


 酒のつまみに買っていた(いわし)の味噌煮缶……

 味噌汁に合わない事はない筈だが、二人は零が起きるのを待つ事にして、透子は御飯を炊く序でに、楓香に炊飯器の使い方を教えていた。





――PIPONN――


 丘元(おかもと)都議に関する資料が散乱する部屋で点いたままになっているパソコンにメールが入った。

 そのモニターにはゲームのチャットログが映っている。


 松駿

『あんな所に隠しダンジョンが在ったなんてスキニーさんありがとう一番乗りだったよ。』

 スキニー

『寝落ちです。すいません』


 松駿

『寝落ちかあ、今日は一緒にダンジョン探索しよう』

 スキニー

『今夜は寝かさないわよ』


 松駿

『いや、寝たのスキニーさんですよ』

 スキニー

『すいません。今夜は私も一緒にイクわ』


 松駿

『先ずは転送するんで、ここ迄来て下さい。』

 スキニー

『イク』


 松駿

『いや、ソコじゃないから』

 スキニー

『ココは?』


 松駿

『奥まで入って』

 スキニー

『入ってるう』


…………………………………………………………


 松駿

『今夜はここ迄にしよう』

 スキニー

『あら、打ち止め?』


 松駿

『今度はあの白い壁の所に行きましょう』

 スキニー

『イイわ』


 松駿

『おやすみなさい』

 スキニー

『私と寝たかったら夢から醒めてお(うち)においで。待ってるわ』


 


 汁物の奥深さは豊富な自然から


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