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57〜対峙の芽吹き〜

 謝罪とは罪を謝まる事。



――KACYAHNN!――


「ただいま……」


 贅税脂富(トミタ)の前で何度もチラ見し後ろ髪を引かれながらも何とか我慢し家に辿り着いた透子は、帰宅するなり呆気にとられていた。


 楓香は既に透子の図案を基本サイズにと計算を済ませ、ハンガーにかかっている完成させた一着には、描いた透子自身の想像力には無かった美的感覚が付け加えられている。

 女性らしさを魅せる曲線美や締める処を詰めた分に機能性を持たせる様なポケットやエアーフローと、楓香の才能が追加された服へと改善されていた。


 透子は何かを言いたいのにその何かを理解出来ず感動と困惑が重なった様で、動きたいのに動けない金縛りにあった状態のままに唯一動かせているのは、何処を指せば良いのか解らずぐるぐると廻っている人差し指を立てた右手だけだった。


 自身の表現した作品が他人に拠って改善される。

 音楽で云えば編曲された感覚だろうか、それは元が自分の作品だという認識が芽生えていた故。

 そして楓香の才能によって作品が商品として確立されたと、視覚では理解出来ていたが頭が追いつけず……


 透子の頭で感じていたのは先生に手伝って貰った学校の課題が表彰された様な感覚だ。



『…ひーほー、これがデザインだぜ…』


 そお言われてようやく自分の作品には足りない何かがあったと気付けたが、それを知らせたのが零だった故に納得のいかない怒りへと変わっていた。


「何よ、アンタが私の図案を求めたんでしょ!」

『…あ、…』


「忘れてたとでも言う気?」


『…ひほー、それより透子…』


 零が急に真剣な顔で耳元で話し始めるも最初は殆ど聞いていなかった透子だが、楓香の成長に関する話に、早い成長に問題が起こる可能性を危惧していたのは透子だけでなく零も同様に共通の感覚だったと知り耳を向けていた。


 しかし、頭を悩ます問題に答えは見つかる筈もなく。

 楓香は尚も服の製作に取り組んでいて透子が帰宅している事にも気付いていないかのよう。

 集中すると周りが見えなくなるのは、集中力が高い人に多い精神強者の特技ではあるが傍目に心配が生まれるのは必然。



 零と透子は見守るような想いと共に生活の知恵を何処で得ているのかと観察していた。

 それが透子も感じていた楓香に対する違和感の正体なのだと零の話で気付いてしまったのは、生みの親たる自覚なのかもしれない。



「あ、透子おかえり」

「うん、ただいま……」



 本人に直接聞いて確認すれば済むのかもしれないが、その答えが不安だった。

 さすがに学生ではない、頭の良い人の行動は知っている。

 先ずは信頼関係が確立されていなければ、相手にとって都合の悪い質問なら嘘を生み出させるキッカケになる。


 そして才能に溢れるその感性を潰しかねない事も理解していればこそ。



「楓香それ……」

「あ、ごめんね少し変えちゃった」


 そう言ってテヘぺろしている楓香に何を不安に感じているのかと、躊躇う理由が判らなくなった透子が思い切って切り出そうとするのを察した零が、反射的に透子の口を制止しようと咄嗟に顔に飛びついた。


「……いや、あんた、」

『…待て、気持ちは解るがまた早合点で事をややこしくする気か?…』


「……いや、それは、そうと……」

『…ひほ?…』


「顔からどいて」

『…お、ひーほー…』


 説得のつもりで飛び付いた零だが、顔にしがみ付いていたと気付き気不味そうに降りていく。

 傍目に寄生生物に襲われたかの様な状況からの解放は楓香の記憶、つまり透子の記憶に残っていたエイリアン映画の断片を引っ張り出したが、それが何なのかまでは理解出来ずも二人を怪しむ程度には楓香の目を細めさせていた。



「あのさ、私」


 楓香の方が思い切って話し始めたのを見て、それは違うと気付いた透子が零によって遅れていた口を出していた。



「違う、良いの。けど解らなくて、どうやって知ったのかを知りたかっただけ」



「ふむぅ……あの、何を言ってるの?」

「いや、え? ……何だろ?」


『…馬鹿が…』




「何を怪しんでいるのか知らないけど、透子と零の方がよっぽど怪しいからね!」


『…「ん?」…』



「私だって色々出来るんだからいちいち干渉しないでよ」



 そう、この言葉には聞き覚えがあった。

 それは、ほろ苦い記憶としてそっと閉じて蓋をしていた青臭いもの。


 二人が不安に感じていたのは自分達に芽生えていた親心なのだと、この楓香が放った反抗期の様な一言で理解させられ、自分達が急に老けた感覚と共に二人は互いの顔を見合い、子の成長に驚く夫婦のような共感覚に嫌悪し悔しがり這いつくばっていた。


――OEEEEEEEOEEEEEEE――


「それは何なの?」


『…「ごめんなさい」…』



 結局二人は今、子供の考えを尊重する事を決めた親心に変わっていただけと気付くと更に自分達が親に放っていた過去の暴言を思い出し、恥ずかしさに顔を隠そうと突っ伏する。


 あれだけ親に自立心の主張を繰り返し、何故理解出来ないのかと憮然とした顔で言い放っていた自分達が、目の前にある成長を疑っていた反省ばかりを浮かべ悔いていた。が、それと同時に……




「あの、二人共ふざけてないで手伝ってくれない?」



 一番の大人は楓香かもしれないと……


『…「ごめんなさい」…』



「いや、手伝ってよ」

『…「ごめんなさい」…』


「ひょっとして手伝いたくないだけなんじゃ……」

『…「ごめんなさい」…』



「そこ、邪魔」

『…「ごめんなさい」…』


「……今日も元気に」

『…「ごめんなさい」…』



「今日の夕飯は」

『…「ごめんなさい」…』


「え?」

『…え?…』

「あれ?」


 


 謝まりが罪な事もある。


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