53〜対峙の芽吹き〜
張り手はハッタリの手に
楓香がコピー用紙を使い、図案を見ては紙に何かをメモして貼り付けていく。
元々はぽっちゃり界隈をターゲットにした……いや、透子のサイズそのままに書かれたサイズ表だ。
当然仕立て直しの基本サイズを必要としていた。
しかし、その計算をあまりにも早い暗算でしている事に気付いたのは透子だった。
最初は何をしているのかも解らずただボけぇっと見ていたが、裁縫に関する記憶は楓香が何をしているのかを理解させた。
理解したからこそ驚いた。
テキストの中に計算の公式的な物はあったが計算そのものの早さが異常な事に、まるでパソコンの様だと思う透子の目の前では零がコマンド打ち……
予想外に天才クラスの中に入ってしまった凡人の様に、自分だけ浮いているのか取り残されているのかと少し不安な気持ちを抱いたのをキッカケに、思い出したナグルトから貰った心得的な資料に目を通し始めていた。
透子は免許証はあるが敢えて自転車を選択していた。
三輪にしても良かったが、保険の切り替えや運転に不安を感じたからだった。
自転車も問題無く乗れる運動神経はあるが事故例を聞いて不安になっていた。
そして、子供の頃に見てしまった自動車事故の後始末のトラウマを呼び覚まされていた。
都市部に住んでいる限りは車もバイクも必要としない気ままな一人暮らしをしていた事と営業でも与えて貰えなかった事もあるが、一番はナグルト自転車へのレジェンド感だった。
あの運動労力であの笑顔、強く凛々しく優しい笑顔にヒーローへの憧れに近いものを感じていた。
そして……
太っていた頃に出来なかった自転車への思いが詰まっている。
「あ、カッパ買わなきゃ。あれ? 結構自費で必要な物あるなぁ……」
――KATAKATAKATA――
――KAKIKOKAKIKO――
〈……何だろう、ここ私の家だよね……〉
一人暮らしの時には感じなかった寂しさを急に感じ出した透子は、考えを改め一人そっと買い物に出ようと着替えていた。
「ちょっと仕事に必要な物買いに行ってくるぅ」
――KATAKATAKATA――
――KAKIKOKAKIKO――
――KACYAHNN!――
『…ひほ?…』
「ん?」
透子は二人の邪魔をしないようにと静かに出て行った。
ホンキドウテーに向かい歩く中で一人の時間に気付くと急に先程までの寂しさは何だったのかも解らなくなる程に優雅で贅沢な時間に感じられてきた。
〈あれ? いや、天才処かそもそもアレ片方は人ですら無いわ〉
何となく腹が立った透子が張り手の様に憂さを晴らす。
が、やはり太っていた頃のように重さが乗らない。
〈あれは体重あっての……あれ? 横に撃つから反動が……なら上に向けて撃てば反動は足元に……そうよお相撲さんだって練習の映像で張り手は上に……〉
――GARARAANN――
「ご馳走さまでしたぁ」
「また来まぁす」
「絶対ですよ鈴木さん」
「え、はい」
「いや、何それ」
「何よ?」
「やっぱり」
「「違います!」」
鈴木は藤真と茶尾に親類の実家の裏山の木の件で相談していた折に富士山パスタのルートメニューやグランプリの話になり、
それは知らなかったと前回の来店に至った旨を精算の折に亜子に話した事で、鈴木が幼い頃から富士山パスタに何度も来ていたと知った亜子は驚き過去の記憶をほじくり返し苦悩していた。
それを見ていた藤真も木の相談まで知らなかったが、藤は店の専務だけあって顔程度は知っていた事を知る。
そこで、藤真は次期オーナーを気取り調子に乗って知ったように放った一言で亜子は荒れていた。
「そりゃ地元なんだから当たり前だな」
「いや、私が顔を覚えてないみたいに言わないでくれる」
「何で亜子まで?」
「五月蝿いな馬鹿トーシン」
「何で二重顎に馬鹿呼ばわりされなきゃいけないんだよ」
「誰が二重顎だってぇ」
「やっぱり二人は、」
「「何処が!」」
そして先程に戻る、二人を見送り店に戻った亜子はまた過去の記憶に鈴木の顔を探していたが、探す過去の記憶はいつの間にか鈴木だらけになっていた。
恋は記憶も歪める程に熱い気持ちを心に灯す。
亜子の恋の炎は心を燃やす。火遊び厳禁、火気注意。
「何かすいません、亜子のヤツ急に可笑しくなってて」
「いえ、面白いから全然良いんですけど」
「あああ、そうですか。まあ今後アッチの件は何かあったら僕が守りますんで任せて下さい」
「はい、よろしくお願いします」
「あれ? あの頭……」
藤真は先程の鈴木の話で透子に対して思い違いをしていた事に気付き闘志を燃やしていた折の出会い頭。
自分の気持ちを伝えようと鈴木にここで待っていてもらうように告げ十数メートルか走り寄った。
「ファット! 俺が間違ってた。これからはお前に離されない様にもっともっと頑張るからさ! 追いついてみせるから、それまで待っててくれ!」
鈴木は何か違うと感じつつも周りの人達が聞いて感じたソレと同様の意味合いにしか聞こえない藤真のセリフに、藤真は亜子が好きなのかと思い後押しにお似合いと言っていたがとんだ思い違いだと気が付いた。
が、瞬間だった。
「どすこぉおおおいっ!」
「ぐふぉッ」
――DOTTEEEEENN――
鈴木の脇に藤真が降ってきた。
「よしっ! コレだ」
何がよしか分からないが、そんな捨て台詞を吐き透子は去って行った。
そして五メートル程吹っ飛ばされた藤真が起き上がると周りの人から、頑張れと応援する声と、次があるさと情けをかける声に、藤真は自分の声援と捉え
「頑張ります」
と、上を向き立ち上がっていた。
何かに気付いてしまった鈴木の不安を他所に……
対マンはったらはっ倒された。




