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51〜対峙の芽吹き〜

 住処は何処か……



「ええ、不破透子は既に床鍋の手の中に……ここにはもう他の人間が入っている様で名前も無くなってまして……」


 電話の受け答えに頭を下げるスーツの男は透子のアパートを後にし駅前の路地にいた。

 電話の相手の声が濁ると同時にオフィスの電話の着信音が鳴り響き男の通話は切られていたようで、切れた電話を見つめ確認していた。


 近くを通るガタイの良い連中が透子の名前に瞬間的に反応したものの、誰の名前だったかと記憶に乏しく過ぎて行った。

 店で透子と呼ぶのは贅税脂富(トミタ)の店主だけで、筋肉猛者の中での通り名は牛魔王なのだから当然だった。




「藤さん、その話だがもしかすると今コッチで追ってるのと重なるかもしれねえんだ。ちょっと様子見させてくれねぇか?」


 山谷不動産の少し耳が遠くなった会長の部屋に折り返しでかかって来た電話の相手の声が耳にあてた受話機からも洩れ響いていた。



「様子見ってどん位よ、月か年か」

「うぅぅぅぅん年からかもしれん」 


 藤は二瓶の曖昧な返事には覚えがあった。それも苦い記憶として。



「細井の二の舞はもう見たくねぇぞ。またアイツが絡んでんのか?」

「あああ名前は口にすんなよ!」



「言ってねえ! でも何で? 調べた感じソッチ系には無関係だぞ」


「ああ、アレには直接関係無えけど関係ある奴に巻き込まれてる可能性が高い」


「……参ったな、とりあえず真に張る様には言ったけど、もしもん時は頼むぞ」


「ああ、わかってる」



 電話を切るとすぐに藤は鈴木の話を纏めた資料から社の住人帳と照らし合わせ何かに気付き、棚から別の資料を取り出しその何かを確認し出していた。








長林製菓(ながばやしせいか)執務室】

 高足がトイレから戻ると沢抹(さわまつ)が目でテーブルの包と高足を見やり運べと指図する。


 高足が確認しようと遠藤等を見るが誰も応対は無い、一人でという事だ。


 高足がトイレで遅れたのは、車から出て先にトイレに行った遠藤が長く遅れたからだ。高足は遠藤を軽く睨みつけ包みを持ち上げると相手方の女性が紙袋を用意し中へと入れた。


 中身は当然金だ。それも献金とは別の跡の着かない金。



「ほう、あちらの国で訴えられましたか、その情報を隠せば良いのですか? それなら煙草叩きで対応出来るな、な?」


「ハイ、でしたら、そちらで売りたい商品等がございましたら、そちらを健康に良い物として対照的に扱わせれば尚効果が上がるかと存じますが、如何がなされますか?」



 沢抹の取り巻きの一人、音岳(おとたけ)は博覧会でも動いていた有名な広告代理店の豊銅箔(ほうどうはく)上がりの男だった。


「これはウチの肝ですよ、メディアは結局こう言うのが(おさ)えてるんです、金をただ払うんじゃ税金みたいな……私が言うのは可笑しいですがね? うふふふ」



 持ち上げる長林製菓の上層部に一人何食わぬ顔で物怖じせずに暇そうにしていた女性は庶務課の秋絵だった。

 沢抹が怪訝そうに見やるのに気付き上層部の一人が慌てて切り出す



「こちらウチの……いや、あの、阿片(あへん)議員の……」


 そこまで聞いて理解したのか急に態度が変わった沢抹が握手を求め頭を下げていたが、目はその先の利益を確定させようと欲に満ちている。


 一番奥の窓側にいた遠藤は体をひねり胸ポケットのカメラで秋絵を捕えていた。



――ZIIIIIIIII――



「あ、ちょっと」


 佐藤家で福山や久美達の怒号が恨みの先の犯行に悦にいき薄ら笑いを浮かべた頃合いで喪積(もつ)はトイレと称して席を立ち家のアチコチを確認し新たな盗撮盗聴機器等々を仕掛け、胡唆(うさ)から聞いていた通りに手際よく古い機器を取り外し戻っていた。



「それじゃ」


 そう切り出すと皆解散し各々の家へと戻って行く中、胡唆が新たな盗聴器等の信号を確認したのか喪積の電話が鳴り足早に歩きながら受け準備万端と笑っていた。


 その後ろを少し離れ男が追っている。


 スーパーで透子に当たった二人だが男の服は少し変わるもやはり目立たぬ格好だった。

 しかし喪積がすぐに同じ通りの胡唆の家に入ったのを見て男は表札を視認し通過してやり過ごす。

 喪積が気付いていたのか胡唆からの知らせかは判らないが、男は警戒心を高め、より慎重に行動する事を余儀なくされた。



「多分、佐藤だな。三太(みた)確認」



 胡唆の家の中に入り部屋で監視モニターを確認する喪積が男の追跡を確認し、画像を何処かへ転送しながら薄ら笑いを浮かべるとモニターは誰も居ない筈の鈴木の部屋に切り替わっていた。そして、佐藤・松田・福山・等々と書かれていた設定を次々と削除していく。







【天扉岩地区】

 熊に襲われた家の灯りに揺れる影が複数あった。そして一人で棲む家から言い争う男の声も漏れ出していたがテレビの音が上がりかき消えた。

 それを通りすがり見ていた女は家に帰ると母親に会って第一声


「今スガオ帰ってんな。母さんスガオの女見たか?」


「知らね、スガオも心配になって今日は帰って来たか?」

「何が?」


「熊、スガちゃん所に出たって今朝から婆ちゃん達騒いで、包丁投げたとかで父ちゃんも出てったっきり今日は新河さん所の案内で役場の人達と手負い対策に猟銃持ってんのと、そんでまた管理棟で山菜きのこで呑んでるわ」



 女はたまたま集落に顔を出しに戻って来ていた滝の娘だった。


 


 主役は何処か……

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