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50〜対峙の芽吹き〜

 侍みるか武士道通すか



「中学までですけど」

「ああ、一緒です」


「じゃあ試合で会ってたかもしれませんね」

「え? あ、藤君もこの地区ですか」



 駅を挟んで市の境界になっているこの町で、鈴木は藤真の家が駅を挟んだ会社側だと思っていた。

 それはつまり前回会った同級生つまり透子もすぐ近くに居たと考えたが高校や大学の同級生の可能性もあると思い確認しようとするが、先に藤真が聞いてきた。


「何処ですか?」

「え? 中学ですか?」

「いえ道場」



 学区は不動産業なので理解している、藤真が気になっていたのは鈴木の所属道場の事だ。

 透子達と通っていた剣道で最後まで残っていた藤真だったが、透子が辞めた理由こそが藤真が残った理由でその理由はとある道場が原因だった。


 藤真は話を進めるにあたり鈴木がその道場では無い事を期待し確認していた。



「ぃゃぁ子供がメインの連盟か何かで、夜間に学校の体育館を借りてたんで時に曜日によっては他の学校の道場にも顔を出してもありっていう自分でもシステムがよく解らないままに習ってまして……」


「ああ、じゃ一緒ですよ学校違いですかね。どっかで会ってたかもしれませんよ」


「おお、こんな偶然あるんですね、やっぱ狭いな日本」



 ほっとした藤真は当時は頑なに成り過ぎて聞けなかった事を鈴木に聞いてみようと思うが躊躇し、ほんの瞬間だけ間が空いたのを鈴木は見逃さず気取っていた。

 周りが良く見える気遣いタイプに多い勘も感も良い人なのだろう、故に素直に口にしてきた。


「何か、無理はしないで下さいね」

「あ、いえ、鈴木さんは強かったんですか?」


 藤は呆気無く気取られ焦り、躊躇した質問に繋げる質問を口にしていた。

 聞けば鈴木は試合に二度出たが三回戦負けだったとの話しだったが、敗戦話に悔しさを思い出し残っていた記憶を話してくれていた。

 おそらく藤真の何かに気を遣っての事だろう。


 鈴木は自身の素早しっこさを武器に小手・胴を決め走り抜ける際に旗が挙がったのが視線に入るも気を抜かず振り返ると、相手が竹刀(しない)を落としていて、待てで取り直しになりアレ? と思うも仕切り直し、今度は相手からの面を反らし面を討ち戻り際に小手を決めたが、またも相手が竹刀を落とし待て。


 流石に戸惑いがあったが次こそはと面の相討ちになったと旗が上がり相手の一本勝ちになり負けたと。



 それを聞いた藤真は確信した。


「その相手って警察道場じゃないですか?」



 鈴木は思い返してそうかもしれないと記憶を辿り、やがて記憶に行き着いたのか確定した解答が返って来た。



「そうそう、そうです。何かその試合の前に集団で来てチビが調子にのんなよとか言われて……まぁ、俺そんな事言われても知らねえよ! って我が道タイプだったんで結局普通に試合して、そうかそれで記憶に残ってたんだ」


 鈴木のあっけらかんとした性格を垣間見た藤真は笑って肩の力が抜けていた。

 そして、自身が当時苦悩した答えを鈴木は持っている事に気が付き教えて貰おうと口を開いていた。




「あいつ等の卑怯なやり口に腹たたなかったんですか?」



「うぅぅぅん、ぃゃ悔しさはありましたよ」

「やっぱり」


「でも、相手の荒い剣筋というか滅茶苦茶な振り方でも一本なんだって初めて気付かされたというか、剣道だけど竹刀なんで当たれば良いのなら棒道かよって思った記憶がありますね。その後、頭に暴動とか出て来て有耶無耶に」



 藤真の思っていた答えとは掛け離れ過ぎていたが、鈴木はその性格で凌いだのかと思い納得もした。


 しかし、鈴木が更に思い出した話を聞いて心が揺れた。



「あれ? そういえば……なんか同じ事されて怒ってた女の子がいて、注意されて……何だっけなぁ、武士道精神に反するとか何とか言われてて」



「それ! ファットです!」




 藤真の苦悩した理由だ。


 透子が相手の卑怯な行為に腹を立て、正々堂々勝負しろ! と、言い放ち場内がざわつくと相手の師範が出て来て武士道精神を学ばせていないのかと豪語し指導者の責任を問いだした。


 挙句、透子には自身の技術の無さを棚に上げて相手に文句を言うとは貴様こそ卑怯者だと断罪し、透子は失格となりその後は悔しさを滲ませながらも練習に打ち込んでいたが、ある事件に触れ透子は辞めていった。


 そしてそれを見ていた藤真は返す言葉ばかりが浮かび口にするも、それは先生にも痛く響くがどうする事も出来ない大人の無情な社会の縮図を見せつけられるだけだった。




「そっか、あれ、この前の子だったんだ。あの時凄いスカッとしたんですよね。思わずそうだ! って口滑らしてあいつらにまた睨まれて……ヤベ、って感じで。そしたら武士道精神がどうのって」



「やっぱそうですよね俺もムカついて」



 藤真はついに共感して話せる相手を見つけたと喜んでいた。



「いや、でもあの女の子、いや藤君の同級生は、眼が」


「え、目?」


「眼が、勝ってたというか、何か相手の指導者みたいなのがギャーギャー言って周りの大人達の立場利用して言いたい放題言ってたのも意に介さずに芯が座った感じで、そのペラペラな(うそぶ)くクソみたいな男のこ汚い心を見透かしているかの如くに(さげす)んだ眼で見つめてて格好良かったんですよねぇ……」





 あの時、藤真は透子の後ろから見ていて透子の顔は疎か、眼など当然見えてはいなかった。


 初めて知った事実に自身の見解が間違っていた事に気が付かされ、透子が辞めた理由は自分が思っていたものではない事に気が付いた。


 そして透子に負けている自分に。



「鈴木さん……ありがとうございます」


「は?」



――BAAAAAANN――


「あ、ごめんなさぁい」

「痛ってぇ、何すんだよ亜子」


「こんな所に頭があるとは思わなくって、まぁ空のトレイだから汚れ無くて良かった良かった」



「夫婦漫才みたいですね」

「「何処が!」」


「……そこ」




 亜子は藤真の、ファットです! から近くのテーブルを片付けていて会話を聞いていた。


 透子の格好良さを想起させた挙句にありがとうとは何事か!


 と、お前は透子とくっつくんだろうがライバル作ってどうすんだ!


 挙句に私の恋敵作ってんじゃねえぞこのバカトーシンが!


 という想いの詰まった重い一撃だった。




「すいません、鈴木さん。いや、嘘吐き共を一網打尽にしてやりましょう」


「ええ、でもその頭大丈夫ですか?」


「馬鹿にしないで下さい」

「あ、いや、そういう意味では無くて」




 透子の心眼にようやく辿り着き触れた気がした藤真の心に鈴木の言葉が混ざり


〈ペラペラな(うそぶ)くクソみたいな連中は打倒してやる!〉


 と漁火(いさりび)(とも)っていた。




――BOKKOBOKO――


「あれ?……」


 亜子はレジカウンター裏の零を殴りながら会話を思い出して鈴木が地元の人間だと気が付き、心なしか少し近付いた気になっていた。

 届かぬ想いは難破船、横風に揺られて漂着すれば我が港。恋船の中に想い人はいるのでしょうか?


 


 大漁旗を出して戻れる事を願って。


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