49〜嘘の使い道〜
劣と悪が混ざる醜さにたいじする者は
「大の犬嫌いなんだって」
「それで福山さんにあんな事を」
「元々可笑しいって話よ飯田さんバス停で中指立てられた挙げ句に自転車で撥ねられそうになったって」
「まぁ、なんか胡唆さんずっと煙に悩まされてたとかって」
「あら、でも松田さんは別の事で」
「何とかGo! で夜中に徘徊して」
「日本人じゃないって」
「万引きの常習犯だって」
胡唆や喪積がアチコチにばら撒いていた嘘は方方に広がり別々の嘘が当たるとお互いを膨らませ更に巨大な嘘へと変貌していった。
A・B・C・Dの嘘をバラバラに別の人に吐くとどうなるか
1、Aの嘘を持つ人がBの嘘を持つ人に会いこの二人はAとBを足してABxの嘘を持つ。
2、Bの嘘を持つ人がCの嘘を持つ人に会いこの二人はBとCを足してBCxの嘘を持つ。
3,Bの嘘を持つ人がADxの嘘を持つ人に会いこの二人はBとADxを足してBADxxの嘘を持つ。
それが更に
4、ABxの嘘を持つ人がBCxの嘘を持つ人に会いこの二人はABxBCxを足してABxBCxxの嘘を持つ。
そして、風雪の流布が真実に成り代わり、真実が消える瞬間が
5、A・B・C・Dいづれかの嘘を持つ人がABxACxADxxxx・ACxBDxCAxxx等の嘘を持つ人に会った時、嘘は他人の確認を経て真実とみなされる。
すると嘘を否定し真実を証明しても次なる嘘で真実が嘘から作られた偽の真実で否定されてしまう。
そうして多数の嘘はネズミ講と同様に倍々で増殖し本人への確認も無しに真実を覆い隠し、聞いた者も知らず知らずに嘘を吐いた卑怯者に加担する事になる。
それも正義面で……
それこそが嘘も方便であり、真実に嘘を混ぜアチコチにばら撒く巧妙な嘘で真実を覆い隠す、最も卑劣で醜悪な犯罪行為である愚劣な嘘の使い道だといえよう。
近年のいじめや透子も受けた追い出し部屋もこの類だ。
嘘を隠すなら大きな嘘の中に……
それを胡唆は得意としていた。
それ故に学者としての地位を欲すれば、院生の研究を奪い特許者に名を刻む事などぞうさもない事だった。
――KUSOGA!――
毎夜の夜間勤務で疲れ電車のない時間の通勤に自転車で通い午前様で帰宅していた鈴木が、その嘘の恐ろしさを知るまでにはそう時間はかからなかった。
そして疲れた体に胡唆の卑怯な何かをされて体を壊され仕事を休まざるを得ない状態にまでなっていた折の境界線詐欺。
そこで藤真と出会った。
――PURURURURURURU――
「あ、電話どうぞ出て下さい」
鈴木の言葉に甘え、スマホを取ったが仕事の電話では無く気が緩む藤真
「どした? チャっビー」
「真ごめん、今日は行けそうもないや」
「あ、……ごめん。でも、大丈夫。今、鈴木さんと来てるから」
「え? いや大丈夫って、ひょっとして忘れてた? 天扉岩で山に入ってお腹空くから夕飯にって」
気不味い顔の藤真は、スマホから洩れる茶尾の声を聞き目の前でやはり気不味い顔になっている鈴木を見て目が泳いでいた。
「あああ、天扉岩といえば、帰りに豆腐買ってきてくれよ! 頼んだぜ」
「は? いや……」
――PIPU――
「え、切ったんですか?」
「ん? あれ? あれえ?」
【天扉岩地区】
「おぉぉぉおい……」
「どした? 切れたか? ここまで来れば大抵繋がっけど最近また下の方で変な電波塔建ててっからソレかもな」
「いえ、切られまして……」
「女か? 悪いなデートだったか……」
山を降りてきた皆が天扉岩の管理棟で山菜の天麩羅とキノコ汁を作っている中、茶尾は役場の人の車で少し開けた電波の繋がる集落に乗せて来て貰っていた。
「違います友人です。すみませんワザワザ」
「いやコッチこそ、最近また急に電波繋がらなくなったもんで、じゃ戻って山の幸頂きましょう丁度出来上がってるんじゃないかな」
「すみません食べるだけになってしまって」
「茶尾さんデカイから足りないかもね、へへへ」
そう言い車に乗ると周囲の家の明かりと共に家の裏に押し寄せる圧倒的な暗闇を齎す山に恐怖を覚えたのか先の穴が気になり茶尾は聞いてみた。
「この辺りにも熊とか出るんですか?」
「出るよ、つい昨日出たって話だ。ホレそこの家」
そう役場の人が指した家は古くから在りそうな木造平屋建ての蔵付きの家だった。
「今朝、仲良しの婆ちゃん連中が慌てて電話かけて来てからによ、スガちゃんの家の前に血が垂れてるって、んで行ったら蔵に熊出て威嚇で包丁投げたって、危ねえからヤメろって皆で言ってな、だぁ今この山には手負いの熊がいんのよ」
「あ、じゃぁ、それで猟銃持ちの人達が付き添ってくれてたんですか」
「そ、まぁあの辺は普段から出るかな。普通は大の大人が六人も居りゃぁ来ねえけど手負いは判んねえかんな。何、茶尾さんは熊鍋が食いてえか?」
「食べる気ですか」
そう笑いながら管理棟に戻ると皆が天麩羅やキノコ汁を食べて呑んでいたのを見て、車から飛び出し茶尾さん遅かったわあ! と、叫ばれて茶尾は食べるだけを狙っていたと思われ弄られ捲って此処で夜を明かす覚悟をしていた。
――BATAANN!GATYA――
スポーツジムの前で路駐し鍵をかけトラックから出て来た配達員にスーツの男が道を尋ねていた。
「ああ、これ例の」
「知ってますか?」
「あれだ何とかってプロレスの、おい何だっけお前この前ここ行ったろ」
「あぁ有名なレスラーの事務所みたいですよ若い事務員さんが出て来たんでまだ何処かで活動中なんじゃないっすかね」
「ひょっとしてファンか何か? ヤメてくれよ、俺等から聞いたとか」
「大丈夫、違うから」
「この裏のアパートですよ」
「ああ、ありがと、若い事務員さんって太ってた?」
「何、そっち? 勘弁してくれよ」
「いや、娘なんだ」
「あ、これは失礼しました。最初からそお言ってくれれば」
「大丈夫、太ってませんよスッキリしてました」
そう聞いてアパートの前まで戻ると男は頭を掻き苦悩しながら何処かへ電話をかけ報告していた。
情報は間違いだと……
A・B・C殺人ではありません。Dがありますでしょ。




