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48〜嘘の使い道〜

 そこは植林するか不毛のちか



天扉岩(あまのといわ)地区山間部】


「此処らは高度成長期の国の政策で植林された売れない杉だらけだったんですけどね、腹石(はらいし)知事の時に花粉症対策で花粉が出ない杉に植え替えるってなって放置杉も伐採してくれたもんで……」


「ええ、知ってます、でも今度の知事さんが環境がどうのと言っておいて予算を下げてたとかって」


「そおなんだよあの厚顔、NPOがどうの言って知らねえ間にこっちの予算あっちに入れ換えてやがったんだよアレ後援団体絡んでるとかでよお……」



 茶尾は新河林業の営業部だが山間部の手入れ状況の視察に資材持ちの人出が足りないからと若さを買われ連れ出されていた。


 が、巨漢が故か人柄か林道整備の町役場関係者から三十代辺りの扱いをされ気に入られ、営業で話すより気楽に感じていた茶尾は楽しそうに長い話しを聞きながら下山していた。



「おぉぉぉい! (たき)さん、ちょっと来てくれ!」


 新河の先輩が何かを見つけたらしく確認の為に同行していた役場の人間と共に、この山を知り尽くす滝を手招きして呼んでいた。


 滝は話を切りあっという間に茶尾の前から消えて、どうやって進んだのかもう先輩の所に着いて確認していた。

 流石の身のこなしは普段から林道整備で伐採や熊との遭遇に気を引き締め手早く作業を済ませているだけあって歳は六十辺りか、若さで呼ばれている茶尾の方が介助が必要な程だった。



「いや、これは熊じゃねぇ!」

「じゃあ猪とか?」


「いやいやいやいや、こんな深く広く掘る様なもん見た事ねえぞ」


 茶尾が息を荒らし追い付くと 同時に荷を降ろした。

 汗を拭い皆の輪の中を覗くと不自然な枯れ葉で覆われた二メートル大の荒れ崩れた穴があった。

 冷蔵庫やソファ等の不法投棄か何かに掘った穴にしては余りにも山の高度が高すぎる。




 実際、昔エコを(うた)った環境大臣が【もったいない】と言いながら家電や自動車やの企業に媚びポイントで買い替え需要を促す政策をうった結果、大量の廃棄物を産みゴミの処理が追いつかず、隙間産業や詐欺の利益団体やが横行し安く引き取っては海川山に田舎の森や林や田んぼに畑にと、終いには住宅街にまで不法投棄され出し社会問題になって以来現在に至っても尚横行している。



 川や林道脇に車が捨てられている事も多く油が環境問題を引き起こし飲料水の問題にも影を落とし始めている。

 地元の滝がそれを見ても不法投棄とは思えぬ穴に一同困惑していた。


 林業における山の管理にも支障が出かねない大穴は安全を脅かす。

 写真を撮り後日確認として茶尾はGPSキーロガーで位置を記録していた。




「ヒグマがコッチまで来たとは思えねえけどアッチの熊は餌にしたら人でも埋めるって話しはあるな、判んねえけど陽暮れっからとっとと帰んべ」


「あ、コレしまって……え、早いですよ! ちょ、ちょっと待って下さいよ滝さぁぁぁん」



 滝達の冗談めいた逃げっぷりに、慌てて茶尾が荷物を持ち上げ追いかけていく。


 その荷物を置いていた枯れ葉の下で夕陽に照らされ光る金属の輪っかには赤い何かが付いていた。




「うそうそ、ゆっくり来い、コケると危ねえからよ。うはははははは」


 そお言って滝達はキノコと山菜を採って待っていた。






――PIPIPIGAGAGAGAAAAAGAGA――



『…ひほコレ、切って挿し替えとけ…』


 零から渡され、いや腕でプリンターを指されただけだが、プリントアウトしたのは表札用の名前だった。【小出】【GUTsASH】と……



「あれ? これ、どっちをどっちにすんの?」

『…ひほ?…どっちもなにも、お前は小出になるのか?…』


「ガツアシュ、変な外人の家みたい」



「……いや、私の家ょ」




 透子は渋々切り取っていた。


――UMUUUUUUUU――


 楓香に言われプレートに書かれたソレが見れば見る程変な外人の家に見えてきて何か納得のいかない透子が扉の外で腕を組み唸っていた。



「あの、それは?」

「元のプレート」


 透子が手に持つそれには【不和闘魂】と書かれていた。

 あの時の配達の男の妙な間の原因がコレかもしれないと楓香は理解し直し、透子のデザインを肯定しようと必死にあの時見えなかった配達員の記憶と闘っていた。



「やば、人来た」


 透子は写真を撮った後、商品なんだからとっとと脱げ! と、零に言われ渋々ながら即脱いでTシャツワンピ状態だった。

 アパートの通路だからと油断して出ていたが階段辺りの人の影に気付き慌てて楓香と中へ戻った。




――KATUKATUKATUKATUKATU――


「どういう事だ?」



 階段から来たスーツの男が【GUTsASH】の扉の前で口に手を当て理解に苦しんでいた。

 奥に進み【小出】を見て更に苦悶の表情に変わり首の後ろを掻き毟っていると何処かの部屋の住人が階段を上がって来たのを見て素知らぬ素振りでアパートを後にした。





――KATAKATAKATA――



『…ひ、ほ、それ、お前…』


「あぁ、元のプレート」



 零は過去に届かなかった通販に合点がイッた。

 と、同時に腹が立っていた。


 不和闘魂に不破誠を笑われた事に。


 そして今、必死に解析しているこの女のセンスの不毛さに……

 呆れと怒りが同時に襲う中で零は閃いた。


 いや、最初から必要だったと思い、怒りを抑え商品の卸問屋を探して検索を始めていた。


――KATAKATAKATA――



「なによ、不和闘魂(ふわとうこん)、女の一人暮らしには危険が多いんだからコレ位は普通でしょ」



 宅配業者の間で透子の家はプロレス関係の家だと思われていた。


 


 ボンバイェエエエエエ!ですわ。

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