47〜嘘の使い道〜
お披露目と陽の目は遠く……
――KAAAAAHOOOOKAAA――
「すいません何か面倒に巻き込んじゃったみたいで」
藤真は鈴木を送りがてら富士山パスタに誘い向かっていた。
気を遣う鈴木に照れ笑う藤真は以前にも似た事があった経緯から気遣いは無用な事をどう説明するか考えていた。
「いえ、だってこんな厄介な奴等が町でのさばってるなんてウチとしても看過出来ませんから、他にも何かやられてないですか?」
「まぁ、あの爺さん昔小学生の俺を部屋に誘って来た事があって、気持ち悪いからヤダ! って断ったんですけどそれ以降何か恨みぶしというか……」
「あぁぁ、鈴木さんの顔だと確かに」
「え? いや、それ以外にも風呂に入ってたウチの母親を覗いていた胡唆がウチから逃げ出すのを剣道帰りに目撃してしまって、
その後も俺が入ってる時に間違えたのか外で物音がしたりで確認に出てみたりしてたんですけどコッチが可笑しい人に見られてもなんなんで何年か前まで玄関で煙草吸って見張ったりしてて、それが効いたか覗きは無くなったと思ってたんですけど……
ひょっとして、それで欲求不満にでもなってたんですかねぇ」
「いえ、それ冗談じゃなく可能性ありますよ、犯罪者の起因なんて本当に自分勝手な理由で平然と嘘吐きますから」
「そうなんですか? 知らなかったぁ、本当助かります」
藤真が警察案件に詳しくなった経緯は山谷不動産の仕事だけではなく、過去に学ぶ必要を感じて会長を頼り就職した。
何故警察学校に行かなかったのかも含めて理由はその過去にあった。
「こちらこそコッチの都合で先延ばしにしてしまって、すいません勝負なもので」
「この前言ってた登山勝負ですよね」
そう【富士山グランプリ】名前は盛大なレースを想起させるがただの大食いパーティーだ。
その日はコースメニューのみにする事で廃棄食材の心配を無くし暴飲暴食を楽しみチャレンジする者や喧騒の中に居たい者、そして商工会の宴会と様々な人達が参加する催し物に透子と真のオーナー権争奪ゲームがあった。
――GARARAANN――
「いらっしゃあぁぁぁトーシンか」
「いや俺、客だろ」
「はいはい、いつもの席へご勝手に」
――GARARAANN――
「いらっしゃぁあああ鈴木さん!」
「あ、どうも」
「おい!」
「何、鈴木さんはコッチのカウンター席とかどうですか?」
「今日は山谷の看板背負ってんだよ」
「えぇぇ、鈴木さん飽きたら手を挙げて下さいね、スグ席変えますから」
「どういう意味だ」
「ふん」
「仲良いですね」
「「何処が!」」
「……そこ」
固まる二人は沈黙しお互いの仕事に戻った。
いつもの席につくと今後の話を進めだした藤真を横目に、亜子はレジ下の零君人形に八つ当たりしていた。
――BOKKOBOKO――
『…ひっほ、これ、ぽっちゃり関係無ぇだろ…』
零は気が付いた、オークションに出した服は今の透子に合わせて楓香が直した物だと。
それはつまり楓香が作る服、いや透子のデザインのターゲットになる客層は、ぽっちゃり界隈ではなく透子と同じ……
機能性と利便性そして多様性と汎用性をも履き違え色合わせは色物の……
ファションセンスとは無縁の独自路線と言い張るあのタイプ界隈じゃないのかと。
カードを透子から取り返し慎重に確認する事にした零が楓香に残りの生地でぽっちゃりサイズの服が幾つ出来るかを問い、更に平均サイズでの場合の数も問う。
それは生産性では無く採算性の確認と客層の確認に必要な情報だ。
――KATAKATAKATA――
「え、それ変えちゃうの?」
零が個人販売サイトのデザインを書き変えては確認の為に表示するのを見ていた透子が反応していた。
ぽっちゃり界隈をイメージして女性よりも女性らしさを強調する様なフェミニンなデザインから、利便性に特化した無骨なデザインに変化していった。
理由は明らかに……
透子がネットの通販サイトを見ていた履歴を確認した零は、自分の解析が間違っていた事を理解したからだ。
この服を買うような透子と同じこのタイプは決してフェミニンなものなど求めてはいない。
そして何より履歴で明らかになった事がある。
透子のデザインはハードワークな職人や、自転車で遠出したり買い物に行く人達の自作グッズや携行品に登山飯好きのブログやらを参考に、それ等を服に取り込んでいたのだから。
ターゲットにすべきはぽっちゃり界隈ではない事と同時に今回オークションでアレを買った人の特徴が気になっていた。
どんな女なのかと……
そして、この【GUTs ASH】の先行きの不安を。
「さっきのもったいないから、あれはあれで私のブログにしてよ」
『…ひほ、それこそお前なんかにもったいなくて使えるか!…』
――KATAKATAKATA――
「おまたせしました、こちら鈴木さんのナポリタンです。あと、しょうゆしめじあさり」
「いただきます、ここのナポリタン良いですよね海老が入ってて」
「なんか亜子こないだから棘あるよなぁ、そぉぃぇば鈴木さんも剣道やってたんですか?」
――KACHAKATYAKACHA――
「海老好きも透子と同じか……」
今日も亜子の気持ちは……
月を求めて伸ばす手は届かず下を向き、水面に映る月に手を入れてみれば波紋に歪み形を変えていく。
満月から始まった恋の月は亜子には月齢二日目、まだ出ぬ陽の目に何想う。
――BOKKOBOKO――
人は見た目で決め付けては成らぬ理由。




