46〜嘘の使い道〜
影踏み、踏んだ影は誰の影
『…ひほー、透子今日からお前は影武者だ…』
「は? 何で私が影になんのよ?」
『…ひほ、あいつらに狙われるリスク増やしたいか?…』
「ん?」
『…ここを我が城とする…』
「あんだとコラ」
『…あ、違う、楓香の…アッチの楓香の存在を示す為にもコッチの楓香の為にも、お前の家ではなく職場として表札だけの話だ…』
零は拐われた楓香を助けるのにワザワザ不破の名前を床鍋に示すのは危険を拡げ増やすだけだと考えての事だった。
元々アパート等で女性の家では狙われるのを防ぐ為に男の名前をつける事も多い、それ以外の怪しい目的で変えてる家もあるが、二つの玄関扉の一方に【小出】一方に【社名】を載せ不破の名を伏せようと云う提案に
「表札くらいなら別に良いけど、元々アレって……」
「私の為?」
『…ひほぉう、住所や登記は私書箱でどうにでも…ま、これは寧ろ奴等の専売特許だがな…それよりコレ、本当にぽっちゃり界隈に売れると思うのか?…』
「ふうむ……」
――SENSUUTAGAUSENNSU――
「ぃゃ売れるわよ、多分」
『…「これがぁぁぁあ?…』」
「何」
零が作っていたのは個人販売サイトのデザインだったが、大手通販サイトに入れる様に最初から連携用の空白を入れていた。
それなりに売れれば税制面だけではなく個人が借りられるサーバーでは都合が悪くなるからだろう。
やはり零に頼んで正解だったと思う透子ではあるが、その実全く理解はしていない。
当然運用には金がかかる売れなければ私書箱サーバー登記それに生地代にと、さした資金も無しに始めるにはあまりにも賭けが過ぎる程の手厚いバックアップだけに、零はそれ程の勝算を透子のデザイン……ぃゃ楓香の向上心に見越しているのかと言えばそれも違った。
床鍋への布石、その一投と云った所だった。
零に何があったのかは解らないが床鍋から人を救い出そうという透子達に協力を自ら申し出てきたのだから何かしらの関係はあるのだろう事は透子も理解して……
しかし、泣かず飛ばずで何ヶ月も放置するだけの金食い虫になるのは避けたいのは当然だ。
零の中では全く判らないぽっちゃり界隈の流行りや傾向は透子にしか知り得ないのだから何度も確認するのは当たり前の事だが経営のプロではない。
謂わば透子と楓香は従業員というより共同経営者の様な関係だ。信用・信頼、そして安心があってこそだった。
本来の経営であれば信用・信頼、の後には計算から導き出された確信なのだろう。
それを行き過ぎ取り憑かれた金の亡者が生産性などと言って、人が主であるべき事も忘れ会社の部品として扱い利益中毒に陥ったのだろう。
しかし、この人成らざる二人と一人は人として経営を考えていた。
『…ひほー、試しにそれオークションサイトで出してみるか…』
「え、これ? せっかく楓香が直してくれたんだから嫌よ」
「その生地まだあるから同じの作れる」
「わかった」
――KOITUU――
『…あとは名前だけど…』
「とうふは?」
「豆腐る」
「……ぃゃ、それは」
「封筒」
「え?」
『…マウントの取り合いか?…』
「「何よ!」」
『…GUTs ASHなんてのはどうだ?…』
「何か、いいかも」
「うん」
『…GUTsには腸の意味もあるからな…』
「そう」
「ふうん」
ちなみにASHは零が良く観ていた古い死霊映画の主人公の名前だったが、説明する迄もなく透子達は興味を持たなかったので零の軽口も閉ざされ不完全燃焼状態で腑に落ちない零の気持ちは浮いていた。
渋々ながらオークションサイトに出品する為マネキンの様に加工する事にし、透子に服を着せたまま写真を撮っていた。
――KASYAKASHA――
【金皮県床下研究センター根岸】
スーツの男達が気不味そうにコソコソと話しながらバンの整備というよりも洗浄をしている。
坂で傾けた車の内部に散水してこびりついた汚れを慣れた手順で落としている赤黒い固まりが水に濡れ溶ける赤いそれは間違いなく血痕そのものだった。
「あれ本当の事言わなくて良かったのか?」
「別に俺等は小佐田に対して報告義務なんてないからな」
「まあな、しかし何だったんだろうなアレは」
「さあな、忘れろ! 憑き物なんてここで知れたら俺等浄化されちまうぞ」
「お、おう」
二時間前、バンで何かを探していた掻下は、隔離室に移送されていた二人が連れ去ったデブ女を見て慌てて確認しようと戻って来たが、壁の裏で二人の会話を聞いて頭を抱え影を落としていた。
そこに飯田が来た。
「やったね掻下君、これで私もメダルやバッジが手に入るよ」
掻下は二人の会話で自分が飯田に伝えた情報との食い違いに気付いたが、この飯田の一言で間違いに気付かない振りをすれば保身出来ると考え、他人の人生を売り渡し
この床鍋という嘘に塗れた組織に媚を売りとぼけ嘘を吐く事に決め、嘘がバレぬように自分の眼を読まれぬように下から覗き見る様に飯田に笑顔を返した。
このままとぼけておけば間違いに気付いても飯田の責任だ。自分は連れ去った女の事を見ていない事にすればいい。
そう考え責任からも他人の人生を奪った事も全ては保身の為に嘘で逃げる事にした。
七十にもなる男の恥知らずな人で無しの顔は良く見るカルトの目になっていた。
――KATAKATAKATA――
『…ひほっ?…』
「なに?」
「うん?」
『…嘘だろ、こんなもんに八千円の値がついてる…』
「ほ、ほん、ほぉらね……」
「さっぱり、わかんない」
『…ひーほー、資金提供してやるぜ、これで生地買って来い…』
「あ、徹カード」
それは誰のお陰です?




