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44〜嘘の使い道〜

 一人は皆の為、皆は一人の為。の続きには……



「大事なのよ、私の胃袋」


 楓香は何度も答えているが、寝癖頭の透子が理解しない事に困惑しかけている。

 透子も気付いて質問のしかたを変えてみた。


「楓香、一緒に食べても私もアンタも元の私と同じ量食べれるの?」

「……ん?」


 ようやく透子が聞きたがってる事に気が付いた。

 別れた身体の中で共有してる情報から凡その(あたい)を平均値として別々の個体にして、二人が同時に食べるとどちらに比重がかかるか比較する為に胃の大きさを整える。


 それをそのまま伝えて理解できていなかっただけにどう説明するのか? と迷うが、それ以前に質問の意味を理解してなかったのは自分の方だと考えれば理解力とは難しいと気付かされた。


「ごめん透子はバカなんだと思ってた」

「え、……」


 透子は不意打ちの見事なストレートを喰らって脳がグラつくのを我慢していた。

 冗談の概念はあるのは解っていた筈だが、これは冗談では無さそうなだけに……


「二人で元の一人分」

「ん、じゃあ一人は半分じゃん」


「違う、一人は二人分」

「ん?」


「一人で元の一人分」

「ん?」


「二人で元の一人分」

「ん?」



「ん?」

「やっぱり透子は……?」


「え、バカなの私?」

『…ひほ、知恵熱レベルだからな…』

「あ?」


 零が割って入って来たのは軽口に入りたかったのではなく、未だ張り付けにされたままの状態の自分にいい加減に気付けとの思いからだったが、二人の要領を得ない会話に苛ついていた。


『…ひほ? おまえら何処までバカなんだ…』

「ふむぅ……」

「何よアンタは解ったっての?」


『…ひほ、二人で元の一人分、一人で元の一人分…』

「うん」


「え? 解ったの?」



『…ひほ、一人なら元の一人分、二人一緒なら一人は元の半分…』



 つまり、どちらか一人が食べる分には同じ量だが二人で一緒に食べたら二人で元の一人分という事だった。


「そう、それ」


「嘘、零に負け……私、バカなんだ……まぁ頭良いとは思った事無いけど……」


『…ひーほー、解ったらとっととコレ外せ…おい、おぉい、嘘…』


 凹んだ透子はそのまままた布団に入り眠りについた。


『…楓香さん…』

「ふうむ……」



 結果、この中で一番の頭脳だと証明した零だが、二人の女を相手に頼れる姿を晒した格好になり後悔の念に駆られていた。

 片や足や手を片や向上心を、後先考えず進むだけの猪突猛進する猪の様な雌豚共に……






【金皮県床下研究センター根岸】

 胡唆(うさ)は泉の電話を切った後、急ぎ鍵の掛かった棚扉を開けると取り出したファイルに目をやり鼻で笑い、シュレッダーに次から次へと記憶を消す様にかけていった。


 その中の一枚を睨み付ける、風呂に入ろうとする人形のような顔をした男の子の裸写真をファイルから抜き取り、思いを消す様に握り潰し、また拡げクシャクシャになって汚れたソレを見て諦める。


 その顔はまるで、エロ動画や画像を削除するのを躊躇(ためら)う男のそれだった。



 シュレッダーにかけているその他の写真も程んどが、一見その男の子の成長記録の様だが全て目線は違う方を向いた盗撮写真そのものだった。

 中には部屋で着替え中やアレな写真まで、しかし高校生位になると写真の画質が急激に下がる。

 いや部屋の写真だけノイズが酷く解析写真の様になり、気付けばその男の子はスッカリ大人になった鈴木の写真だった。



 手元にいくつか残されテーブルに置かれた殆どが外の写真で、女の子と楽しくデート中の写真や鈴木の友人なのか関係者らしき人物に名前等が振られた資料だ。


 そのファイルを掻下(かきもと)のファイルと並び置かれた最近の鈴木のファイルに忍ばせると、残りをまたシュレッダーにかけ始めた、福山や佐藤や久美の家にも胡唆が仕掛けていた盗聴盗撮ファイルと共に。



 髪はなく昔絵に出てくる餓鬼の様な風貌の八十近い男が、ゴミ袋いっぱいにパンパンに詰まった細断紙を廃棄処分の盗聴盗撮の編集に使っていたオーディオセットやビデオテープ等の緩衝材に混ぜると、すぐに産廃業者を呼び引き取らせ処分していく。


 まるで泉達に見られては不味い何かがある事を匂わせていたが、それを唯一見ていたのは、何をしているのかも分からない黒子として声が掛かった島口だけだった。







【山谷不動産】

「籐さん、これが例の胡唆ってのが勝手に主張して嘘をばら撒いていた境界線に関する、ウチが土地を買う時に交わした契約書の資料なんですが」


「あぁ、間違いなく鈴木さんの物件ですね。それ多分、最近だと地面師詐欺って言われてるヤツですよ。胡唆って男の他にも多分、色んなのが関わってるかもしれないなぁ……厄介なのが近所に居たか」


「違う意味でも厄介な爺さんだったけど、色んなのとは?」


「うぅぅむ、警察案件の可能性があるんで、一度相談するのも手ではあるんですけど……」


 藤が渋くなった顔を真に向けた。

 鈴木は警察案件と聞き穏やかではないが会長が藤真を見て何を思うのか計れる様な警察案件の知識はない。

 面倒な仕事を持って来やがってと怒っているのか、藤真に出来る事かを計っているのか、それ位しか思い浮かばない。


「真、勉強だ張ってやれ!」

「ん?」


「鈴木さん、頼りになるか判らんが真付けとくから一度警察に相談してみて反応を確かめてみないか?」


 鈴木は訳が分からない展開に戸惑いを隠せない。

 いや理解が何一つ出来ていなかった。



「真、二瓶に連絡しとけ」


 


 文系の数式の立て方の方が意図の理解はし易いが、計算するのは理系のそれより大変だと気付けば充分柔軟だとする解。


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