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43〜嘘の使い道〜

 尻拭いとケツ持ちと尻餅と……



『…お前、熱測れ…』


 体温計を渡された透子が訳も解らず脇に挟む。頭には未だ理解出来無い上か下かの事ばかり。楓香は体温計を見て、その記憶からなんとなく病気の事は理解出来ていた。

 そして薬の記憶が楓香を奮い立たせた。


「アレは嫌」


 そう言い冷蔵庫の中を漁りだした。チューブの生姜とレモン汁と蜂蜜をコップに入れ、やかんでお湯を沸かし……

 些細な記憶からいつの間にか料理の様な事まで出来る様になっていた楓香の成長を零も透子も気付いてはいなかった。



――PIPIPI――


「あ、嘘……三十七度九分」

『…ひほ、知恵熱レベルだな、寝とけ…』


「待て、これ飲めっ」


 と、楓香が慌てて生姜湯もどきを持って来て透子に渡し、布団をひいた。

 透子は言われるがままに飲み、熱湯で口の中を火傷し眠りに就いた。




――SUYASUYASUYASUYA――



「ごめんね今日は来週の家族旅行の前に皆で買い物に行くから剣道お休みするの。二人共、仲良くね」


「うぅぅん、わかった」

「ちぇ、しょうがねえ」


「じゃ明後日学校でどっちが勝ったか教えてね」

「俺に決まっ」

「私が面ごと叩き落とす」


「怖い事言うな、反則だろそんなの」

「ふんっ」


「仲良くね」


「わかってる」



――SUYASUYASUYASUYA――




『…よせ…』


 楓香が心配からか透子の手を握ろうとしているのを制止して図案を指し服を作る様に促すと、楓香は素直に従い零もパソコンに顔を戻し透子に今必要なのは睡眠だとばかりに零なりの気遣いを示していた。


 が、静かな生活は零の中でも久しぶりで落ち着かない、さながら楓香と夫婦のような妙な雰囲気に堪らずテレビを点けていた。


 音があれば何でも良かったがバラエティやドラマ映画は更に気不味くする危険がある上に音が跳ね上がり透子を起こし兼ねないので爺臭くニュースを探したが時間がまだ早く最近あった大きな放火事件を伝えるワイドショーしかない。


 パソコンの中を探してみると懐かしいアイドルのアルバムがあった。テレビを消し再生。魔性の女の称号を与えられたアイドルだが歌は本当に良い。


 透子にも子守唄程度に聴こえる音量だが





――UUUUUHUUUUUUUUUH――

「君たち危ないから下がって」


「一家心中だってよ」

「まぁ、じゃぁ娘さんもまだあの中に」


――BUNDANNHAKOUHOUKARASANNSUITANOMU――

「おい、ファット……アソコって」

「消防車……なんで」



「放火かしら……」

「あそこの奥さん頭可笑しくなってガソリン被って火点けて一家心中だってよ、イテッ何だこのガキ」


「誰だ、お前は嘘つきだ」

「だってオッサンよぉ家族で買い物中なんだから家には誰も居ない筈だぞ」



「あ、アンタ達。そうなの?」

「うん、だから今日は休むって言われたんだから間違いないぜ、オバちゃんこんな嘘つきのオッサンに騙されんなよな」

「じゃぁ、あら今の人は?」


「逃げたな嘘つき」



「離れろ! 倒壊するぞぉぉお」


「ファット?」



「どすこぉおおおいっ!」

――ZUTTEEEEENN――


「痛ってぇな、このくそガキがぁあああっ」

――GEBOH――







麻友子(まゆこ)!」

「透子! 大丈夫?」

『…寝ながらこんだけ暴れりゃ元気だろ…』


 アルバムの二曲目が鳴り出してから急に唸り出した透子が掛け布団を零に向かって投げ付けた。

 唐突にパソコンと布団でサンドされたが、親心めいたものか仏心か布団をかけ直してやろうと近付いた零を張り手で吹っ飛ばし、楓香が脇に置いていた裁縫道具のマチ針の束を掴み零に投げ付け、待てこの嘘つきが!

 と喚き泣き出した挙句にピタッと静かになり二時間程経った今、目覚めた透子に夢の記憶は粗無かった。



 しかし暴れた惨状は零の体に残ったままのマチ針が物語っている。床は危険と楓香が拾い集めたが、壁に十字架の如く張り付けにされていた零の虚しい親心は透子のアホ面と共に……



「ん?」




 おかげで二人の作業は止まったままだった。








【料亭特別室】

 沢抹に呼び出された田中が低姿勢で待っていた。


 博覧会で作った赤字の責任を有耶無耶にして逃げる為には沢抹の立場を維持する他なく、市長から身を引いた田中は全責任を被せられたが、結果的には儲けが上回り世間を欺く事には成功していた。


 それ故テレビの仕事が入っている中、沢抹に呼び出され緊張していた。

 また何かする気なのは確実だが儲けてもまたケツ持ちか? と期待と不安が過る中で、こちらでお待ちです。

 と、仲居の声で戸が開いた。


「来てたか」

「その節は」


「お前の尻拭いは何度目だ?」

「は?」


 田中は自分が尻拭いをしてやったと思っていただけに顔に出た。


「反抗的だな、テレビに出て天狗になったか? 例の娘の関係者が出たぞ」


 娘と言われ思い返すが瞬間、田中の記憶に浮かぶ張り手を繰り出し足にしがみつく子供の顔。しかしそれも元は沢抹の……


「あの時の? 解ったんですか?」

「床鍋からな。高足と協力して潰してこい。それと弁護士あがりの人体実験好きの都議が協力したがってるからそれも使ってやれ」



 部屋の隅で高足と遠藤が対象的にほくそ笑んでいた。高足は床上製薬の小佐田(こさだ)に情報を垂れ流し沢抹のいる協会とどちら側に着くか見定めている様だった。

 遠藤はまた胸のペン型カメラで盗撮をしている。






――PIPIPI――


「あ、三十六度三分……そうだ元通りって」

『…「そこ?」…』


 


 Siriは……違うかと。(笑)

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