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39〜嘘の使い道〜

 新章〜嘘の使い道〜スタートです。




『…楓香、これとかどうだ…』

「こんな事したら……」


 パソコン画面を見ながら楓香の仕事探し中だが、履歴書改竄はクリエーターを目指す楓香(本人)を救出したら面倒な事になるので表立った仕事ではなく、零のスキルとの合わせ技をウェブ上で楓香のイメージを使って何か出来ないかと模索していた。


 本来は世に出る事の無い者同士が活きる術を考えれば顔を必要としないネットになるのは必然だった。

 その先駆者である零がオブザーバーとなれば容易だろうと透子の中で勝手に思っていた。

 しかし、世の中どうしてこうも……


 零は楓香の未来を真摯に受け止め透子に自分が力になれるか判らない事を正直に話し、自分が株のトレーダーやで儲けたのではなく、ウェブ上の問題を解決したりソフトやオペレーティングシステムのバグや問題報告をする事で報酬を得て、そこからソフト開発による報酬へと繋げているのだと説明した。



 が、透子には正直よく解らない。


「そっか、なら、兎に角任せる」



 そう言い残して面接に行く準備をしだしたのだった。



『…あぁ糞、なら、じゃねぇよ畜生が…』


 透子のイメージを使って物を作らせて販売するのが一番手っ取り早いが、物は価値が付けば例えウェブ上でも顔を求められ、頑なに拒めば怪しまれる様になる。

 楓香のそれは明らかに価値が付く物だ。


 かといって楓香にパソコンスキルを直接覚えさせて何処まで出来るのか試して見ようかとも思ったが瞬間、もし加減の出来ない楓香がコンピュータ言語を覚えたらと想像すると、自身がこの世界の怖さも脆さも危険を最も理解出来ているだけに背筋が凍った。


 布だけど……


 人気に成り過ぎず未来に繋げる仕事となると、考えれば考える程この世の不条理さが浮き彫りになって来るばかりだった。


 人気になろうと必死に努力を重ねる者。

 力を発揮する場を貰え無い人が耐え兼ねるのを待ってその努力を奪い罵倒し人気を勝ち取る者。

 何も無いが人気になってく者。

 楓香は価値が付く、人気になれば勝手に本物の烙印を押される。


 ただでさえ偽物の天才が幅をきかせ、本物の天才が脅され潰され消されるこの国では、楓香は間違いなく消されるだろう。


 ましてや人ならざる存在と知れば彼等がどう出て来るか。

 考えれば考える程に頭が痛い、厄介な話を押し付けられたものだと……

 気晴らしにアダルトサイトを覗いていた。


「これはしない」


『…ぶふぉっ…』



 楓香が後ろで見ているのをスッカリ忘れていた零が慌ててモニターを消して誤魔化すが、時は既に逸していた……



――KACYAHNN!――


『…ひぼっ、あの豚何でこうも…』


「たっだいまぁあああ……」



『…楓香、今のは無しだ! 解るな…』

「……なし、うん」


 返事がない事に透子は眉を(ひそ)め怒り気味で部屋に入るが、二人の姿は何とも奇妙な雰囲気が漂っていて、喧嘩中のカップルの家に遊びに来てしまったかの様なバツの悪さを感じさせる。


 何かが遭った事を伺わせるには充分な状況だった。



『…ひーふー、おかえり…』

「あ、うん、おかえり透子」


 零の目配せならぬ首配せに呼応する様な楓香、何かあると確信した。

 しかし二人が恋人になるとは思えない、他に何かあるとすれば頼んだ仕事の件しかないが、ここまで妙な喧嘩になるのかと……



「ただいま、何か良いのあった? 別に仕事じゃなくても稼げりゃ良いのよ」

『…おぉ、それな…』


 何故若者ネットスラングなのかと余計に怪しむ透子が段々と隠れる獲物を狙うハンターもしくは狼のように思えてきた零は、落ち着きが無くなってきた。


 これは、狩りだ。



「楓香、何かあった?」


 何か……完全に鎌掛けだ。

 罠にハマるなよと願う零は楓香を見ることもせずに逃げる準備をし、机の下に這う三本の電気コードの内一番太いコードを目で辿っていた。


 モニターを慌てて消しただけでまだパソコンの電源は入ったままだ。電源長押しで消せば済むが透子に睨まれたままでは気付かれる。


 偶然を装い抜くしか無い。


「なし」


 馬鹿で助かった。そう思い零が絵画の叫び状態で喜んで振り向くと、透子がモニターの電源を押そうとしていた。


『…何で!?…』



 透子の後ろでモニターを指差す楓香がいた。何か? なしを指していた。


 馬鹿には勝てないと悟るがまだ手はある。急ぎコードを辿りコンセントを抜いた。


 が、モニターは点き透子は察した。それも楓香と同じ勘違いをして……




「な、風俗だあぁあ! ふざけんなよコルァァァアアア」



『…ひほ???…』


――BOKKOBOKO――



 零が抜いたコードは楓香のミシンだった。







【床上製薬本社】

 先生と呼ばれる男が床上製薬の幹部職員と出て行き後処理を任された両陣営の男女が皆が出たのを確認すると口を開いた。


小佐田(こさだ)、上手くやりやがったな。やっておいて今更」


 高足(たかあし)と目配せをしていた女がほくそ笑み返すと男が更に問う


「いつ見つけた」

「子育部に流れてたからね、黒子(ほくろ)が大々的に動いてる話も久美から漏れてて」


黒子(ほくろ)が子育部に?」

喪積もつ泉、例の胡唆の実験の件よ」

「あれか」


「で、昨日箱根(はこね)でアレを見つけて丁度いいから挟んどいたけど、こんな上手く……」


箱根(はこね)? あぁ、箱入(はこい)りの根岸の研究所の事か」








―PANN――

「ごめん」


 手を合わせ謝る透子に早とちりを咎めるのも何度目か、頭部に綿が寄って腫れ上がった様な顔の零が文句を言いながらアダルトサイトの件も不問に出来たのでは? と、ほくそ笑んでいた。


 その余裕が閃きを生んだ。いや、産み落とした。



 価値が付く物を作る楓香に、価値のない設計図を渡したら……




『…ひーほぅ、透子、お前デザイナーをやれ…』


 


 皆さんの嘘の使い道は?

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