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38〜戦場の選択〜

 狭い日本そんなに急いで、犬も歩けば棒に……



『…お前、その頭で良いのか?…』

「……あ、」


 折角のスーツも三段団子ヘアーで何か芸人の様な妙な雰囲気を醸し出していた。

 透子自身あまりにもこの無精ヘアーが板に付いてしまって忘れていたというより零に指摘されるまで気付いてもいなかった。


 瞬間、またイメージを!


 と考えたのを察したのか背後でカチカチと()ちばさみを向ける楓香を見て、すぐに諦めた。


「大丈夫、中身よ中身」


 零を見て言ってしまって不安感が襲うが、今更だ。覚悟を決めて諦めた。

 折りたたみ自転車を出し二人を振り返ると楓香がテレビで何を視たのか日の丸旗を振って敬礼していた。



「ぃゃ、私兵士じゃな……ぃゃ、戦いね。社会という名の戦地に出兵してきます! 二人共、留守を頼みます」


 そう言い敬礼を返すと零がはなむけのつもりか、桃の反射材キーホルダーを渡してきた。まるで小学生扱いだが自転車に丁度良いと、そのままサドルの下に付けてみて気付いたが……桃尻か?


 さあ面接! と、戸を開けるとまた二人が敬礼しながら例の如くに始まった。


『…「血眼号」発進…』


 もう、ええわ。と言いたげに口を尖らせ振り返るが、透子も何となく楽しくなって来た二人のノリにのっかり敬礼を返すと笑顔が不意に出た。



「おうちの為に行ってきます」



――CHIRIRINN!!――




 ナグルトの営業所は家から三キロメートル程で駅とは真逆の住宅街が広がる高台に在る。


 配達先が住宅なのだから当然だが、通勤にバス等公共交通機関は使うのは違うと理解していた。

 何故なら雨風吹いても二輪三輪で配達に行くのだから、自転車かバイクで毎日体を鍛えると思えば目の前のジムに通うよりも早く痩せそうだが、既に痩せた透子にとってはむしろ筋力を鍛え直す方が重要かもしれないと考えていた。



〈張り手の為に筋力アップは必須だし一挙両得って感じじゃない、やるぞぉぉお〉


 面接もまだしていないのに、坂道を登る透子の気合が溢れ血眼号のペダルの回転が早まっていく。

 運動ならウォーミングアップに丁度良い位の距離で少し体が温まったせいか久々のスーツのせいか着いた途端に汗が出て来て慌ててハンカチで拭っていると、大泉が配達から帰ってきて透子に気付き笑顔を向け三輪を降りると荷を降ろしすぐに来てくれた。


「今から?」


 面接と言っても個人事業主形態だ、下請けの申し込みと変わらないから信用と契約内容の順守が主な確認処と、変な気合が入っていた透子の気を紛らわしてくれていた。


 大人の余裕とも見えるそれは、経験故の仲間入りへの歓迎の意なのだろう。

 それから程なく大泉が明日の準備に戻り、透子は奥のミーティングルームの様な部屋で待っていると温和そうな人が対応しはじめた。


 話はポンポンと進む、既に大泉が透子の概要を話していたのだろう、ほぼ確認だった。

 そして配達のエリアの話になった所で透子は思い切って言ってみた。



「駅向こうのエリアをやりたいんですけど」


 困った顔をされた。しかしそれは透子の稼ぎを考えての事だった。

 駅向こうはお店が多く半数以上が飲食店で残りも物品販売系のショップだ。オフィスは少なく営業出来る所は既に網羅したが透子の分まで確保出来る可能性が少ないからだ。

 しかし透子にはアテが有った。



「私がとってきます」


 果たしてアテとは?

 営業所も勝算があるのかも含めて分からない話をアテには出来ないので、とりあえず稼ぎになる配達先が出来るまでは研修も含めて大泉のエリアを一部譲って貰う形で始めることとなり、部屋を出ると大泉が待っていてくれた。



「よろしくね」


 もう言われることが少なくなったが、次々戻ってくるナグルトレディの中に、自転車のナグルトレディを見ると透子は心の中でレジェンドの称号を与えていた。

 あの重そうな荷の付いた自転車を漕いで配達先で笑顔で対応するのだから。何も載せずただ走っただけで汗が吹き出していた自分に負い目を感じていた。


 そんな不安も経験済みの大泉に大丈夫と言われ初心者のそれだと理解し三日後からのスタートによろしく伝え、お茶代わりに出されたナグルトを飲み干し血眼号に跨った。



――PURUNN!――


 透子のアテ、富士山グランプリ。会長が勝手に常連客と呑んで決めた対決だ。

 透子にはメリットがないと話したら、勝ったら何でも言ってくれと言われたのを思い出していた。会長とつるんでいる常連客は地元の店主や経営者に地主ばかりだ。


 アテと勝算、全ては透子の胃袋次第なのだから、問題は楓香が参加するとなればペース配分とルート設定だろう


〈またメニューとにらめっこね〉


 こんな企みを返されている等とは露程にも思っていない会長達は商工会の宴会程度にしか考えておらず、自分達は観戦しながらパーティーメニューで楽しんで儲けが出たら会の旅費にでもと目論んでいた。





――DoNN――


 序でに買い物に入ったスーパーで透子に後ろからぶつかってきた六十手前程の女が謝りもせず、歳相応の常識も無さそうに電話中なのか自分勝手な行動をしていたが、最近は外国人も多く入りよく見る光景になりつつあったからか目には入るが気に留める事はしなかった。


「ああ、今から佐藤のとこに行って撒いてくる、胡唆アレ頼むぞ」



――DONN――


「すみません」


 透子にぶつかった男が謝ると、見失ったのか慌てて女を追う様に出て行く。


〈今日は当たり日? 宝くじでも買うかぁ〉

 と、透子は意に介さず三人分の買い物を楽しんでいた。


 


 あなたは正しい選択してますか?

 そもそも選択の間違いなんて、過去を振り返って初めて思うもの。先に知っていれば選択はない。その時に正しいと思うものが未来に失敗をもたらしても選択は正しく、結果が間違い。

 だから正しいと思う選択をするのです。


 これで〜戦場の選択〜は終わりです。

 次章も乞うご期待。


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