37〜戦場の選択〜
仮面舞踏会、踊る仮面の下はどんな顔?
――CHUNNTYUNNCHUNNTYUNN――
「あれ、私」
目を覚ました透子が周囲と自分を確認すると寝るまでの記憶を探る。
その最中にラックにかけられた仕立て直されスッキリとしたスーツが目に入ると楓香を焦り探し見回した。
まるで何かの恩返しみたいに消えてはいないかと不安に駆られ。
しかしそんな不安は必要もなくすぐに少し離れた隣の部屋の方に敷いた布団で窓からの陽射しを嫌ってか背を向け寝ているのを見て安堵と感謝が溢れた。
「ありがと」
零はといえばクローゼットの戸がしまっていた。おそらく楓香と同じで陽射しを嫌ったのだろう。
結局ゲームはあれから二日間放置しているが松駿はどう思っているだろうかと考えるのも想像するが中々に恥ずかしさが襲う程に最悪の状況を思い出し、寝ても醒めてもとはこの事かと、天を仰ぎ溜め息一つし起き上がり静かに布団を畳み二人が何時まで起きて作業をしていたのかと案ずるが、礼とばかりに朝食を用意しておいてあげようと先に食事の準備を始めた。
1 ミルクパン
なめこ
ねぎ 20センチ
万能ねぎ 半分
乾燥わかめ
赤味噌 大さじ1杯
水 500ミリリットル
料理酒 10ミリリットル
2 フライパン
卵 3個
そばつゆ 大さじ1杯
牛乳 大さじ1杯
ピーマン1個サイノメ
椎茸 1個サイノメ
塩・胡椒
オリーブオイル
3 フライパン
イトヨリ切り身 3切れ
大葉 3枚
小麦粉
塩・胡椒
バター
マスタード・バジル
4 トースター
食パン 6枚
とけるチーズ 3枚
これは料理本では無いので今日の調理工程は必要としないだろうが試したければ
1は入れて温め混ぜる
2は混ぜて入れて焼き包む
3は付けて焼き揚げてかける
4は……焼けたら3を挟むだけ
――JUJUUJUJUPATIJUJUJU――
魚が揚がる香ばしさが部屋にまで届く頃、楓香が目を覚まし起きてきた。零は戸を閉めているせいかまだ眠りの中の様だ。
「おはよう、もうすぐ出来るから顔でも洗って机の上片付けといて」
「うん、あ。うん」
面接は昼過ぎだから余裕がある。だからこそ気持ちの満足感が欲しかったのかもしれない。
二人への感謝という形で。
――CHIINN――
「出来たよ、パンも焼けたしこれ持ってといて」
アメリカン……風コーヒーと共に洋食に味噌汁の不思議な香りが包みこむ部屋に朝の陽射しが強烈に照らし料理が煌めき、見ているだけでも幸せを感じられた。
「透子は、また作った人の特権?」
「ううん、一緒に食べよ」
透子のパンは既に耳が無くなっていた。その声に零が戸を開けた。
『…おひほ…』
透子は一旦戻り零のパンをトースターに入れて楽しそうな笑みを浮かべていた。
それを見ていた楓香が零に厳しい視線を送り、幸せそうな透子を心配していた。まるでこれから起きる事を知っているかの様に
「いいの? あれ、いつ言う気?」
『…時が来れば判る、俺はもう覚悟が出来てるぜ…』
「そ、」
――CHIINN――
「零のはクローゼットで良いよね? 机は置く場所ないし」
『…悪いな…』
「そこはありがとうでしょ」
『…あぁ…』
『…「「いただきます」」…』
――BAGONNN!――
幸せが包む食卓は透子に充分な満足感と満腹感をもたらしていた。この煌めくような幸福感がすぐに終わるとも知れず……
――PURURURURURU!――
「あ、大泉さんだ」
面接の話がついた知らせだった。昨日の話通り昼過ぎに予定して貰ったとの連絡に礼を言い切った。
『…余程の事がなけりゃ落ちんだろうな…よほど…』
「うん、ごちそうさま、顔洗ってくる。食べ終えたら流しに入れといて」
『…おぅ…』
そう言ってバスルームにタオルと着替えを持って行った透子を見た二人は急いで食べ切った。
透子に、いや零に、これから起こる悲劇に備えて……
――POTONN――
「なんじゃこりゃぁああああああああっ」
「ほら、知らないよ」
『…あの、補修だけお願いします…』
透子が、いや牛魔王、いや、般若面の落書きをされた透子が、凶意を全身に纏って戻ってきた。
零は既に無我の境地にでも逝ったかの様に仰向けになり透子の怒りに身を捧げていた。
「覚悟はいいな!!」
『…ひほっ…』
――BOKKOBOKOBOKKOBOKO――
「え、何で、私も?」
――GOTTUUNN!!――
「まぁ面接前だからシャワーは丁度良いわ、ったく」
『…すビバべんでびた…』
「すぐに言わなくてごめんなさい」
昨夜、透子が眠りにつき楓香が布団を敷く間に零は思わず化粧を拭き取る紙で拭ってやったが、自分は何をしているのかと自問した。
そして……透子の顔に眉ペンで器用に描いていた。
それに気付いた楓香が透子の顔を覗き込み布団の上で拭おうとすると零が制止しこう言った。
『…楓香お前、使用人扱いされたままでいいのか? 反旗は逃すな、反抗と犯行は違うんだぜ…』
「これは反抗?」
それに応える様に深く何度も頷いた。まるで共犯者の様に二人は透子が目を覚ますのを待っていた。
しかし気付けば二人共眠り、先に起きた透子が二人の為にと楽しそうに朝食を作っていた。
楓香は言おうとした。
しかし言えなかった。顔でも洗ってと般若の透子に言われては……
あの顔で、奴等が来ていたらどうなっていたのだろうか……
歓び朝食を作る般若を
ひょっとこ翁もあるけどね。