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36〜戦場の選択〜

 表の顔と裏の顔、腹に黒は聞くけど白は何処?



「あ、」

 使用人の如く楓香にスーツを仕立て直させておきながらパソコン画面に(うつつ)を抜かす透子に気不味さが滲み出る程の何かが起きていた。


 松駿

『凄い! 水魔法ありがとう、こんな所に隠しダンジョンが在ったなんて多分これ一番乗りだよ』

 松駿

『どうしたの? 隠しダンジョン一番乗り。早く入ろうよ』

 松駿

『嘘でしょ? スキニーさんまた寝落ち?』

 松駿

『嘘でしょ? スキニーさん?』

 松駿

『嘘でしょ? スキニーさん?』

 松駿

『嘘でしょ? スキニーさん?』

 スキニー

『私と寝たかったら夢から醒めてお(うち)においで。待ってるわ』

 松駿

『嘘ですよね? スキニーさん?』

 松駿

『ネタですよね? スキニーさん?』

 松駿

『行きます。ダンジョンに』


 ゲームチャットのログを確認した透子が苦悩し頭を抱える様子を横目に、楓香が少し嬉しそうに肩を上げていたが、それをまたも見られたのかと焦る楓香をよそに透子が立ち上がり去って行った。



『…バナビの流べばんか知ぶばぁあ…』


「だってアレじゃ私、本当に頭のおかしい売女そのものじゃない! せめてダンジョン位は付き合いなさいよ」



――BITYABICHABITYABICHABITYABICHA――



『…乱暴に絞るなぁあああ…』


 洗い場から騒々しい口喧嘩が繰り返される中、部屋ではスーツを仕立直す楓香の脇で、テレビから季節の移ろいを伝えるニュースが流れる。

 天扉岩地区に流れる川面と共にアノ家とその前を通過するバンが映っていた。







【床上製薬本社】

「そこまでこの国の民は馬鹿なままでいてくれると言うのか? バレれば此方が滅するんだぞ」


 国の押し印が入った書類と資料を、先生と呼ばれる一目で高いと判るスーツを着た白髪男と共に五人の取り巻きが確認するが、一様に慎重な姿勢を崩さない。


 円卓を囲みキッカケを待つように押し黙る両陣営の面々を、部屋の隅にいた女が不適に笑い皆の視線を集めると円卓に自分の見ていたノートパソコンを差し出した。



――BIBIBIぐぁぁぁぁBIBIBIヤメBIBIBIいやぁぁぁぁBIBIBI――


 円卓を囲む者はパソコン画面に流れる惨状に、目を背ける者と見入る者、そして



「無慈悲な拷問か、いいだろう承認しよう」


 その言葉にほくそ笑む女と取り巻きの中の一人の男が目を合わせると、男は先生と呼ばれる男に書類を手渡した。

 女はそれを見てパソコン画面を閉じニヤケ手に隠し持つ端末から何処かに信号を送っていた。


「これは?」

「抹消リストです」


 書類にある大量の名前を読み進めては紙を(めく)り確認するが理解している訳ではない事は明らかだが、それでも確認しているのは自身に関係している名前を探しているのだろう。



「個別案件だけでも随分とあるな。処理出来るのか? 汚れ物に私は関与せんぞ。それにお宅の先生に頼まず私の所に持って来るのは目くらましなのだろう? 私に何の得があるのか」


 女が目配せとコソコソと指で数字を送り男が小さく頷くと


「先生十三枚目の確認を」


 紙を(めく)り確認すると、白髪の男が何かの遠い記憶を引っ張り出そうと眉間にシワが寄っていた。



「この学校、あの娘の関係か?」


 白髪の男の問に男が頷くと、承認の押し印が入った書類を円卓に放った。


「高足、五月蝿い蠅は残すな! 蛆がわく」

「まさか今更気付かれるとは」


「言い訳はいい、飛ぶ前に潰せ」


 謝る男を見て、女は俯きほくそ笑む顔を伏せ隠す。


 その二人の男女とは別に、取り巻きのもう一人はスーツの胸に付けたペン型の隠しカメラで全てを録画していた。



――ZIIIIIIIII――






「ふむぅ……」

 スーツの仕立直しに必要な知識を無理矢理流された格好の楓香だが、透子の知識を叩き込む早さは楓香のイメージの強化には持って来いの逸材なのは確実なのだろう。

 しかし、あまりにも生活の糧に偏り過ぎている為か、楓香の風貌からは想像がつかない程に性格までもが物静かで家庭的な昭和女の様になっていた。



『…楓香…』


 唐突な零の落ち着いた声の呼びかけに振り向くと、綿の抜けた状態で洗われた中途半端な生乾きの零がペラペラの腕を手前に振り上げては落とし自分の方へ来るように促していた。


――SUYASUYASUYASUYA――


 洗い場の扉にもたれ化粧も落とさず、泣き疲れた子供の様にすっかり寝入っている透子を見た楓香が零と目を合わせ、何をすべきか理解したのか部屋に戻って行った。


 本来であれば人として扱われる事等有り得無い者同士が家族のように扱われている現状に嫌な気はしていないが、呪いの人形だ。


 零の中にも思う処があるのだろう。



『…糞、…』


 暫くして戻ってきた楓香が、項垂(うなだ)れ眠る透子の体を持ち上げられず、背後から脇下に腕を入れ引っ張り運び出す。


 透子から滴り落ちる水滴を零が拭き取る様に辿り歩き脱げた服を端へ寄せ、部屋には布団が敷かれていた。


 寝かせた透子の顔を覗き込む楓香に零が静かに寝かせてやれとばかりに制止し頷いていた。


 色々な事をこの二日で受け入れ成しているだけでも常人のそれとは比べ物にならない程の強靭な精神力な筈だ。


 その上、一人の時間を持てたとはいえ初めて乗る馴れない折り畳み自転車で往復40キロメートル近く走った後に楓香の人生を創り出し……


 体力的にも限界だった。



『…ひーほー、楓香それより先に俺の腹綿入れてくれ…』

「ふむぅ……」


 スーツの仕立直しを再開したばかりの楓香が膨れっ面で零を鷲掴みにすると、スーツで使っていた()ちばさみを零の首に向けカチカチと……



『…ひほっ、あの、優しくしてね…』


 


 仮面舞踏会に日本の能面はありかなしか?

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