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35〜戦場の選択〜

 呪縛は、呪う方か呪われた方か




「だったら言えばいいじゃないよ」

『…どの口だ…』

「ひほ、」


 出かけに詰めた綿が腹から飛び出しぺちゃんこになった零が、楓香に介抱されながら透子の先走り癖を注意していた。


「だからって下着は触らないでよ、変態」

「なるほど、解らない」

「『…は?」…』


 楓香の自問自答に疑問符を投げかける透子と零だが、楓香は解らない事を理解出来たとばかりに納得していた。

 そう、相手の心の事だろう。

 しかし、これは心では無く考えてる事なのだが喧嘩中の二人? にはそもそも楓香の考えている事も理解出来ていなかった。



「何、その汚い毛糸」


 不意に楓香の手元を見た透子が眉を寄せ覗き込むと、零の腹の中から茶色の毛糸が見え隠れしている。


『…ひほ?…よせ、それは駄目なヤツだ…』



 慌てる零の忠告に反応し、焦り楓香の手を止める透子からの制止が楓香の持つ目打ち棒に当たり茶色の毛糸を引っ張り出す最悪の結果に。



『…ひっ』


「零? 嘘、動かない……目が白目に、嘘でしょ」


 それでなくとも腹から綿が飛び出しぺちゃんこの零がこんなにも簡単に……

 いや、乱雑過ぎる扱いにとうとう、考えて見れば呪いの人形とはいえ元は何処かのオジサンだ。当然何かしらの制約はあるのだろう。


 ことに透子が呪いの人形と知った当初から乱雑にしていたが故に確認もしていなかった。

 そもそも呪いの人形と仲良く話している方が可笑しいという事実さえも凌駕していた訳だが、既に透子の中では仲間であり家族のようであり信頼と親しみを持っていた。


 それが、自分のせいで呆気なく……

 いつから透子の元で意識を持っていたのかも知れないが、透子が知ってたった二日で……

 自分が疫病神の様に思えて来た。



「これ、臭いんだけど」


 楓香が目打ち棒に付いた茶色の毛糸を煙たげに透子の方へと向けた。

 確かに臭い、凄く臭い。まるで……糞。


『…ほっ、あ、それ…』


「零! 無事だった。ビックリさせないでよ」



 零を抱きしめ喜ぶ透子の姿を不思議そうに眺める楓香と、抱きつかれて何か引け目を感じて妙な汗をかいている零。



「これ、零のうんこなんじゃないの?」




 楓香の一言に固まる二人?


 零がもじもじと顔を反らすのを見て透子がまさかとばかりに、少し顔を零の腹に近付け嗅いでみる。


「う、お前……」


『…ひほっ、だからよせと…』


「このクソ野郎がぁぁぁぁあ」


――BETTIBECHI――







【土金不動産・応接間】

「どうなってるの久美ちゃん」

「いや、胡唆があそこは昔から河西の壁なんだ! って言い張ってたから泉の話にのったのよ」


「でも、その話を泉から聞いた河西さんが測量屋を意気揚々と連れて行って、これみよがしに相手の目の前で測ったら真逆の結果が出て恥をかいたって聞いたけど?」


――PURURURURU――


「あ、泉からだ、もしもし今丁度佐藤さん来てるんだけど……」


――PI――


「何て?」

「何か例の息子が嘘を吐いて騙したとかで、私達の悪評をばら撒いてるとかって、更に黒子を要請しないと危険だとか……詳しい事は明日話すって」






【金皮県床下研究センター根岸・喪積もつの部屋】

 電話を切った泉の顔はニヤけ、はしゃぎ、高笑いしていた。

 新たな風雪の流布による過去の隠蔽と利己的な騙しの始まり、それは組織への裏切りでもあるが裏切りを嘘と被害者面で正当化し組織をも手玉に取ろうという事である。


 胡唆と喪積の計画、掻下達への指令、久美と佐藤の関係、共通する床鍋という巨大組織の内部に様々な思惑が動き出していた。






――JAABUJAABU――


「最悪だわ」

「毛糸うんこ」


『…びぼぼぼっぼぼ…』


「私、明日面接なんだから早く寝ないと……あ、スーツ!?……楓香さん?」

「無理」


 零を洗濯機の中に突っ込み、手を洗う二人が手を取り合い、いや楓香の手を無理矢理掴んでイメージを流そうと躍起になる透子をそつなくかわして断っていた。


 逃げた楓香を追い部屋に来て、隣の部屋へと繋がる通路を前に一抹の不安を感じた透子が立ち尽くす。その様子に楓香が気付き声をかけた。



「それは解る、不安の匂い」


 咄嗟に手を握る透子からスーツの直し方が流れてくる。


「え? あれ?」

「今、匂いで例えるのはやめて。よろしくねスーツと留守番」


 かかったな! とばかりに不適に笑いかけ精一杯強がる透子の目には再び闘志が宿っていた。

 隣の部屋は不安要素でもあるが、自身を奮い立たせる源でもある。

 透子がこれ程までに他人を助けようとするには理由がある。

 しかし、その記憶を楓香に見られてはいなかったのだと確信した事で、安堵からか考えなければいけない事を思い出していた。


 隣の部屋の鍵は楓香(本人)自らが外に出ようとした訳では無い事を、そしてあの二人の男が鍵をこじ開け押し入った訳でも無い事を如実に示す様に女の性か鏡台の化粧ケースに入っていた。


 だからといって奴等が押し入って来ないとは限らない。なのでビニール紐とタイラップで扉のノブと風呂場のノブを固定済みだが、大家さんが連れて来る業者に化けて来る可能性もある。

 何かしらの対策が急務でもあるが故に、悔しいが零の存在は大きくクソ野郎の一件も許さざるを得ないと理解していた。



「ふん、(くそ)


 楓香が仕方なくスーツの仕立てを始めていた矢先の透子の声に連想して音訓読語が頭に巡る、試しに口に出してみた。



「きょう、(むね)


 楓香の唐突の発言に透子の方が困惑していた。今日の胸にしか聞こえないのだから、まして楓香は透子のスーツの仕立て直し中……

 透子の胸が何なのかと。しかし楓香は続ける



「もう、(むね)


 いよいよ感を汲み取る透子の不安は高まった。が、透子の反応が帰って来ずやめる楓香に堪え切れなくなった。



(むね)が何? 何なのよ」


「音訓読熟語」


 文字として見ているとスグに理解出来るが、耳から入る音訓読熟語の響きは何かも判らない業界用語の様だった。


 


 嘘つきは泥棒の始まり。泥棒は人殺しの始まり。

 どちらも他人に手を出した時点で他人の人生を奪うのだから……

 なのに他人に寄生する様な輩は、虫と一緒で対策が困難ですね。

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