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33〜戦場の選択〜

 神とは何ぞや?



「あんた何やってんのよ」

「皆を守ろうと思って……」


〈……え、私からって事?……ぁ、ぁぁぁ、怒るに怒れん〉


「とりあえず、皆を開放して」


 デブるの天使の羽根を離すと楓香を崇めていた人々がゆっくりと目を覚ましていく。

 皆何が起きたのかは覚えていないが清々しい気持ちに溢れ神々しい光の記憶だけが残っていた。


 店も緩やかにザワメキが戻って来た頃ようやく藤真が目を開けた。


「あれ? 牛魔王は? 痛くない……助かった、のか?」



 喜びたいが確証の掴めぬまま周囲を見回し鈴木を見ると、また考え込んでいた。

 自分の身は……牛魔王が何故消えたのか、目を瞑っている間に何が起きたのか?

 そう尋ねようと鈴木の顔色を伺っていた。



「ごちそうさま」


 透子のなにか重苦しいストレスのある声に亜子だけは気付いたが、牛魔王の件で皆に迷惑をかけたとか思っているのか、と考えそれ程気にはしなかった。楓香も手を合わせ


「ごちそうさまでした」


 と、顔を上げると同時に透子が立ち上がり店を出る様に楓香を急かした。


「亜子、」

「お会計」




――MATTANEEEEE――



 透子達に手を振る常連の皆に上機嫌で手を振り返し、会計する透子の後ろで笑顔を返す。

 亜子が透子のストレスの理由が違う何かと気付き、気にして楓香に声をかける。


「どう? 美味しかった?」

「うん、美味しかった、えび」


「あ、そかえびね。じゃぁ今度はえびメインのパスタも食べてみて」

「うん、そうする」


「じゃ、またね行くよ楓香」

「はいコレ、何か知らないけど程々に!」


 亜子の友人ならではの進言に、頷き交わし会計を終えた透子が皆に手を振り店を出る。


 楓香がついて出て行くのを不安そうに見送った。


「ありがとうございましたぁ」





――GARARAANN――



「こんばんは、真います?」


 透子達と入れ替わる様に開いたドアから巨漢の茶尾(さお)が入って来た。


「アソコに、あ! ひょっとしてチャッビーも鈴木さんの知り合い? ちょっとどういう関係か教えなさいよ」



 唐突に喰いかかる亜子に驚くより圧倒され、茶尾がアワアワと声を出せずにパチクリと瞬きも止まらず困っていると藤真が助け舟を……

 いや、出したつもりではないだろうが茶尾に気付いて呼んでいた。


「チャッビー、亜子とイチャついてないで早く来いよ」

「なぁん!」


 藤真に手を振り返し、振り返ると亜子のこめかみに血管が浮き出ているのを目撃した茶尾は、じゃあ、と大きな体を小さくすぼめて逃げるように藤真の元へと向かった。


 二人が迎え入れるとすぐにプライベートとは思えぬ仕事の事か鈴木と話しだした。


「すいません遅れまして、鈴木さん先日の件ウチの方でも確認してみたいという事で……」




 鈴木の前で茶尾とイチャついてると揶揄された亜子が、藤真への怒りをレジ下にあった零君人形に爆発させていた。


――BOKKOBOKO――





 その頃、楓香はまた外の世界を認識しようと色々な物を見漁っている中、透子はするべき事の考えが纏まらず複雑に絡まりその苛々は楓香にぶつけぬ様にと下を向き、自制しているのも気取らせたく無いとばかりに前を向いては考えをまとめようと下を向く、その繰り返しになっていた。


 そもそもが楓香の人生を創り出す船出の祝いの場であった筈だが、それが未だに何かも知れぬデブるをいきなり自分の仲間でもある富士山パスタのお客さんや友達に使われた事に対しての怒りと、それは何故か?

 という疑問に、自身が制御出来なかった怒りを制止し皆を守る為と言われ、怒るべき相手と事象が混同して中々にどうするべきなのかと、反省すべき点と注意すべき点までの答えに行き着かず苦悩していた。




「追い出そう暴力団はまちの敵……これ、どっちも暴力団だよね」


 古い警察のコピーだろう、確かにその通りだと思った瞬間、透子はようやく理解出来た。不覚にも楓香のヒントによって。



「楓香、これから言う事は絶対に守って」


 楓香に警戒心の様な動きが見えた。それが成長なのかもしれないが、透子が伝えようとしている事に対して重みを感じている証拠でもあり好都合の様にも思えていた。


「良い?」


 警戒しながらも頷く楓香に安堵した透子は冷静さを取り戻し、優しさを持って話し伝える事が出来ると確信した。

 ……筈だった



「まず、絶対にデブるを悪い事をしてない人に使わないで」

「……悪い事」


 そう、悪い事をしていない人とは……

 確信した筈の冷静さを失うには十分な楓香の疑問符に、自分の甘さを感じた透子は、これが生みの苦しみとでも言いたげな創造主たる者からの試練なのかと更に考えさせられる事となった。


 善悪の判断基準……

 説明出来る筈が無かった、世に子を持つ親もまたこの試練を受けているのだと気付くと、この試練は超えるものではなく選択するものなのだと解る。

 ぃゃ、解らなければ親としての資質も無ければ自覚も出来ていない駄目親そのものだともいえる。



 正義こそが世の中の差別や偏見に満ちる考えや、宗教観念における理想論の果ての自己正義と罰論を作り出し、他人を理解しようともせずに極論や嘘で反論し相手を批判する事で自身の反省も出来無いクズ人間を育み増殖させてしまう最悪の悪を創り出す考え方であり、悪癖もまた正義を創り出し被害者を出すのだから。


 創造主も親も今の透子も同じなのだと、始まった人生を選択するのは子供本人で注意や助言は子の為にする事だ。


 だからこそ選択をせまられる、自分の価値観を押し付けるか子供の考えを尊重するか。透子が至った答え……



「ごめん、私より楓香の方が正しかったのかもね」

「……正しさ」


 楓香には透子の言う正しさが理解出来ずに下を向く。難しいのは説明の仕方もだと気付き苦悩する透子がそのまま口にした



「人も人の心も傷付けたり馬鹿にしない事。これは私と楓香との約束!」

「うん、分かった」


「駄目、判らないの」

「え? 意味が解らないよ透子」



 楓香がキョトンとした顔で理解出来ずにいる。透子はそれを見てこれで良いと思い、続けた。



「そう、判らないのよ人の心なんて。アンタには私の記憶が見えてるみたいだけど、私の心までは見えていないの。まして触れもしない他人の心なんて見えやしないでしょ? だから解る為にも相手の気持ちになって考えて欲しいの、出来る? 約束」




 四十秒程か、透子の説明を精査しているかの様に真顔で考え立ち止まり目だけがアチラコチラへ飛び、それはまるで頭の中で広い倉庫に分配し整理しているかの様だった。



「契約ね」


 唐突に口にした楓香の契約という言葉に、心の隙間に入り込む詐欺師の様な悪魔にも似た異様さを感じたが、約束の同意だと思い受け入れた。



「約束よ」


 

 尊厳を重んじるのが人

 尊厳を軽んじた時点で人で無し

 神は尊厳の元にこそ存在したる全脳の知。

 それが各国の古の神々を調べ突き詰めて考え導き出した私の答え。

 この話には粗関係無いと思いますが(笑)


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