32〜戦場の選択〜
遂に、やっと、とうとう、でも違う。
「藤君あの二人と知り合いなんだっけ?」
鈴木が不穏な目で二人を追い藤真に尋ねると、藤真が後ろを確認した直後、酷く冷めた目と愚弄する様な顔でこちらに振り向き
「まさか、鈴木さんもアッチにつく気ですか?」
「は?」
「は? って違う? え、あ! あの友達?」
「何の話?」
――???????――
タッグマッチに向け闘志を燃やす藤真は、経験上からあの二人を見つめる鈴木の視線を、また自分の友達がファット側のファンになったのでは?
と不安感から疑ったが、勘違いに気付いて考えた挙げ句に出した答え
「あ、小出さん狙いですか?」
「なぁん?」
遠くから亜子の怒りにも似た奇声が響く中、鈴木もまた疑問符を投げかける顔で固まっていた。
「あ、ぃゃ、そういう意味では無くて、彼女達とはどういう関係なのかな? と」
「え? あぁ、同級生です。ファットの、透子の、デブ……フィットになったファットの……あれ?……」
藤真は小さい頃からファットと呼び続けていたせいで、今の痩せた透子もフィットのファットとしか表現出来ず、席の左右で示す事も髪型で示す事も出来ずにあたふたと透子に対し自分の持つイメージが邪魔をして、どう説明すれば良いのかすら判らなくなり動揺していた。
「あぁ、大丈夫! あの二人のうちの一人が同級生なんでしょ? じゃぁ、あの団子頭の子だ」
「なぁん?」
「そお、そおですあの団子女ですよ! え、良く判りましたね」
当然の事だろう、楓香はさっき皆によろしくと紹介されていたのだから。
鈴木は少し不安を感じ出していた……藤真の仕事の方に。それにアノ二人にも。
そんな二人を見つめる鈴木の視線を追う亜子もまた透子に熱い視線を飛ばしていた。明らかに恋のライバルとして。
――TOUKOOOHH――
楓香は透子越しで鈴木に見られている事には気付かず藤真の背中を見ていた。
「さっきの人って透子の同級生だよね?」
「亜子? そうだけど……ってあんたまた記憶を?」
ハッとして小声になる透子が周りを見渡す、その姿が亜子にはまるで鈴木をコッソリ確認したかの様に映っていた。
「違うトーシンって方」
「あぁ、ガリか……ガリがどうかしたの?」
「何か……透子と同じじゃないかと思って」
「はぁああああ? あんなのと一緒にしないでよ」
「ふむぅ……」
透子に否定された楓香が下を向き考える中、それを見ていた亜子はピンと来ていた。
〈あれ? あの娘、藤真に?〉
間違ってるとは気付かずに。
「……それはマズい」
「あ、亜子これからも楓香の事よろ……どうしたの?」
透子の後ろで闘志を燃やし見下ろす様な目を向ける亜子の顔は背後の照明で影が差し、前方の照明が目を光らせる。
振り返る透子からは異様な雰囲気しか判らないが
「透子、あんたトーシンと一緒になりな」
「は?」
――NANINANIKYUUNI――
「小出ちゃんもそう思うよね」
詰める亜子の話を理解出来ている者は今この店には皆無だが、楓香の中で【同じ】と【一緒】がイコールで結び付いた結果。
「うん、同じ一緒同じ」
亜子は同意された事に驚きもしたが、感が良く立場を理解し引く事の出来るいい女だと楓香を高く評価した。
同意されたのでは無く、同意とされたとは気付かずに
「私新重亜子よろしくね。亜子って呼んでいいから、私も楓香って呼んでいい?」
「うん、よろしく亜子」
――NAGOYAKAAAHH――
「ぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃ……お待ちなせぇ、お二人さん」
一人置いてきぼりを喰らっていた透子の怒れる牛魔王が背中から顔を出していた。
亜子も楓香も牛魔王化した透子の怖さを知っている。お互いの顔を見合わせ初めて共感したのは激痛だった。
「誰が一緒だんモぉぉぉお〜!!」
――GOTTUUNN!! GOTTUUNN!!――
牛魔王の鉄拳骨が二人に落ちた。初めて見た一見さんと鈴木だったが迫力に圧倒された人は皆同じ言葉を口にした。
――DETAAAAAHH――
藤真は振り返ると鈴木の形相に慌てて取り繕うが、それも聞こえていないのか鈴木が溢した。
「アレは……間違いない……」
藤真は経験上知っている。牛魔王を見た者の恐怖の顔を!
鈴木を必死に正気に戻そうと翻弄していた。しかし鈴木のそれは少し毛色が違っていた。亜子にはそれが見えていた。
「くぅぅぅ、たたたた、よし!」
〈この透子の牛魔王を見て惚れる馬鹿は……馬鹿しかいない〉
そう考えればこの痛みも和らいだ。が、そう思い見た鈴木の顔がその馬鹿に見えてしまった……間違いだが
「嘘でしょ〈あの牛魔王を見て、あの顔は違う。あ、あれか、強い女に惚れるとか……でもコイツは強過ぎだろ!〉」
店の常連さんや一見さんも正気を取り戻す中、牛魔王のそれとは別に勘違いの渦が取り巻く一部の正気を失っている人々、藤真は鈴木を説得にかかっていた。
「あの鈴木さん? アレはファットというバケモノで、人ではないのですよ。珍しい物が見れたと考えて動物園にでも来たと思えば恐怖も、ね」
そんな藤真の声が、亜子と楓香が静まった透子の席に届いていた。再び透子の背後に牛魔王が宿る。
「はっ」
鈴木のハッとする姿に正気を感じた藤真が、安堵と同時に狂気を感じ振り返ると店内にも再び重くおどろおどろしい狂気が張り詰めていた。
――KUURUUKITTOKURUUUHH――
「あ、俺か……鈴木さん……逃げて」
そう捨て台詞を残し、罰を甘んじて受けるとばかりに目を閉じ滝行の様に頭を差し出した。
牛魔王の歩用は周囲の椅子をも遠ざけ亜子は一見さんを気遣う様に見せぬ様にとトレイで隠すが意味は無かった。
しかし次の瞬間、牛魔王の足が止まる。考えられない事が起きていた……
――PIKAAAAAHH――
店内の人々が皆、片膝を着き敬意を示す者、手を合わせお辞儀をする者、信仰により様々なのか無信心な人もまた超えられない何かに苦悩した様に下を向き……
「……これって」
牛魔王の気配が消えた透子は皆が崇める方に振り向くと、そこには予想通りに楓香がいた。
「あんた、まさか?」
楓香はニコリとデブるの天使の羽根を掴んでいた手を上げて見せた。
使い処が違うけど、ついに天使の羽根が使われました。




