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31〜戦場の選択〜

 今夜来たのは敵か味方かはたまた



――KACHAKATYAKACHAKATYA――


 ニンニクの香味が舌から喉へと心地良く鼻に抜け、輪切り唐辛子の辛味が刺激を誘う。

 噛めばタラコの粒が弾け、中から溢れる薄っすらと漂う塩味と粉チーズの塩味がパスタに纏うオリーブオイルに混じり合い、磯の香りは魚介の具材へと引き寄せる。


「ぁぁぁ、幸せ」

「美味しいね、でもボンゴレって何て意味なの?」

「知らない、あさりじゃないの?」


 その程度の認識で良いのです。食べるのにウンチクは必要ないのだから。

 時よりテレビやネットでも出て来る自称専門家や何何を守るNPO代表の……とか、何何に詳しいなんちゃらさんが出て来ては本当は必要なマナーだルールだを謳い彼等に都合の良い話で都合の悪い相手を一方的に攻撃する。


 勿論、皆の快適の為のマナーやルールはある程度は必要だとは思うが、誰の為かも解らない、もしくは明らかに利益を引き寄せる為の一部のプロ市民や企業に都合良く改ざんされたそのマナーやルールに意味があるのかと……



 例えば不遇のアニメや漫画、それに自転車を叩く輩を見てもそう、遊歩道や自転車道の出入り口や横断部にある車止めのお邪魔ポール。



 あれは80年代後半辺りの新聞を読むに遊歩道に暴走族や朝刊ピザ屋のバイクが乗り入れ暴走して、横断部には車が突っ込みと、元は危険防止の為に設置された物だが、自転車乗り入れ禁止のポールなんだ等と平然と嘘を吐く。


 まして今やその自転車を守る為のポールが過度に設置され邪魔をし自転車を危険にさらしている。



 更に煙草を叩くのを悦にしている輩がいる。

 夜分に喫煙所から楽しそうに吸い殻を取り出し何処へ持ってくのかと、追跡するとサイクリングロードに一本一本丁寧に並べ置き消えて行った。

 夜風で飛ばされ散乱した翌日に、とあるイベントが行われた。

 ごみ拾いだ。

 その主催者として吸い殻を並べた男達の姿があり、当然の様に参加者に尋ねた。一番多いのは何のゴミでしたか?


 と、それが事の真相だった。





 そして、このパスタもまた同様に狙われていた時期があった。

 一時乱立した本場イタリアンパスタなる店の主張たるや弁当やチェーン展開する大手飲食店に至るまで多くの芸能人を含め、我こそが正統派!


 これこそが本場の味!


 と、自分こそが正義の様な顔をしてメディアの前に立ち吐いた。アレは邪道・アレをするのはパスタじゃないと……


 その代表ともいえるのが【ナポリタン】だった。

 あれは日本人が勝手に作った物で本場には無いナポリの人は怒ってる!

 本場でケチャップを使うなんてあり得ない、そんな物を出せば店は終わりだ!

 と、ナポリタンをこきにこき下ろしナポリタンを扱う店まで貶めた。



 それから数年後、本場パスタの店が衰退の一途を辿ると正義面してナポリタンを貶めた輩共が平然と【懐かしのナポリタン】と銘打って店にメニューをシレッと出しては


 これが正統派の昔ながらのナポリタン!


 等と言い、いつの昔かも知れない昔ながらのナポリタンはピーマンとソーセージだけ乗せた、ベチャッと伸びたパスタの家庭よりも劣る味で、恥知らずは平然と嘘を吐き続けていた。



 しかし、ここ富士山パスタはそんなメディアの大々的なこき下ろしの話にも揺るがなかった。

 何せそんな恥知らずの馬鹿共が舌を巻く程の味と共に、看板には舌を巻く一文が添えられている。



【いたりあ風スパゲッティの店】


 と、そして透子もまた一番好きな料理がここのナポリタンだった。

 何故ならここ富士山パスタのナポリタンはトッピングではなく最初からえびや貝やの魚介が全部乗せてあるのだから。


 日本人が勝手に作り出したナポリタンを更に考えて作り出したナポリタンなのだから。


 これが、いや、ここが本場のナポリタンの店だと。



 そう自負する透子は今、ニンニクベースのボンゴレ魚介全部乗せのタラコ味に舌鼓していた……



――DOREMOUMAIKARA――




 そんな中、藤真と共に入って来た男は楓香と客が盛り上がっている時も食べ始めた今も尚、席から二人を凝視し続けていた。


「すいません、アイツの顔を見るとつい何時もの癖で、忘れてた訳では無いですよ」


 藤真が弁解しているのも聞こえていないのか視線も合わせず二人を凝視し続けているので、弁解が間に合わない程に怒らせていたのでは?

 と慌てて取り繕う中、亜子が興味津々に近づいて来た。


「あれ? 違う席に案内したのに、トーシンのお知り合いですか? 気付かなくてごめんなさい。というか、良い……」

「何が?」


 亜子の良いに対する藤真の疑問符には目もくれず、しまったとばかりに取り繕おうとした亜子は、見れば聞こえていないのかと男の視線を追うがあちらの二人、興味が湧くのも頷ける。

 しかし藤真とはどういう繋がりなのかも判らずの中、思い切って視線を遮る様に顔を出してみた。


「どうも、ご注文はお決まりですか?」


 ようやく我に返った男が藤真と亜子とテーブルとメニューにと慌ただしく自分の立ち位置を確認しだした姿を見て、藤真は安堵し亜子は微笑んでいた。


「すいません、何かボーっとしちゃって。メニュー、まだ決まって無い、というか藤君これどうすれば良いの?」


「あ、怒ってないんですよね?」

「はい?」


「良かった。こちら鈴木さん、実家の裏山の件で茶尾と三人で話してて富士山パスタの話になって来てみたいってなって、ね」


「あ、えぇ」


「……良い」

「? 亜子?」


「何? あ、注文。違う、メニューね、単品なら普通に頼んで貰えればいいので鈴木さんのお好きな物をどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


「……良い」

「亜子?」

「何? 鈴木さん決まったら呼んで下さいねぇ」


 明らかに鈴木に対して贔屓目(ひいきめ)の亜子の様子にも気付かない藤真はともかくとして、奥の二人が気になっていた鈴木に亜子の気持ちはまだ遠く、ときめく吐息は流れる飛行機雲の様だった。


 

 コントレイル……無敗の三冠

 果たして亜子の恋路は無敗となるのか……


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