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30〜戦場の選択〜

 乾杯の風景、祝うか呪うか。



――KAAAAHHNN――


「おめでとう楓香」

「何が?」


「えと、誕生日よ、昨日の今日じゃない?」


 本当は人生の始まりと言いたいが店の中でそんな事は言えない。いや、言える方法はあるのだろうが、そんなややこしい事を考えるより単純に早く祝いたかった。なので



「とにかく、おめでとう」


「え、小出さんの誕生日だったのか? 早く言えよファット、おめでとう」


――OMEDETOOO――


「……ぇぇぇ、と、ありがとうございます」


――PATIPATIPATIPATI――


「誕生日では無いですが……」

「え?」


――CHIGAUNKAAAAAII――


「おい、ファット」

「ぁ、ぇ、と、富士山パスタの仲間入りに! って話よ」


「なるほど、ん? 何だやっぱりバディか」


――OMEDETOOO――


「あぁ、うん、いいのかな? ありがとうございます」



 盛り上がる客と意味も分からず乗る楓香をよそに、透子は船出に失敗した事実に気付き苦悶の表情を下を向き隠していた。


 富士山パスタの仲間入り・バディそれはペア登山を意味する。透子はこれまで一人だった分ペース配分もルートも自分の思うがままだった。

 しかし、バディとなればお互いのペースに合わせてルートを考えなければならない。シェアする事で余裕が生まれるので倍近く登れる等の利点の方が多いが、何故苦悩するのか……


 透子は人と呼吸を合わせるのが大の苦手だからだ。そしてこのルートではシェアが出来る反面、相手が食べ終わるまで次の皿は出ない。

 つまり待ち時間が発生する。

 それはパスタに置いて最も恐れる時間。


 お腹の中でも水分を吸ったパスタが更に膨張し満腹感を呼び起こしてしまう、それは本当の登山でも休憩し過ぎると動けなくなるのと同意だろうが、ペース配分がある程度同じ位でないと中々にテッペンは目指せない。



 そう、山では無理は禁物だ。

 共に登る相手が居るなら相手が無理をしないで済む様に考えなければ要救護なんて事になる。

 

ちなみにルートの中にも救護代わりのオーダーストップがあるが八合目以降は無い。

 その為メニュー毎に確認する事になるが、当然ルートはコース料理なので時間がかかる為、店の回転率が下がりましてや八合目以上となれば食材の確保も必要となるので八合目以降のオーダーストップは当然の様に倍額請求となる。


 だからこそ現在テッペンは、大食いの人達が金のある時に楽しみにし、パーティ等で楽しむ人達が多い。

 そこには【お鉢巡り】なる特別メニューがあるからだが、透子やトーシンにはお金よりもパーティーが出来る程の仲間が居ないので必死になって目指しているのではあるが


――SIKASIFUUKACHANNSUTAIRUIINAAMODERUSANNKANANKAKAI――


 彼等を知る常連客は、一緒に登山すればスグなのに……

 とは思いつつも、決して口にはせずに黙って観ていたが、今や押せ押せで観ているのは何故か、単純に二人の競争が観てて面白いからだ。

 そして……


 藤真はオーナーの孫だという事を皆知っていたが、七合目をチャレンジしていた透子のファンが増え続け次期オーナー候補とまで言われ出した事で黙っている訳にはいかなくなり、チャレンジするものの中々に道は険しく六合目で喘いでいた。


 そんな折に常連さんから噂を聞いたオーナーが自ら出て来て、次期オーナーの権利は透子に勝てなければ渡さない。

 と、透子と常連さん達の前で孫である真に言い放った事で闘志を燃やしたが、トーシンつまりガリガリの痩せっポッチの身体には無理だろうとハンデとして友達の茶尾をバディとして認め、最近になってようやく七合目を制覇し八合目に挑戦中だった。


 そこへ持って楓香の登場だ。一様はこの先の展開に期待を持って見守っている。

 そんな矢先に、富士山パスタの仲間入りと言えばタッグマッチ宣言に等しく、確実に楓香の船出に嵐を呼び込み要らぬ渦に巻き込んでしまったと苦悶する透子の気持ちを理解する者は店には誰一人として居なかった。


 自らが招いた事とはいえ……



「ドツボだわ」


「はぁいお待たせぇ! ドツボなんて料理無いわよ? 風穴(ふうけつ)氷穴(ひょうけつ)のこちらがニンニクベースのボンゴレで、これがニンニクベースのタラコ味で魚介全部乗せでぇす、ごゆっくりどうぞ」


 (うつむ)く透子をよそにムール貝、たこ、えび、いか、と、一つづつ自分の皿に入れていく楓香も気になっていた……


 えび。

 三個入っているうちのもう一つを……

 しかし吹っ切れた様に透子は小声で切り出した


「これからの楓香に、何があっても私が助けるから、ね」


 そう言って、えびを楓香の皿に入れて来た透子に……楓香は恐怖を感じていた。

 そう、見られていたのかと。

 透子には考えを覗ける手も無い、ましてや(うつむ)き下を向いてこちらを見もせず考えを読む力に。


「さ、食べよ。いただきまぁす」

「い、いただきまぁす」


――BAGONNN!――




――KAPPUSHUWAAAAA――


『…あああ、糞っビールが旨ぇ…』


 

 祝いも呪いも結局酒か。

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