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28〜戦場の選択〜

 子供自分を思い出せば大人になれる?




〈これから何て呼ぼう? 零? 徹? 帰ったら一番最初に必要な事だもんなぁ……参っちゃうわ……呪いの人形の癖に私を悩ませるとか、生意気よっ!〉



 大家さんの家に行く時は名前を覚えさせていたし帰りはデブるやバンに遭遇と、外の景色を見るまでの余裕は無かったのだろう、楓香の顔が爛漫と輝きあちらこちらを覗き込む姿はさながら幼児の様だが微妙に違う。


 子供の興味を引くのは自分の視線の高さにある物だ、楓香はといえば透子の理想体型つまり


 168cm45kg

 B85W58H86


 と、憧れていたモデルの鈴木笑未の体型だが、胸だけは欲が膨らみ足していたので恐らく理想通りになっていればこの数値で間違いないだろう。

 10センチも変わらない透子が少し見上げるのは楓香の顔が小さいが故だろうか、足のサイズに理想は無く考えていなかったが透子と粗同じで24センチの靴でピッタリだった。そんな楓香の視線にある物といえば


「透子の団子ヘアーって美味しそうだね」


 そう透子の頭だ。牛魔王と呼ばれていた頃は顔だけでもスッキリ見せようと無精に伸びた髪を束ねていたが今や……

〈変え時か……〉




「あの看板は何の店?」


 これは子供と変わらない、なにせ透子も子供の頃に電車の窓から見える物に興味を示し、満員電車の中で母にラブホテルの名前を連呼してはアレは何かと何度も聞いていた。周りの大人も顔を背け、その車中母はきっと地獄絵図の様な拷問に感じていた事だろう。


 しかし、アレは仕方がないと理解する。大人になった今でも明らかに興味を引くのだから……


 自由の女神や花火イルミネーションにお城や派手で艶っぽい照明に隠れ家的要素の高い入口という子供も大人も関係なく興味を引く外観に、大人だからこその興味を引く口説き文句。

 プール完備は面白そうではあるが、値段設定なんてメチャクチャだし各種取り揃えてますとか、あなたの夢叶えられます。なんて

〈何、それって何なのよ?〉

 だから透子は当時の母と同じく無視する事にしていた。




「あ、チンコ」


 そう、知っている。透子も時々帰りに見て思っていた。

〈まだ直してなかったの? これ、もうワザトなんじゃ?〉

 パチンコ屋あるあるの上位ネタ。全国の子を持つ母親にとっては迷惑極まりない看板だ。否、修理してあれば別にどうでもいいのだけれども。


 しかし男の中にはこれを悦びドライブ中に言って来る輩がいる。それ、女を誘うのにそんな連想が必要だと本気で思っているのか? と、聞けば俺はしたいんだのお知らせだとか……

〈だから男は子供扱いされるのよ〉




「見守りの家って何? 覗き魔って事?」


 しかし楓香のおかげでこの国には看板やポスターが中々に多いと理解させられる。よく見れば街は文字だらけだ。


 サイバー空間として出て来るアニメや映画の映像には漢文が局所的に使われて近未来感を出しているが、現実の方が文字が多いのだと判ってしまうと近未来は現代の乱立している文字を整理して減らせば良いのでは?

 とも思えてくる。




「景観を守ろう……景観って、このポスターが一番汚してるじゃん」


 たまに核心をつくのは汚れ無き目の故か、そうだ例えば政党ポスター等だ、明らかに景観を損なう物事が書かれた文字や顔やが貼られた店のガラスや壁や公園の柵。


 アレこそ脱ペーパーでネットを使い自治体のホームページなりに全員分を掲載し政見放送も配信すれば済む。

 老人やネット解離者には知事報・市報を使えば良い。それに党公認で金満の候補者と、政党金は無く協力者も少ない立候補者との格差も無くなり真の平等な選挙となるだろう。




「あり〼、これ何て読むの?」


 しかし金満政治家は誰の献金なのか自転車の駐輪や電線が景観を損なうと言いだし喫煙所と共に撤去を叫ぶ。

 まるでホロコーストのユダヤ人の様に目に付いた物は全て排除され(かくま)えば罰せられていく。

 そして選挙後もその景観を守ろうと宣う文字や顔やが入ったポスターが花壇の柵や木々の脇に貼られたまま残り風化し……

 これが民主主義かと疑ってしまう程の洗脳報道。


 お陰で楓香がさっきから舌先三寸口八丁の政策の文字ばかりを読んでいて、道行く人の視線が痛く怖くなって来た所だ。早く店に入りたい……

〈そぉぃぇば、店の中はメニューだらけで……そろそろ黙らせるか〉




「教育費……」

「楓香、富士山パスタに着いたらお願いがあるの……」





――CHIIIINN――

『…ひほ、焼きたてが…』





「透子ちゃんの友達ってやっぱりタッグマッチ?」

「違うみたいな事言ってたけど、まだ私も会ってないし」



――GARARAANN――


「こんばんはぁ」

「あ、来たよ。いらっしゃぁあい」


「? お客さんか……」

「いや、透子と友達」


「え? あ、友達って二人も?」

「違う、アレ透子」

「?」



「この子は友達の楓香です、よろしくね」


 客は皆戸惑っていた。楓香を受け入れて貰えるのか? そればかりを考えていて自分の事をスッカリ忘れていた。よって透子もまた戸惑っていた。


 これは受け入れて貰えるかどうかの状態では無い事には気付いたが、何からどうすれば良いのかと……

 そして思い出した、あのオールマイティカードの存在。むしろココで使わずにいつ使うのか、と




「あ、私、富士山パスタ八合目の透子です……」



――EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEH――



 店構えとは裏腹に、入れば奥行きがあり客席もまま在るフローリングとは違いそれなりの踏み応えがある板張りの床を持つ富士山パスタから、地鳴りの如くに通りの他店にまで響き渡った疑問符を、後に常連客は宝永火山の噴火だと例え近隣に伝えた。


 

 大噴火の後には火山灰。それは様々な生き物を死に追いやるが、後に関東ローム層となり植物を育み生き物に食物を与える。

 透子達には?


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