25〜戦場の選択〜
爽やかな香りも懐かしい香りも危険な香りも色々と詰まってます。
『…ま、今度はその山の上に行ってきな! 菅原の母親…山姥にでもなってなけりゃ結婚の話位迄は聞けるだろうぜ…』
「そぉね。天扉岩地区か……」
『…お前の残念な山に比べりゃ何処も高い山の上だけどな…』
ブチッ#
「で、アンタはわざわざそれを言う為にシャワーの扉の前で待っていたと……」
『…ひほっ!…』
「というかアンタ誰よ?」
『…ひっほ!…』
「楓香、元に戻して! 何かコレ見てるだけで腹立つわ」
「ふむぅ……」
『…え、俺はこのスマートな方が…あ、こら、オイ!よせ…』
「綿、戻しまぁーーす」
『…あ…よせ…嘘……そんな……ぁ…』
楓香が零の首周りの一部を解きマッドサイエンティストさながらに綿を人形に詰め戻す中、それを横目にTシャツを被り濡れた髪をドライヤーで乾かす鏡の中の自分の姿に今更ながら不思議さを感じボーっと見ていた。
半分位だろうか? 亜子に悪いとは思いつつも自分の顎を久々に見た透子は歓びや感動よりも、数年振りに再会した友達の様に思えて愛おしくもあり成長して何処となく変化した姿に驚きただただ見入っていると、乾かし過ぎた髪が肌に触れ、熱さで正気に引き戻された。
楓香の前を横切る様に手を出しケースから謎のボールを抜き取る透子に、縫合する手を止め目をやると慣れた手付きで乾いた髪を纏めて団子ボールに絡めて行く、三段団子ヘアーの完成に要した時間は、はみ出た毛を収めて僅か四分。
「それ、そうなってたんだ」
「ん? あぁコレね。楓香もやってみる?」
「…………いい」
妙な間と返答に透子も理解した。
が、楓香の考えたソレでは無かった。
〈まぁ、面倒臭いもんね〉
当然楓香は感受性の違いによる選択だ。おそらく覚えれば透子より早く出来るかもしれない。しかし楓香は何をするとも無く洗髪後も乾けば完璧なヘアースタイルを維持している。
と、いうよりも維持する様な癖毛になっていた。それが透子の願った理想体型の女の真骨頂であり、機能性と利便性と汎用性を持つ究極の美なのだから……
「そぉぃぇば、このデブるの羽って洗剤で洗っても平気なの?」
「……多分」
〈そうだった。コイツに聞いても……まぁ、これ強そうだから大丈夫よね〉
心配になった理由は、透子が小学生の時の失敗を思い出したからで、赤や緑の羽根を配り配られるアレの記憶……
……回想……
「おい! ファットどっちが先に羽根が無くなるか勝負しようぜ」
「募金活動なんだから勝負なんて駄目よ。それに透子ちゃんは明日の分も持ってるんだからね」
「チッつまんねぇの」
――DONN!BATANN!――
「あ、ごめんなさい」
「いやコチラこそごめんね。ありがとう。これ、募金するから、ね!」
「ありがとうございます。では……こちらをどうぞ」
「ちぇっ! 敵に塩ってヤツだな」
「こら、透子ちゃんが居なかったら今の人倒れて怪我してたかもしれないんだから、透子ちゃんに謝んなさいよ!」
「ちぇっ、悪かったぁ」
「あれ? 透子ちゃん? どうしたの?」
「私の羽根……」
「あぁ、今の倒れたサラリーマンの腕で……」
「あ、汚ね。羽根グチャグチャじゃん」
「あんたがよそ見してぶつかったからでしょ!」
「私、洗ってくる……」
「え? 待って、駄目よ待って透子ちゃーん!」
次の日、全ての羽根を丁寧に、一枚一枚を綺麗に奇麗に洗い真っ白になった羽根を持って自信気に現れた透子を、募金活動の大切さを教えるべき大人達は誰の為の募金なのかも忘れ、大人気なく活動の趣旨を忘れ羽の色の意義を唱え活動を放棄させた。
……回想……
〈あの時の羽根とは違って色も無いし丈夫そうだし……大丈夫よね……〉
「出来た」
「何か、元より太ってない?」
『…ひぃぶぅ…』
【金皮県床下研究センター根岸】
「三太どういう事? 掻下が素体を持ってきたって。マジカルパウダーで掻下も殺すんじゃなかったの?」
「ふぃっ、判んない。ただ掻下は別の殺しで利用価値が出来たろ? あの境界線詐欺失敗したせいで恥かいてるんでしょ……泉ちゃん捕らぬ狸で河西に随分と奢らせてたもんね……だから見抜いたあの息子をさ……」
「それ、自治長騙して黒子要請して殺すんでしょ? 早く殺してよぉ!」
「違うって! 殺すだけじゃ奪えないから序でだからさぁ泉ちゃんは土金の娘に……で、被害者って事にして利用してさぁ黒子要請したら自治長も殺しちゃえば自治長の座もさ……」
「それ、組織も騙すって事?」
「大丈夫黒子要請したら止められないんだから利用してやんの。木を隠すなら、嘘も大きな嘘をに入れちゃえばさ」
「ふうん、じゃあ松田を怒らせればいいのか?」
――BEAAAANN――
「おい、箱根着いたけどコイツまだ起きないのか?」
「死んでねぇよな?」
「いいから胡唆の所に持ってけ!」
「どうせ喪積と居んだろ?」
「何で子育部がここに?」
「胡唆のアレだ」
「キモ」
――KATAKATAKATA――
豆腐屋の従業員の行方をSNSや掲示板で追うも途中で追えなくなり諦めると思っていたが……
零のパソコンスキルに透子はただただ驚いていた。見た事の無い画面と使い方に自分のパソコンとは思えない動き。いつの間にか入れられていた別のOSに、コマンド打ち。
それを知らずに、使っていた間ずっと見られていたのかと思いハッキングの怖ろしさと悍ましさを改めて理解した。
だが、透子は安堵もしていた。何故なら自分を覗いていたハッカーは……人形だ。
呪いの人形とはいえ、見ず知らずの輩や近隣住人、例えば自分の育った家で隣近所の人間に覗かれていたとしたら、これ程に気持ち悪い愚の畜生話は無い。
痴漢を超えるストーカーや計画殺人にも匹敵する最高刑罰を間違いなく望む。
それだけに組織の連中に覗かれているよりは何万倍もマシと感じるのは当然だ。
〈そぉぃぇば、人形を作ったのって……高校二年の……あれ? あれ?〉
「あれ? 零、あんた、いつから?」
『……』
――KATAKATAKATAKATAKATAKATAKATAKATA――
香り……混ぜるな危険。て感じですね。




