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24〜戦場の選択〜

 やはり前進あるのみですよね。



〈ここなら自転車も見えるし、弁当も座って食べられる〉


 隣町のスーパーでは昼用に多めに出して売れ残った弁当が少し値引きされてお得に見える物と、午後からの客用に午後何時に作りましたと出来立て感を推す弁当。

 今、透子が生活する上では当然お得な方に目が行った。


 動いた透子は肉ボリュームが有りながら値段の安い鶏肉系の弁当を物色していると40%引きシールの貼られたチキンカツ弁当を発見し手に。


「え、」

「あ、」


 一回り程上か、主婦っぽくはないがOLっぽくもない汗を流した感がある。透子は直感的に譲り自分は20%引きの親子丼を取り会計を済ませイートインの席に着くと隣の席に先程の女性が申し訳なさそうにやって来た。


「ごめんねぇ、あなたも体力系なんでしょう?」

「え、あぁ、私は……少し自転車で春る菜の方に行って来ただけですから」


「春る菜に自転車で? あら凄い。あ、ロードバイクってやつ?」

「あ、ぃぇソコの折り畳み自転車なんですけど」


「あのチッコイので春る菜に行ったの?」

「えぇ、あの……」


 そろそろ食べたいんですが。と言いたい所だったが、何か虫の知らせか、この女性が気になっていた。


「あ、ごめんね食べて食べて。あ、あとコレ良ければ飲んで」


 と差し出されたナグルトを見ると女性は怪しい者でも怪しい物でもない事を伝えようと


「大丈夫よ、変なの入ってないから。私ナグルトレディで今日は発注ミスしちゃって買い取ってきたのよ」

「ナグルトレディ……」


 誰もが見聞きした事はあるがどういう仕事形態なのかは良く知らなかった。

 というか調べた事が無いだけだが、以前はチャリダー界隈でレジェンド的な扱いだったのは知っている。

 ロードバイクが台頭して来た昨今その名声が薄れているのはナグルトレディの主軸が三輪バイクになっているからだろう……




〈そぉぃぇば、小学校で誰かの母親があの自転車で運んでて運動会にも来てた記憶がある。営業の時に自転車から買った記憶もある。けど……〉


「ナグルトレディの雇用形態って何になるんですか?」


 つい聞いてしまった。ぃゃ、気になっていたのは本当で長林製菓での派遣切り以降、次の職場の話が未だに来ない。


「形態? ……これ個人事業主扱いなのよ」

「え、バイトではなく?」

「そお、何? 興味あるの? やる?」

「はい!」

「あら早い。私は大泉」

「不破透子二十一歳……です。よろしくお願いします〈何か昨日聞いた感じが……〉」






――PURUNN!―― 

『…ひぃ…ひ…ほ…』

「ん? ……これって……」


 楓香の出来そうな仕事は在るにはあったがあまり効率的では無い為に決め兼ね、零を縫い纏めた楓香は楓香の知り合い情報を確認していた。

 小中高の卒業アルバムの顔写真と多少の個人写真だけ、現在の顔と比較出来るかも判らない程の少ない情報に、心もとないが今手に入る楓香の友人情報はそれだけだ。



 楓香の書いた卒業文集や手紙も読んだが、目立たず大人しく……透子とは真逆のタイプに思えた。


 学生時代から凄いデブと罵られ続けても下を向かない様に歯を食いしばり人生を噛み締めて過ごす中、菅原と出会い幸せを実感した様子を見ていた友達からの祝福の手紙に楓香の過去が記されていた。


 楓香は良い思い出を持つ人間と思う他ない。楓香の目に涙が溜まっていた…。



『…ぁ…の……』

――KACYAHNN!――

「たっだいまぁーーーっ」



『…あ…コレ…たす…』

「……楓香? ちょ、泣いてんの? おい! 零、何をした?」



 涙を拭いながら、おかえり透子、と健気に迎え入れる姿は昭和の映画さながらに不幸の中でも気丈に振る舞うヒロインの様だった。透子の目に炎が宿る。



『…ぃゃ…俺…の方が…やられ…』

「楓香、コイツ何したの?」

「あぁそれ、俺の女になれ……って」

 ブチッ#

『…ひほっ!? 違う! ぃゃ、違わないけど、これはソレとは違……アレは俺のせ…』

 ボフッ#


「黙れ!この糸クズがっ! 俺の女になれだあぁあ? 調子にのんなよコラぁあああ!」


 ボフッ#ドカッ#ゴゴッ#####

『…何・だ・て・俺・が…』


――BOKKOBOKOBOKKOBOKO――




「ふん、折角ビール買って来てやったのに、大丈夫楓香?」

「うん、あれ? 透子???」


 楓香が手元を指し、つい寸前まで泣いていたとは思えない程の冷たい眼差しを私に向けていた……


〈え? 凄く……怖いんだけど……何だろ? ……手元……あ!?〉


 お土産だ、行く前に手から私がコッソリ食べるドーナツやソフトクリームのイメージを覗かれている。間違いない!

 しかし、それは



「違う! ぃゃ、違わないけど、その……それが……あの、店が……」


『…ひほ…ぉ前も、コッチに来ぃょ…』


 今さっき自分がボコボコにして壁に投げ付けた零が、縫い留められた手足で不自由そうに這いずり同じ地獄に誘っている……


「透子? 約束……」

「ぃゃ、違う! 私はちゃんと、店……店が倒産してたのよ……」


『…言い訳、か……苦しぃな…』

「のおぉぉぉ、違う! 黙れ! 本当に倒産してたのよ!」

「結婚するのに?」


「そお! そうなのよ……」


『…「あやしいぃぃぃ」…』


「何でよ。だぁかぁら! 富士山パスタ予約しといたの!」

「あ、大家さん()?」


「違う、違わないけど……あぁもう! お店よ。お店! 今日は登頂しないから樹海パスタだけどね……」

「樹海?」


「行けば解るわよ。とりあえずそんな訳で店が倒産してて菅原の手掛かりが無くなったのよ。零、他に何か手立てはないの?」

『…手…立て…俺の手、が先だろ…』


「あぁもう、シャワー浴びてくるわ…………楓香、解放してやって」


『…介抱序でに…補修も、な…』

「ふむぅ……」


 

 止まらない? 止められない?

楓香も透子も……零も?


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