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22〜変化の決意〜

 レンチンしてますか?

 レトルトカレーにチーズとカラシが好き。

 さて、決意は固まった?



〈何が血眼(チマナコ)(ごう)よ。私の真っ赤な……〉



「赤だよ! 駄目でしょ!」

「えぇぇぇ車居ないんだから良いじゃん。面倒臭いなぁ……」


 五歳位の男の子が、歩きスマホで信号無視の横断をしだした母親に注意をしている、近年良く見かける駄目親の光景、透子は走り出して五百メートル程の通りにいた。



〈赤信号……というか車いないけど私がいるっての!〉


 つい最近まで透子が乗る自転車といえば市内レンタルの電チャリ位だった。

 しかし百キログラム近い透子の体重に電チャリが疲弊するのは早く、レンタル料金に見合わない距離で電動部品が(おもり)と化す事が多々あり透子を見かける人の印象もサーカスの熊。


 有名な土中(つちのなか)サーカスが隣町に来ていた頃、子供に指をさされる事が増え透子は自分のファッションが敏感な子供達にはなびいるのでは! と期待していたが、指さす子供に愚畜(ぐちく)な母親が放った言葉で気付かされた。


「指さしたら失礼でしょ! あれは熊さんじゃなくて、ただのデブ! 土中サーカスの熊さんは毎日ちゃんと練習してるんだから、あんなのと一緒にしたら可哀想」


 見れば商店の窓にはサーカスのポスターが……そして窓に映る自身の身体は練習しない劣等生か……と!

 度の過ぎる発言を信号待ちで全て聴かされた透子は怒りを青信号と同時にペダルに乗せ妙な速さで、ピチパンキノコ界隈から煙たがられる存在になった。




〈赤と云えば……あか……〉


「スリだぁーーっ! 俺の財布が無えっ!」

 線路に並行する道まで来ると多少の人通りがあり店が在れば歩道から飛び出す人や車やに路駐車両と気を使う。



〈……垢すり……漢字違うし汚いっての! もう、赤い……食べ物よ。駅も近いし食べ物屋さんにヒントが?〉



 苺・ザクロ・チェリー・トマト・クコ・コカコー・・マッ・・赤唐辛子・激辛・・・


〈駄目ね、名前にするには何か恥ずかしいわ……バスの後ろかぁ【すり抜け危険】解るけど停まってる時の排ガスが軽油臭くてキツイっての……あ、バスの広告……看板……赤……〉


 ・赤字経営にならない為の……

 ・赤筆先生が教える……

 ・赤幟新聞

 ・赤髭先生のこの薬で……



「あれ? その頭、ファット? フィットのファットか! 俺は諦めてねぇぞ! ……今度お前の……」




〈……垢の他人……っと、やっぱり街は喧騒ね……川沿いに行こ〉




 通りから路地に入り坂を下ると犬の散歩や幼児を連れた主婦が増える。


〈あか……〉

「うんこーー」

 幼児が嬉しそうに叫ぶのを恥ずかしそうに制止する主婦。


〈アカウンと赤っ恥……〉


 川沿いのサイクリングロードに入りようやくこの折り畳み自転車の性能がフルに発揮出来る様になった。


【20インチタイヤ前53T後11ー32Tブルホーンカスタム】


 とかいう良くは判らないが、あの店長さんが親身に交換調整してくれた後ろ十速のカセットギアは聞いていた通り〘速さの為では無く疲れない為に変速する(かゆ)い所に手が届く感じ!〙を、何となく理解出来た。



〈うん、川沿いは気持ち良いわ。……赤……〉


【マムシに注意】


〈そおね、あったわ赤(マムシ)ドリンク……他に赤と云えば、違う! レッドで…レッドと云えばリーダーよ! リーダーと云えば城鳥君……ぅうん結局……駄洒落(ダジャレ)か……〉



 かれこれ一時間程が経ち、橋を渡り既に春る菜市に入っていた透子は川沿いの東屋でお茶にすると、つい癖で自分の首周りや脇やの脂汗臭を嗅いで確認していた。


〈大丈夫ね。ダイエットすると脂汗臭が増すってのは定説だけど、楓香と分裂だから……? ま、判らぁん! さて、ここからは慎重に行動しないとね……〉


 透子は、ようやく取り戻した静かな独りの時間を惜しみつつ探偵気取りの間抜けにならぬ様にと気を引き締めた。




――CHIIIINN――

「これが、チンチン御飯なんだ!?」

『…ひほっ…』



 川沿いのサイクリングロードから細道を抜け坂を上がると大きな道に出た。一度来た場所は(ほぼ)記憶する透子には移動にナビやスマホ等は必要なく、行く前に軽く地図を確認すれば大概の場所は着ける。

 案の定細道から出て左右を見ると店は左手に目前だった。


 しかし、以前来た時と何か雰囲気が違う。駐車場に車が無いせいか? 前は昼時でお弁当や惣菜を買い求める駅近隣の会社から近所の主婦でごった返していた。いや今は正に昼時。



〈まさか!?〉



 信号が変わり店の前まで行くと、透子は自分の予想が当たってしまった事に落胆する。ガラス窓には


【この度の……により……閉店する事になりました。つきましては……】


 あの感染症だ。国政や知事やの愚策・遅策により立ち行かなくなった挙げ句の倒産。その土地や営客を狙うハイエナの様な暴利団体に餌を撒いた様なものだった。


 この豆腐屋は二度も愚策により奪われたのか、そう思うとやりきれない。そして、それは菅原の生存確認が出来無くなった事も意味した。



〈これじゃあ……余計判らなくなったわね。結婚を前に倒産。でも以前来た時に感じたここの社長さん人の好い……何処かしら従業員の行き先は作ってたハズ。でも……〉



 菅原の実家は更に先の山の上にある。体力に自信はあるが、そこ迄行ける程この自転車に身体が馴れてはいない。


 なにせ、明日は何処かしら筋肉痛になるだろうと思いながらも、豆腐屋のドーナツやソフトクリームや惣菜やと多少の淡い期待を持って以前来た時に作ったポイントカードまで引っ張り出して財布に忍ばせて来たのだから。



〈ポイントもパーか……お土産処じゃなくなったわね……〉



 この豆腐屋以外にはコンビニくらいしかなく、人通りも消えていただけに聞き込みも難しいだろう。

 まして郊外だ、聞き込みなんてすればあっと言う間に噂が広がる。そうなればアチらコチらに危険が増すのは歴然。



〈何も出来ずに撤退か……〉


 

 決意固めて挑むと大体拍子抜けですよね。

 〜変化の決意〜は終わりです。次章……乞うご期待。



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