21〜変化の決意〜
今回の話はキロがキモ。
色んな意味で皆さんは何キロですか?
さて、彼女のキロは……
『…で、昨日ここに来た奴等がそのバンで楓香達を連れ去ったのか?…』
「楓香を載せるのは見たけど菅原ってのは判んない。あの二人がそのデカイ組織に狙われる理由って何?」
『…先ずは確認だな、その豆腐屋に行って見るしかねえだろ…』
「春る菜市か……」
『…何だ? そんな遠く無えだろ。電車賃も無ぇのか?…』
「それ位は…………ぃゃ、イケるか!? そうよ! 楓香と零は留守番して。零! 楓香の資格と親族や友達知り合い調べて突然出会っても良いようにしといて!」
そう言って玄関脇の収納棚を開け思い出した何かを引っ張り出そうと漁っていた。
〈きっと今ならイケる! あの時の悔しさを今こそ……高かったんだから使わないと……コレだ。確かここを?〉
「……あれ? ……コッチが先か? ……ん? ……コレ? ……あ、空気……コレか……」
透子は玄関で何かをモゾモゾ、零も卒業アルバムや履歴書の書き損じ等をカタカタ調べだし、それを見ていた楓香も移動し裁縫を始めた。
「よし、大丈夫そうね」
昨日大家さんの家まで歩いた感じから体力的には今までと変わらない。寧ろ体重が減った分動きは軽くなっていた。
唯一のデメリットは体重が乗らない分得意としていた張り手の威力が下がった事だろうか。体力を気にした透子が引っ張り出した物それは、折り畳み自転車だった。
営業時代に車も自転車も振り与えてもらえずに試供品を持って満員の公共交通機関と徒歩で移動していた為、営業先に着くと脂汗だらけになってしまい……女性の多いお店特有の苦情により追い出し部屋送りになった訳だが、それでも勝ち気な透子は当時
〈なら、ダイエットしてやろうじゃない!〉
と、自転車屋の門を叩き、長く使えて用心の為にも玄関に置けるお高いマトモな折り畳み自転車を専門店のセールで購入したのだが……
とても親切丁寧に用途を確認し、色々なパーツを使い道に合わせて交換に整備して一月程の後に完成の報告を貰い店に出向き、さぁ、乗って帰ろう!
と自転車に跨がった途端、その優しい店長さんが慌てて制止し謝罪という珍事が起きた。
透子は信じられない事実に愕然としたが釈然としない訳ではなく納得し敬意で買い取った。
何故なら、当日まで彼氏へのプレゼントと思っていたその時の店長は事実を伝えるのに計り知れない程の気を遣ったのだろう……
その後、商品毎に大きく貼紙がされていた。
【耐荷重80キログラム】
「ようやく日の目を見れるわね」
真っ赤な折り畳み自転車がタイヤに空気チェーンに油を注され元気な姿を取り戻したようだった。透子はその姿についつい名前を考える……
〈赤だから……あのアニメのアレはありきたりだし……アレも……ズキンちゃん。とか……〉
『…レッドラァァァム…』
「古いわよ探偵物で散々出尽くして……って、何よアンタ? まさかアンタも頭の中を?」
「普通に聴こえてたよ、声」
「え、何処から……?」
「あの時の店長さんが折角整備してくれた……辺りから」
「…………そこ、回想じゃなかった?」
「そおだっけ?」
「そこは確定して……怖いわよ」
『…ひーほー…』
「で?」
『…クリエーターの仕事は継続出来ねぇぞ! どうする気だ?…』
「そうね、それは救出後に本人が何とかする事よ、何か別の楓香に出来そうな事があれば……って、アンタ随分と現代ツールを使いこなしてるわね? 私の就職口も探しといて!」
『…養豚場か?…』
ボフッ#
「楓香の事頼むわね」
『…ふ、ファット…』
ボフッ#
「じゃ、ちょっと自転車で行って来るから。昼はコレで我慢して」
レトルトのカレーとご飯を置き零に託して出かける準備を始めた透子は豆腐屋の店先で食べたおからドーナツや豆乳ソフトクリーム等の味を思い出して、楓香達には言えない期待をそっと胸……の財布に隠した。
「化粧、イメージ程は変わらないのね」
――GUSSARI――
『…ひっほっほぉ…』
「そ、そおよ……イメージと現実には、多少の差があるものなのよ。今度楓香にも教えてあげるからね。〈ってぇ、私の理想の女は化粧が要らないのよ。もう、何か、何か、何か悔しいより……〉」
『…虚しいな…』
「ぁぁぁ、ぇぇ……」
朝なのに影が射し込み凹む透子の傍らで楓香が満ち満ちた笑顔で何かを取り出した。
「コレ、どう?」
「ん? あ、」
透子のデザインしたイメージ通り、ぃゃそれ以上の出来栄えに沈んだ顔が弾け喜び抱きしめ感謝すると同時に胸にしまった楓香への罪悪感が過ぎった。
「美味しそうね……」
――TOUFUTOUFUTOUFU――
「手ぇ! 違うの! 違わないけど! 違うのよ……お土産買うから。ね?」
「うん、気をつけてね」
〈……うぅんこれは、何をだろぉ……〉
ここから20キロメートルも無い春る菜市の豆腐屋は、何年か前に地方の震災に託け暴利団体が政治家に献金して法制化し所謂国営ヤ○ザの耐震地上げと云われ高騰した土地や開発計画地に立っていた歴史ある名店や商店街等が国の愚策により追い出しを喰らっていた頃、
美味しい水を求めて別の町から移ってきたと思われる名のある店の一つだ。
透子は営業周りの途中で食べに行った……のでは無く。工場出来たてのオカラや豆腐が食べたくて新規営業と称して行き、バレて領収書を破棄された記憶に残る美味の豆腐屋だ。
楓香に作って貰ったデブるブレスを腕にハメ気を引き締めた。菅原の生死の確認……先ずは現状確認に。
「これからの事を考えると機動性は重要だからね……準備も兼ねて行って来るわ」
二人? に見送られ……10キログラムの車体を持ち上げドアを開けた。
『…命名「血眼号」発進…』
「はぁあ?」
次回で〜変化の決意〜の終話です。




