20〜変化の決意〜
『…遊びの時間は終わりだ…』本当に? 多分、きっと……?
「悪かったわ。で、何か解ったの?」
『…チッ、テーブルの上だ。今夜のビール買っとけよ…』
「クっ、ビール、ね……」
透子がテーブルに向かうと缶詰の開く音がした。
〈あいつ、私のオイルサーディンをぉぉぉ……今日だけ、今日だけは許してやるがぁ……と、いうかどうやって食べてんのよ? あぁ駄目だ、ヤメよ。どうせ知りたくない感じのに決まってる……〉
「今はコッチに集中集中」
テーブルの上に置かれた数枚の紙と封筒と通帳に契約書や請求書に……婚姻届?
「え? 結婚届って、あの写真の彼氏と結婚する予定だったって事?」
『…ゴクン、あぁ! 毎晩シコたまヤりまくってたからな、飽きられる前に手を打とうとしてたんだろうぜ…』
「何を?」
「アレよアレ……」
透子が胸の前で下を指し楓香がその指の先を視た直後
「あぁ、透子が夜中たまに凄い強いイメージしてヤッてたアレ?」
「なっ!?」
――MATTEMATTEMATTE――
『…ひぃほぅ! そいつぁどんなイメージだったんだ? 詳しく教えてくれよお嬢ちゃん…』
「え、と、山小屋の広いバルコニーで寝ながら星空を二人で観てると男の人に抱き寄せられて、色んな処をキスされながらどんどん脱がされていって……」
「ぁ、ぁ、あ……ぁ……ぁ……あ……」
『…ひぃほう、裸になって?…』
「男の人の手が太腿を這い上がってきて、山の中から出て来た動物達がそれを見ていて……」
『…あぁ?…』
「す、ストォーーーップ!!」
『…ひーほっほー、ぉ前、ひょっとして…』
「ちが、違うわよ!」
「これ言っちゃ駄目なヤツだった?」
「当たり前でしょがっ! 一番駄目なヤツよ!」
「そっか、でも一番強いイメージだったから……」
『…ひーほっほっほぉー…』
「もぉおおおおおっ! 最悪だわ」
肩を落とすと、ふと婚姻届の住所欄が目に入り記憶の片隅にある場所が浮かんだ。
「ここって確か……」
スマホで住所を検索すると案の定そこは嘗て知ったる場所だった。更に気になり他の紙から彼氏の実家と職業が判り確信した。
「菅原……この人の職場、あの美味しい豆腐屋さんだ!」
「知ってるの?」
――DATTEKOKOTTE――
彼氏の方は存在も生死すら判らなかった中で知り得た情報に、自分が嘗て食べた事のある豆腐屋に勤務していた事が判り多少なりとも自分と関わりのある人間なら、助ける理由にはなると自身に言い聞かせ救出方法を模索しだしていた。
「そぉぃぇば、良くあんな嘘で大家さん騙せたね……」
「あぁ、コレ見たらイケるかも!? って……」
そう言って指し示した小出楓香の免許証の写真を覗き込んだ楓香の顔が何かを悟ったかの様に表情が消えた。
「ぁあ……」
「ね」
『…豚女共が…』
「ん#……まぁ二人で行って私が認識されれば両方を信じるんじゃないかな? ってさ! ダイエットで痩せたうち片方は嘘だなんて普通思わないでしょ? というかこんな痩せて自分でも驚いてるんだから。有り得ないものが二つも並んで片方信じたら……ね」
「眼鏡は? この写真の楓香つけてないよ?」
「あぁ、誤魔化すのに都合が良いでしょ! というか女の顔は化粧で変わるし、男の人なんかに女の素顔は判らないだろうし大家さんが動揺したの見て、イケるって確信したわ!」
『…女は化け物…』
「お前が言うな!」
楓香は楓香の免許証を見つめ何かを思い、誓っている様だった。きっと自分と同じく目の前で助けられずに拐われてしまった楓香への申し訳なさと悔しさからの救出への誓いだろうと考え、楓香の為にもと口にした。
「絶対に救ってあげないとね」
「うん」
楓香の返事で確信した。
『…その二人、特に問題は見当たら無かったぜ…』
「みたいね。でも何であんな執拗に襲われる必要が……〈あ、そぉぃぇば……お布施って……〉二人に宗教的な関係は無かった?」
「宗教?」
『…無いだろ。男は早朝通勤の通い旦那で暇が無い、女も親と喧嘩して上京して来てクリエーター目指して金も時間も無ぇ…』
「ならアイツ等は何者?〈やっぱり昨夜のヨレヨレを逃しちゃったのは……まぁ、無理よね〉あ、そういえば……」
何かを思い出した透子が慌ててスマホを取り出し保存された写真を確認し出した。昨夜の楓香を連れ去ったバンの後方から走りながらシャッターを切った数枚の中に、ボケまくりの写真にバンの後部に積まれたダンボールの文字がぼんやりと写り込んでいるのを目を細め確認していた。
「やっぱり駄目か……」
「何が?」
「昨日楓香を連れ去ったバンの後ろに積まれたダンボールに何か名前っぽい文字が書いてあったのよ……」
『…!?…』
「何て書いてあったの?」
「確か、漢字で【ゆかなべこうかい】とかって……」
――HOOHOHOHOHO――
『…イヒヒヒヒヒヒヒッ! 最高だぜベイビー!…』
零の様子から何かとてつもなく嫌な予感が透子の脳裏を駆けた。そしてその予感は的中する。
「何よ。アンタ何か知ってるなら」
『…お前等!! 怪我は好きか?…俺が舐めてやるから感謝しな…』
「何? 何なの?」
「怪我は私の指で治すから大丈夫」
『…ひっほっほっほ…』
唐突に零がテーブルに飛び移り、余った紙に何かを書き出した。
【床鍋公会】
『…お前の見た漢字は、これか?…』
「あ、そうよ! それ!」
零が顔に手を覆い被せ噎び笑い出した。
『…ヒィーーーッハハハハハァ…デカイぜこりゃあ!…』
零がアイツ等を知っているのなら透子は不安を押し殺してでも確認する他なかった。
「〈床鍋……な、だけに大鍋って事は……無いか〉何がデカイのよ?」
『…組織さ床鍋か! イヒヒヒヒヒッ…』
「なっ、組織?」
「透子……」
『…あぁ、それも、とびきりのデカイ組織だぜ! 下手すりゃ…ひっほっほっほぉ…』
あまり組織って単語は……使われてると安っぽく感じて使いたくないのですが、文章としては組織立った連中を指す単語って限られちゃうんですよね。
団体とか……何か、ねぇ。多分本当の組織は組織って云われてないですものね。で、会ですわ(笑)




