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18〜変化の決意〜

 あなたなら耐えられますか?



 透子の食への歓びに楓香も安堵していたが先の事を考えると手放しで喜んではいられなかった。いつかの為の……


「あ、封筒」


 透子が唐突に思い出し手にしたが、一旦テーブルに置きパンッと手を合わせ拝みだす。


「ご馳走様でした」


 楓香も慌てて正座する


「ご馳走様でした」

「で、だ。お願いします」

「? 何が?」


 楓香の疑問を横目に封筒を開け目を(つむ)って中身を取り出し片目をそぉっと開けると、途端に突っ伏し項垂(うなだ)れた。


「駄目だぁあああ」

「何が?」


 ん。と言葉にもならない単語で封筒の中身を寄越して横になってスネてしまった透子の様子からは読み取れる事では無いので読んでみるが、よく解らない。




「この度は……残念ながら……って何なのコレは?」



 冷めた顔の透子が仰向けになりタバコを吸う仕草で渋さを強調して口を開いた。


「ふっ……世知辛い世の中よの……人を物の如くに足で使って、壊れたり邪魔になったらゴミの様に捨てやがる。一度捨てられたゴミは汚物の様な目で見られて唾まで吐かれるのさ……それで捨てた物の代わりに、更に足で使い易い物を安く仕入れてまた捨てる。そのうち足で使ってた奴らも下の方から捨てられて、それを支持して指示する人で無しのゴミクズ人間とゴミ人間にされた奴等で今やこの国はゴミだらけなのさ……ぷファァァ」


「……つまり、透子もゴミ人間」

「うっ! ク、……ストレートね。まぁそういう事よ。で、それは面接の結果、お断りぃぃぃだって!」


「……なら、この封筒はゴミクズね」

「…………そっか、そぉね、そぉだったわ! ありがと楓香!」


「あぁ、うん。元気出て良かった」

「さぁて、そろそろ寝ますかぁ! アンタこの布団使って良いからね!」


「透子は?」

「私はゲームしてから…………あぁあああああっ!」



「? 何?」



 透子の昨夜の記憶はゲームでGATE(ゲート)に入る手前までしか無い。そして気付けば朝の……ゲームをログアウトした覚えも無ければ電源切って片付けた記憶も無い。


 いったいどうなっているのか、ぃゃ? どうしたのかだ。


「楓香、私のパソコンどうした?」

「あぁ、それ? うぅんと、私達が血塗れでデロンデロンでぐちょんぐちょんの時に、透子の頭に座って何か楽しそうに弄ってたの……多分、あの……」



 申し訳なさそうに楓香がクローゼットに目を向け指さした。


『…ぐびぐび! クチャクチャ…ひー…ぐびぐび…ほーほっほっほっほっ!』


「ぁぃっ……〈そぉぃぇば、パソコンの履歴にやたらとアダルトサイトの……あれブロック出来ない広告の類じゃなくアイツの、覚えの無い通販履歴も……〉お前かぁあああっ!」


『…ひぃ〜…ほ…』

 ボフッ#

――BOKKOBOKO――



 透子の怒りが疲れにかわった頃。


「で、どうしたのか言いなさいよ!」

「その状態で話せるの?」


 既にサンドバッグと化した練習人形は手足を安全ピンで付き抜かれタイラップで顔を限界まで潰された状態で洗濯ハンガーに逆さ吊りにされていたが、当然? イキている。


『…ぃつも通りに、【私と寝たかったら夢から醒めてお(うち)においで。待ってるわ。】で締めてログアウトしといてやったのに、俺をこんなにしやがって! この薄汚え豚女がぁ…ハッハッハぁ…ひほっ!』



――NANNDENANNDENANNDE――



 ブチンッ#

「ありがとぉおおお!」

 ボフッ#



 顔を紅らめ感謝を述べて鉄槌……

 透子が普段から松駿とのチャツトで寝落ち前にログアウトする時に使うネタを知られていた事が恥ずかしいと同時に安堵した。


 とはいえ今夜は流石にゲームにログインする気にはなれず素直に寝る事にしたものの、楓香に布団を譲って自分はゲームをしながらクッションを枕に毛布で寝るつもりだったが、一緒に布団で寝るのも学生時代を思い出して良いかも?

 と浮かれ気味になった所で楓香にシャワーを勧めた。



「待て待て、ここで脱がずに向こうで……って、お前は覗いてんなよこらぁああっ!」

『…ひーほっほっほぉう…』



「イメージで基本的な事は……出来るのと出来ない事の差は何? 何なのよ?」


 パンツをはき直しながら答えを考える楓香を見つめる人形の顔を握り潰して待った。


「え? えぇと、キチンとしたイメージを確立してるなら完全に、曖昧にでもイメージがあればそれなりに、だから透子にとっては基本的な事でもイメージが無ければ……無い」


「……ぁ、ぇと、例えばの話、散々言ってなんだけどトイレの基本とかは?」

「解る、透子が拭き残し気にしてたイメージがある」


――YAMETEYAMETEYAMETE――

「そんなイメージ基本にすな!」


「シャワーも透子が映画観てた時に、お色気ムービー通りに洗ったらウチのユニットバスはビチョビチョなるわっ! ってツッコんでたイメージがあるからイケると思ってた」



「ぃゃ、もうヤメて……」



「〈ひょっとして……それであの食べ方なの、か? これ私の問題じゃんか……ちょっと、何、何かもう……〉あの、私のちやんとしたイメージ受け取って、今のイメージ削除してくれないかな?」


「……とりあえずイメージは受け取るね」

「ぅん、なるべく忘れて」


 そう言って出来るだけ淡々と粛々としたイメージを手を繋ぎ渡す透子の顔は面接でも出せなかった程の真面目で真剣な面持ちで、この真剣さを面接でも出せていればかなりの好印象だった事は言うまでもない、受かるかは別として。





〈まるで研修ビデオだわ……これが本当のイメージビデオってね。流石にアソコの洗い方までは女同士でも見せた事無いわぁ……何かトンデモナイ個人情報を公開してしまった気分よ……きっと露出狂や痴女って、こんな気分を快楽に感じる人達なのよね……無理。ある意味これって……〉



 シャワーから出て来た楓香の顔を見れずに下を向いて入れ替わるように入ったものの、いざ洗おうとすると自分が作ったイメージを思い出して羞恥心が噴き出し、(もだえ)ては頭にシャワーを当て自制心を戻しの繰り返しに普段の倍の時間を要し、いつもより火照った身体で出て来た。


 パジャマ等は勿論無くTシャツワンピで十分と考えそのまま布団へ……

〈あ、敷いてくれたのね……(まさ)しく初夜だわ。……イメージビデオ、おそるべし!!〉


「ありがと楓香。おやすみ……」

「うぅん、こちらこそ、おやすみ透子……」



〈……そぉぃぇば、隣の部屋をどうにかしなきゃね。勝手に弄るのは気がひけるけど、助ける為でもあるんだから……許してくれるよね?〉



 不意に拝む透子の姿に、また何かを考えてる事は解ったが楓香か楓香の為だろうと思い静かに感謝し見守っていると、一人何かを決めた透子が思い立った様に起き上がり、逆さ吊り人形に向かって話しだした。




「零、どうせそれも抜け出すんでしょ! 夜中起きてるなら隣の部屋で手がかりとか何か重要な物やら何やらかんやら探しといて!」



――KINNH、SHURUSHURU…――


『…ひーほー、遊びの時間だぜ…』


 


 次回『…遊びの時間だ…』乞うご期待下さい。てか(笑)

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