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17〜変化の決意〜

 私の夜も明けませんが、話も夜はまだ明けません。



「たっだいまぁあ! 良い子にお留守番(るちゅばん)ちてたかなぁ? ……て、何それ?」


 部屋に入ると楓香が既に何着もの服を仕立て整然とハンガーに掛け並べていて彩りも買ったばかりの色鉛筆の様だった。

 無論透子の色鉛筆は機能性重視で使う頻度の多い色が右側に集約して白は当然一番左だった。


「アンタ、これ全部作ったの?」

「うん、明日からの服が無いと出られないから」


「だって、もう六着も……で、そっちは、まさか?」



 下に置かれた見覚えのある服が丁寧に畳まれやはり六着程重なっている。


「あぁ、コッチは透子の服。直せそうなのだけサイズ直ししといたやつ」


 透子の顔が身体が脱力した……が、肉丼の入った左手はしっかりと持っていた。


「楓香、あんた、最高よ! 私のバディ、ううん、流石は私の分身ね。愛してるぅううう」


 楓香に抱き付き(もだ)える透子に冷たい声が帰って来た。




「あのさぁ、私に作ってくれたお昼だけど……この空袋。ゴミ箱にあったんだけど……」

「え? ……」



 離れ見ると楓香の手にはソーセージの空袋が。

〈……あ、あれ? やっぱり、ヤバいの? アレは?〉

 透子がキッチンの惨状を見て予想していた事が今更に……

 このタイミングで? 回想が頭を過ぎる。




 ……回想……


〈頭が腸だからソーセージの腸詰め肉を嫌った? 乳酸菌類は腸頭にも効くとか? 大根とか腸の働きを良くするって? 玉葱は整腸? ……まさかね……試しに入れて見る? 細かくすれば判らんか!? 何が私の腸だ……正体暴いてやる!〉


――PIKA! PPAAAAANN!――


 ……回想……





「やっぱり、駄目だった……の?」

――DOGIMAGIDOGIMAGI――

「やっぱりね、そういう事か!」


「ん? て、え?」



  いつの間にか楓香は私の手を握っていて、まだ透子が何も言ってないのに勝手に納得し解決した顔を覗かせてみせる。

〈まさか!?〉


「あんたコレ、この手で私の頭の中を?」

「うん、イメージだけど。良ぉぉぉおく解ったわ。透子が私に対してどう思ってるかが!」


「あ、ぃゃ…それは、そのまだアンタの事を良く知らなかったからで……」




 気不味い、折角楓香を歓ばせようと買ってきた肉丼を横目に見やる。

〈後悔先に立たず……とは良く言ったものね。まさに今よ。そもそも私、忘れてたわ……アレ?〉


「てか、アンタ! 私に御馳走になっといて何なのよ! 出された食事にケチ付けるとか恥を知りなさい! そういう恩知らずは地獄に落ちて餓鬼道(がきどう)(あゆ)む事になるんだからね!」


「……正体暴いてやる……が、恩?」

「……ぃゃ、まぁそれは、その……」



「ぷふっ、(うっそ)ぉっ! 判ってる。だって食事作る前のデブる騒ぎでスッカリその辺の事忘れて楽しそうに作ってたイメージも見えたもん」


「ちょ、あんた、私をからかってた訳? この……」

「ごめんなさい。と、ありがと」


「……え、何……え?」


 不意に真面目な素振りでありがとうを言われ戸惑う透子に楓香が抱き付いた。




「私、小出楓香、二十一歳…よろしくね、透子。」



――MAKKAKKAMAKKAKKAMAKKAKKA――


〈……ふ……ふぅ……か……〉



 顔を真っ赤にした透子が恥ずかしさから惚けようと逃げ場を探した。


「そ、そうだ! コレ! 贅税脂富(トミタ)の肉丼を買ってきたから冷めないうちに食べよっ。ほら片付けて! ね!」


「うん。あ、ちなみにコレ! ドアの所に入ってたんだけど」

「え? あーーそれっ!……あぁ、やっぱり肉丼食べた後にするわ」



 封筒を静かに置き二人で部屋を片付けはじめた。




――SUTATATATATATAH――



「これよこれ! どう、この彩り鮮やかな肉のちらし寿司は? しかも今日は肉肉増し増しのおまけ付き」


「美味しそう〈彩り……全部茶色のお肉だけど〉頂きま〜す」


「待った!」

「え?」

「これは食べるにも順序があってね……」



 トミタ自慢のロース・カルビを中心にモモ・肩・リブ・バラが周囲に満遍なく敷き詰められ特製のタレではないスパイスがかけられシャキシャキの水菜が添えられた究極の肉丼を円ではなくケーキの様に中心から切り分けて食べるのだ。

 と、延々と続くうんちくに楓香の空腹感がうねりを挙げた。



――KYURUKYURUGURURUNN!――


「? あ、そぉだった。ごめんごめん食べよう! 食べて食べて!」


――KYUいRUたKYUだRUきGUまRUすRUNN!――


「頂きまぁす」



――BAGONNN!――



「うっふ。」

 まただ! 飲み込んだ物が胃の中で何かに衝突する感覚。箸を止めた透子に対して楓香は何事もなく美味しそうに……(むさぼ)りガッついている。


 気になって暫くすると楓香の腹の虫が鳴り止んだ。と、楓香がコチラに気付いたのを見て尋ねてくるのを期待するが何事もなく食べ続けていた。


〈そりゃ、トミタの肉丼だもんね。折角の肉肉増し増しだもん私も食べよっと〉






 ガッつき、ほぼ食べ終わった頃合いを見て聞いた。

「どうよ?」

「? 何が?」

「ぃゃ、味!」

「うん、いつもの味じゃない?」

「? え? あれ? あんたひょっとして……味音痴なのかしら?」

「…………?」



「嘘でしょ? トミタの肉肉増し増し肉丼よ! この素晴らしい味を理解出来ないなんて……」

「ううん、味は解る。けどいつも透子が食べてる味しか知らないから世の中的にはどうなのかな? って」


「……え、とディスってんのかい? 私の味覚を……まぁ良い百歩譲って私の味覚をディスるのは良い! でもトミタの肉丼をディスってんならタダじゃ置かないからね!」

「トミタの肉丼は美味しい」


「でしょ! じゃぁ許す」


〈な、何なの、この単純馬鹿は……〉


「で、あの飲み込んだ物が胃の中で何かに衝突する感覚は何なのよ!」


 突然シリアスな顔に変化した透子に追いつくのがやっとで、質問の答えが雑になるのは透子のせいだ! と思いながら説明を始めた楓香も別人の様だった。



「別れた身体の中でも情報は共有してるから凡その(あたい)を平均値として別々の個体にしてるだけで、二人が同時に食べるとどちらに比重がかかるか判らないから比較する為に胃の大きさを整えるのよ。多分それが衝突する感覚の正体ね」




「…………さっぱり解らん」



 アホ面の透子に応えるのが怖くなった楓香に更成る質問が来て強張る。


「とりあえず、食べる量は気にしなくて良いって事? というか共有してるなら二倍イケるとか?」



「〈……え、と……〉好きにして……」


 瞬間、今日一日を通して(くす)ぶっていた不安が解決し、満面の笑みをこぼ(こぶし)を振りあげた。



「よしゃっ! テッペン取ったるぞぉおおお!」


 


 私が言うのは何ですけど……私にも楓香が欲しい……

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