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16〜変化の決意〜

 まだ話は初日の夜になったばかりです……



「当人の居ない所で随分と言ってくれてるじゃないのよ! ガリの旦那トーシン君!」


 ガリ男はその言い回しにピンと来た!


〈間違いない……けど〉

「嘘だろ? お前……ファット……なのか?」

「ぅぇえーーー? 透子ちゃん?」



 隣の巨漢もガリ男の話に驚きを隠さず体だけでなく目も口も真ん丸に開いていて呆気にとられている中、透子は不敵な笑顔で見下す様に立ちはだかる。

 それを見てふと、ガリ男が思い出した。



「あ、あの爺ちゃんの話……マジか。マジでフィットになってやがる……」




 まるで戦隊物の怪人が第二形態へと変化したのを見たヒーローの様なガリ男の反応に、自分が悪役になった気がした透子は抜刀する様に切り出した。



「この八合目がそんなに欲しいのか? 甘ちゃんがぁ。お前みたいに風で飛ばされちまう様なガリにこの旗は渡さんよ! 修行して出直せトーシン!」


「クっ…………」


「何だ。やっぱり言い返す事も出来んのか、じゃぁな、トーシン坊っちゃん!」




 捨て台詞まで吐いて歩き出した透子は、今朝起きてからの超絶舌鼓……否、超絶絶後の不安やストレスがスッカリ消えて身も心も文字通り軽くなっていた。



「チャッビー、今から富士山登るぞ!」

「え? (まこと)、本当に行くのぉ? 今からぁ?」


「行く! 八合目、負けられっかよ! ファットがフィットだぞ絶対ぇ当てつけだろ!」



『…呼んだか?…』

 ボフッ#

「アンタじゃない、アレは巨漢の茶尾(さお)のあだ名よ。てか普通に外で喋るな。」

 ボフッ#

『…クソ、で、ファ』

 ボフッ#

「黙れ」


 小声で鞄に話す透子を怪しむ者は昨今の無線イヤホンの普及により良くも悪くも殆ど居なくなっているが、透子にとっては良きにけり……





〈ホンキがあって助かったわぁ、下着と靴と……って、アイツの足のサイズ解かんないや。まぁスニーカーなら何とでもなるか。とりあえず安くて汎用性の高い……〉



――FUUuFUFUFUNN――



「二万五千十円になります」


〈結構イッたわね。食費切り詰めないと……ぃゃ、早く新しい仕事探さないと富士山パスタに行けないか……〉


「ありがとざいましたー」


 ピンクのレジ袋にタップリと……袋の外側にブラやパンツが中身丸出しの状態で入っている状態だと信号待ちで気付いた透子は、富士山パスタで貰ったエコバックを出し、レジ袋ごとそのまま突っ込み、これは男性店員故か? と思い返す。


〈そぉぃぇば、今日の店員随分と(うぶ)な反応してたわね。下着位、普段から……もしかして私の魅……? ま、まぁ所詮私はフェミニストよりファストミートなお年頃っと。よし、今日も夕飯は贅税脂富(トミタ)の肉丼イッとくかぁ!〉




「おっちゃん肉丼弁当二つ増し増しで!」

「あいよぉー今日も元気良いなぁ透…………? ぇえええええ誰?」



 客の筋肉猛者達も皆一斉に振り向き顔を見合わせざわめいた。

 なにせ昨日の今日だ、声はさして変わらず服のセンスも三段団子頭も目も口も……


 牛魔王の異名を持つ女の変貌(へんぼう)に疑う余地が有り過ぎて突然砂漠に転移したかの様な放心状態になる面々に流石に透子もバツが悪いのか固まった。

〈あ、れ?〉


「ぃゃぁ、何か、ダイエットが効いちゃって…………」

――MURIMURIMURIMURI――


 厳しい、苦しい、他に何かないのか? と、皆が思う程の言い訳に何故か皆は理解した。


「透子ちゃんであってたのか……」

「マジか、マジで、牛魔王か……」

「す、凄ぇ減量なんてもんじゃねぇぞ」

「どんな絞り方すりゃアソコまで?」

「恐るべし牛魔王!」

「何か大会あんじゃねぇの?」

「あれか? 新しく立ち上げた格闘技の?」


――SUGOSUGISUGOSUGI――



〈ぃ、ぃゃ、その、何その反応は? 女の子が痩せたのに可笑しくない? その話……〉


 気不味そうに弁当を待つ透子に店主が気を使う。


「どんな戦いか知らないけどあんまり変な薬に手を出すんじゃないよ……その勢いでガリガリになっちゃわない様に肉肉増し増しオマケしといたから!」


「大丈夫です。ありがとうございます。皆も、したぁっ!」


「お疲れしたっ! 大会頑張って下さい!」

「あ、あい。〈まぁ、富士山グランプリも大会よね……〉」



 店を後にし路地裏へと進み楓香の事が頭に過ぎる。



〈大丈夫よね……アイツ、この肉丼食べたら(おどろ)……かないか? まぁ実食は……? どうなんだろう……?〉



『…ひーほー!…』



「何よ! まだ家じゃないわよ」

『…ハァハハ何か居るぜ…』



 見ると路地を曲がった透子のアパートの前にスーツの男がウロウロとしていた。

〈あのヨレヨレ何処かで……〉



『…俺が遊んでやるよヒヒヒヒヒ…』



「あ、ちょ、待ちなさ……」


――SUTATATATATATAH――



 男が恨めしそうに見つめている部屋は間違いなく透子の部屋だった。今は楓香が居るから窓から灯りが漏れている。


土金(つちかね)の馬鹿息子が……これが胡唆(うさ)にバレたら……」


――FASA!――


「ん、何だコレ! 薄気味悪い人形だなぁ」


 と、自身の苛々をぶつける様に鬱陶しさを(あらわ)にし蹴り飛ばす。


「ったく、俺の方が被害者なんだよ」



『…ひーほー…そりゃ、俺の方だろう?』

「な!?」



 男が声のする下を向き驚愕する……

 蹴り飛ばした人形が足元で笑いかけているのを見て慌てて後ろに逃げようと足がもつれ転び這いつくばって振り返り逃げ出した。


『ハァハハハハハ…ひーほー…』




「アンタ…………必死に戻ってる処を見ちゃうと違う意味で引くわね……」

『…言うな! 糞ビッチが…』

「誰がビッチだ、散々人の身体と生活覗いといて!」



『…ひーほー…』


 ガッ!ボフッ#ボフッ#ボフッ#


〈ったく……というか、逃がしちゃって良かったのかなぁ? あれ多分アイツ等の仲間よね……まぁ捕まえて吐かせられる様な守備が揃ってないし仕方ないか……〉



 透子は逃げ出した方を向き少し安堵した顔で三度も逃した相手に闘いの幕開けを痩せ細った掌に握りしめていた。


――NYAA! KARANKARANN――


「どうせ、また来るわね」


 

 この先に広がる世界はホームドラマかサスペンスか……否、ホラー? いえ、パニックですけれども。

『…ひーほー…』

 応援よろしく(笑)

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