137〜始まりの銅鑼(ゴング)〜
般若の面は自身の心
野上は睨んでいる訳では無いが、透子の身体全体を舐め回すように見る眼は生体スキャンでもして不審物を検出するかの如くに厳しい視線を向けていた。
そのスキャンで何かを検出されないかと怯えて透子も動けない。
それはまさに蛇に見込まれた蛙そのもの……
「……ふむ、随分とスッキリしたじゃない」
「……あ! うん。うん。」
透子の中で野上に怒られると思っていたのは、先日藤真が藤と共に二瓶に伝えてしまった組織追及の件の方だっただけに、そっちの件に関して叔母に伝えていなかったと気付からされ頷いたが、楓香の事までを伝えるのは今じゃ無いように思えてまた頷いた。
その明ら様な怪しい頷きをする透子に対して野上の眼は既に何かを察してか、透子の隠す何かに焦点を合わせているような、透子の思考の先に回り知った上で本人の口から話すのを待っているかの如くに。
ここで見付かった時点で透子は既に、野上というお釈迦様の掌で金斗雲を飛ばす孫悟空と同じだと気付くべきだったのかもしれないが、所詮は掌で弄ばれる側にとっては同じ空。
透子も孫悟空と同様に自分が黙っている限りは知られる事は無いと、楓香や零の事は伏せる事にして頷きを細かに更に増やしていた。
透子の頷く数を野上の眼は、透子の隠し事の数と知っているとも知れず……
「ん? え、ちょっと待て。そこの、その子 透子ちゃんか?」
怒りを矛先に溜めたまま野上に止められていた二瓶だが、その話の流れに怒りを忘れ自身の目を疑っていた。
「ああ! そう、そうなんだよ。知らなかったか」
藤は自分が知っていた話を、知らなかったと判る二瓶の反応に、上から目線のつもりは無いが落ち着き払うその言い方が鼻を突く。
「何だ? おめぇいつから知ってた?」
孫の成長の記録を競うような争いに喧嘩の華を咲かせる爺さん二人を放ったらかしに透子に詰め寄り近づく野上。
それとは逆に、二瓶との喧嘩に咲く藤へ向かって詰め寄る藤真。
「何やってたんですか、色々と遅過ぎでしょ」
カメラを設置し事務所で観れるようにした所までは確認済みとはいえ、弁護士を連れ立っての到着は遅いとまでは言えないが、この混乱を過ごし少しばかりの興奮状態から冷めたせいか、そもそも論に藤の店への到着が遅いのは何故なのかに文句を言いたい気持ちが口を突いた。
「あ? ……おぉ、スマン。商工会の連中の所に明日の選挙応援で念押しが来てて出るに出られなくてよ。アレ話が長ぇんだわ」
本当の孫からの叱責に頭を冷やされ無用な争いをやめた藤に、二瓶も明日の選挙と言うワードに何かを思い出したか顔が曇る。
藤真もその長い話をする輩に思い当たる顔が浮かび納得したのか上を向き、詰め寄る足も止まった。
その様子から藤真の理解を得られたと判断した藤が説明を続ける。
「アレ連れてここに来る訳にいかねえだろ? だぁアレのせいで商工会の連中も遅れて来るから大丈夫かと思ってたら、コレだ……」
「いや、私も呼ばれてスグに来たんですけど……」
弁護士も反省の弁を述べるが藤真もそこに反省は求めていない。
「あぁ、いえ、ありがとうございます」
そのやりとりの最中に逃げるようにPCの後部座席へと乗り込んだ警官が閉めたドアの音に弁護士が振り返り、逃げた警官に怒り露わに詰め寄って行った。
野上は、何処かやましく怯える透子を前に口を開こうとした瞬間。
――GARARAANN――
「あの……レジ、いいですか?」
唐突に開いた扉から出た知らない顔はお客様、申し訳なさ気に店員は何処か? と、目の前の透子を皮切りに外に居る皆の顔を覗っている。
「すみません! 今スグに!」
そう言って野上と透子の脇をすり抜け慌てて戻る亜子だが、透子への助け舟にか扉を開けた所で振り返り、外の皆へと声を掛けた。
「あの! とりあえず、中に入ったらどうです?」
一瞬の沈黙は、皆の考えにそれが無かった事だったと物語るように、忘れていた何かを思い出した顔をした。
「……あぁ、そうだな」
藤も警察に被害届を出すに当たっては弁護士が対応してくれている事もあり納得した直後、店先に藤真が設置していたカメラに気付き思い出したように藤真を見るが、その視線の意図に気付いたものの藤真は首を横に振った。
藤は悔しそうに舌打ちをしたが、同時に亜子に怪我が無いかの心配を遅れた自身の判断基準に順序を違えた事を反省してハッとする。
「亜子ちゃん! 腕とか大丈夫か?」
助け舟と理解しグッジョブの意として亜子に泣きそうな笑顔を見せる透子だが、そのスグ後ろで野上が無表情な会釈をしている事に亜子は唾を飲み込み作り笑顔で会釈を返しレジへと逃げた。
「あぁ、問題無い。と、思うけど……お客様待たせてるんで、先ずはレジ!」
――GARARAANN――
「皆も怪我無いか?」
無論、二瓶の筋変えは無事の範囲内として……
「亜子ちゃんだっけ? 良い友達が居て良かったね」
その野上の言葉の意図は自身の心の持ちようで変わる事を知っているからこそ。般若面と同じくして自身の心の鏡と考えれば考える程に野上の顔が般若のように思えてしまって……
背後からの圧に透子は胃の引き締まる思いに顔が強張っていた。
藤と藤真は、皆へ先に店へ入るよう伝えるとPC内に閉じ籠もる警官に詰め寄り確認している弁護士の下へと向かい今後の事に相談し始め、二瓶も先に入って何か食おうと言い、振り返った透子と野上に促すような手振りをした直後……
――GARA――
――GATUUUUUNN!!――
――RARARARAANN――
「あっ! すいません! 大丈夫ですか?」
精算を終えた客が開けた扉が透子の後頭部を直撃し、ドアベルと共に中々の良い打撃音が響き渡った。
「……大丈夫です。この子昔から頑固頭なんで」
「すまない。俺が話しかけたから……」
程度に見て物を言う野上の何処か棘のある物言いと、二瓶の申し訳なさを感じる反省の弁との比較の前に、棘の部分に異を唱える必要があると理解し頭は無事だと理解した透子。
「いや、大丈夫だけど……頑固と頭の硬さは違うでしょ!」
下を向き頭を擦りながら問う透子に対し、野上の応えの前に通りの方から知った声が問いかけて来た。
「おいっ! グランプリもう終わっちまったんか?」
遅れてやって来た商工会の面々が、藤といる藤真の姿を見て聞いている。
「何だ? あのサイレンお前ん所か? グランプリで透子ちゃんに負けて喧嘩にでもなったか?」
馬鹿話のノリで笑う平均しても70代前半になるような8人ばかりの集団が、それまで起きてた事の件も笑い飛ばして来るような無神経さか無頓着かは、頭の切り替えには調度良く……
その来訪に透子も藤真も富士山グランプリへと気構え睨み合い、藤真が叫ぶ。
「勝負はこれからです!」
頭を打ったは心の扉




