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136〜始まりの銅鑼(ゴング)〜

 冴えた眼は降臨のかみ



 しかし、何故こうも間の悪い者と言うのは毎度同じ轍を踏むのかに、つくづく不運を自ら招いているようにしか思えない。



「あれ? 野上さん、お久し振りです!」



 店の前に残っているのは交番からの応援と思われる不安そうな顔を覗かせる警官が一人にPC(パトカー)の運転席で待機していた警官と助手席に乗り込み無線対応している警官、それに店の関係者四人に透子だけ。


 刑事が乗って来た車両は混乱に乗じて消えていた。その混乱時にサイレンではなくクラクションが鳴っていたのは恐らく逃げ惑う野次馬の歩行者に対する危険も省みずに急ぎ逃げるように発進したせいだろう。


 通りを見れば野次馬も床鍋の連中と同じく蜘蛛の子を散らすように消え去り、立っているのは恐怖に怯え立ち尽くす格好だけは一丁前な若者と、仲間か彼氏かに置いて行かれた女学生。


 それ等とは一線を画すように落ち着き払った女性が一人スッと道の端に避け、逃げ惑う群衆の中に混ざり都合よく逃げた者達を脳内の何かでロックオンしているような眼を向けていたが、その最中に物を投じた者達を追って行った二瓶を確認し、その後の対応を考えているのか二瓶の足元へと視線を落とすと眉をひそめていた。



 藤のかけ声に態度を変える野上の顔は気さくな女性の挨拶と見えるが、目の端にしっかりと二瓶をロックオンしたままでいる。




「こちらこそ、何か大変な時に来てしまった様で……」


「ああ、いや、野上さんには毎度ながらで本当に申し訳ない」




 藤と野上が会話を始める中、藤の弁護士が警官に詰め寄りこの件の話を進めようとしていた。



「いえ、自分は応援で、ちょっとこれに関して私には判断出来無いんで……」


「あなたの警察手帳を確認させて下さい。それと、最初に来た警官と応援に来て暴力振るった刑事は何処に行ったんですか? 所属と名前は?」



 追及の手をやめない弁護士の問いかけに、上の階級を型に命令口調で指示をして来た刑事も警官も突然消え去り本当にどうしていいのか分からずに居た警官に無線が入る。


 まるで天の助けとでも言った顔で喜び勇んで無線を取りイヤホンを理由に弁護士の問いを制して聴き入った。



 それなのに警官の顔はどんどん曇って行く事に、不安の表情を浮かべては反論しようとするが縦社会の組織体制による弊害をまざまざと見せつけ、首を縦に落として納得の行かない上からの話に諦めの韻を踏んでいる。


 その正義を着飾る制服の、(うつむ)(うなず)く姿は暗部へと堕ちた悪人の三下奴にしか見えない。



 弁護士も何か不穏な物を感じて注意深く法的な根拠と責任に乗っ取り対応可能な措置を講じる手立てを頭に描き、警官の言い逃れを防ぐ為にとセットしていたレコーダーを確認し証拠の確保を優先としていた。





 店の入口近くでは亜子が男を逃した原因に藤真に文句を言うが、逃げ惑う無関係の人への対処を見ていただけにあまり強くは言っていない。



 そんな中、一人静かに店内へと戻ろうと背を向けた透子に藤真の目が向けられた。と、同時に二瓶が尻か太腿かの辺りを叩きながら戻って来た。




「くそっ、あいつ等バンに乗って逃げやがった。あの(こな)れた感じは相当ヤッてるぞ!」




 弁護士が無線を聞く警官の背をそっと押し、二瓶に連れ寄り確認する。



「その車のナンバーや車種は?」



 更に藤が問う。



「おいっ、あの刑事と警官は何処行った?」




 そして野上は、犯人についてを問う事なく二瓶に詰め寄り職務の顔へと……




「その筋変え、革靴を庇って走るからですよ。いい加減ご自分の立場を考えて行動して下さいと何度も念押しして言ってる筈ですけど、またお忘れですか? 次やったら病院へ連れて行くって言いましたよね? その筋変えと一緒に痴呆症検査、本当に調べさせますよ。」



 

 二瓶の返答を待っていた藤も弁護士も、野上に圧倒され逃げ場を求めチラチラと見て来る二瓶の視線を受ける度に申し訳なさそうに頭を下げている。



 そんな男達に看過される事を望んでいた筈の警官が、頭を下げる男の姿に感化されたのか同情か、無線のやりとりを終え伝えるべき話の前置きに、申し訳なさそうに小声で藤と弁護士に告げ出した。



「ぁの、すいません。あの刑事と警官は犯人追跡という形で既にこの現場を離れてまして、今無線で確認した所、別の刑事課の人間がコチラに来るという事で、到着次第聴取します」




 言い方は柔らかいが言ってる事には疑問点が幾つもあって、弁護士はスグに問題点に気付き詰め寄るが、藤の脳裏に湧き立つ何かは怒りとも違う煮え切らない記憶の何か。



 その記憶が何かと記憶を巡らすのと共に動く視線が、PCの運転席で待機中だった警官の不穏な動きに記憶の何かがリンクするような感覚に、視線をPCの運転席の警官に固定した。




 藤に見られている事に気付き、尚更に不穏な動きを見せる警官が助手席の警官から無線マイクを取り上げ何かを通信し始めた。


 当然隣に居る警官の無線機にも入る声だが、イヤホンで聞いている為に何を話しているかは解らない。


 が、警官の顔と気不味く肯く姿からもそれが藤達にとってよろしくはない指示なのは確かだった。




 そんな中、何時から何処から聞いていたのか野上が二瓶に注意をしながらの会話に混ぜて、昔の話を織り込み注意を促す。



「随分と前にも同じような事で警察の方と揉めた事がありましたよね。あれはキャンプの時でしたか、その時も確か車を追って走って……」



 そこまでを聞いて、藤も脳裏に湧き立っていた記憶のリンクが何なのかを理解したのか野上を称えるように見る。



「ああ、あれか! さすが……」



 警官や弁護士には何の事だかも分からない藤の反応に、二瓶も何かを察したのかキョロキョロと周りを見渡し状況の把握につとめた後にひょっとして、といった顔で野上を見れば頷く野上の反応に、またも見回し事の流れを思い出しながら確認する。



「あああっ! 同じか。こんな……」



 当時も追えずに逃げられたが、またも逃げられた刑事に犯人に警官にと、こんな所でまた同じ事が、とでも言いたげに途切れ飲み込む言葉には……




 当時の悔しさが重なり煮え立つ闘志が二瓶の顔を当時の歳まで若返らせていく。



 気合いを入れた二瓶が当時は思い付かなかった追及の手立てを、藤と弁護士の隣に居る警官に向け歩み出そうとしたその肩に、野上が手をかけ制止する……



 振り返り戸惑う二瓶を他所に、野上が何かを睨み見ていた。


 その野上の眼に焦りを見せていたのは……




「そこのっ! 透子でしょ!?」




「あ、……はい。」



 静かに背を向け扉を開けようとノブに手をかけた所に声をかけられ振り向くも、顔を向けるのを嫌ってか、かしこまって下を向き首を下げて返事をする透子の姿に藤真と亜子は、透子が何に怯えているのかに合点が行ったか笑いを堪えていた。


 


 目は口ほどに物を言う


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