133〜始まりの銅鑼(ゴング)〜
万端にする準備には注意を向けず。
「何ダヨ面倒臭ェナ」
喪積泉の一言に福山が通信を覗き、今度は何が起きたかと事態の収集を探り共に考えていた。
「二人外警かぁ、でもコイツ等階級下でしょ?」
外警とは組織外の意味だろう。階級下の二人は交番勤務の応援要請に来た警官か?
その眼を盗み組織に属する警官もしくは刑事に解決させる算段に、二人を排除する策を指示にのせようとしていたタイミングで、島口がガレージから部屋に戻って来た。
「もう終わる」
喪積の汚い言葉遣いを仲間は知っている。寧ろ知らないのは組織と関係無い者であるとして猫と聞き耳を立てていた男は喪積の言葉遣いでそれを判別していた。が、その仲間の中にも色々あるようで判別方式としては正しくはない事にまだ気付いてはいなかった。
表の顔と裏の顔に付け加え、裏の表の顔と裏の裏の顔、今の喪積の顔は紛れもない裏の表の顔。
「アノ刑事、使エンノカ?」
島口は、喪積の視線が自分に聞いたようには思えず振り返ると、胡唆が設置を済ませガレージから戻って来ていた。
不気味に気配を消していたのか存在感が無いのか、薄ら笑いを浮かべる胡唆。
「もう山田刑事に任せて帰らせちゃえば?」
「二人捕マッテンダヨ」
「ふひ、だからさあ刑事に任せて」
胡唆と喪積の意を解さない問答を放り捨て置き福山と島口は設置した兵器の確認をしている。
「警察ジャネエヨ! 店ノ奴ニ捕マッテンダヨ」
「ふひっ?」
ようやく意を解したのか、事の面倒に理解を示す胡唆だが、何故捕まっているのかが理解出来ていない。
あまりにも下らなく長々しいやりとりに、島口も少し苛つきを覚えたのか普段よりも更に動きに落ち着きが無くなっている。
それに気付き胡唆と喪積の問答と島口の鶏の動きにも似た苛つき方に、現状の問題を揚げて統制を図ろうと福山が口を出した。
「で、次の指示どうするの?」
――PERONN――
外の男の荒らげた声は止むが警察車両のサイレンと赤色灯に、外で何があったか気になる客も顔を向けている中、スマホを確認する透子……
【顔出して声かけてやれ!】
「マジ? 良いの?」
透子の顔に抑圧から解放されたテスト終わりの学生のような笑みが宿っていた。
――PERONN――
【あれ? この前スーパーで……だぞ! 暴れんなよバカ猪突!】
「えぇぇぇ」
明らかに藤真や亜子と共に暴れる気満々だった事を窺わせる反応。
外に赤色灯が見えているのだから少し考えれば判る筈だが……
ただ、それは零にも予想の範疇。
――PERONN――
【旦那の刑事が来てんだ!】
「それって……」
つまる処、夫婦で何かしらの示し合わせに嘘を吐く気満々だと容易に想像がつく話。
そこに透子が顔を出していい理由はただ一つ、女の信用に疑問を呈す為スーパーで無礼をした事の証明に立ちはだかるのみ。
そうと知って明らさまにやる気を無くした表情を見せる透子、脇に置いた皿からクレソンの茎の辺りを栗鼠のように食べきると、ため息のようなひと呼吸後に扉へ向かった。
「コラ! その手を離しなさい!」
外では山田刑事が藤真と亜子を暴行罪で現行犯逮捕を警官に指示し、国家権力を前面に警察特権かの如くに二人が暴客の男達を捉えていた手を警官が無理矢理に引き剥がす。
「痛ッテェナコノヤロウ!」
と、手が離れた途端にイキり出し殴りかかろうかと藤真の肩に手を伸ばし襟を掴んだ所で、また藤真に手首を掴まれ膝を着いた。
「コラ! いや、あの……」
明らかに暴客の男が暴力行為に手を出したのを取り押さえただけと判る対応に、女の話に違和感を覚えた警官二人が刑事の顔色を窺っている。
そんな警察の異常な対応にも、藤真と亜子は抵抗もせずにその眼は真意を問うように刑事の顔を見据えていた。
黙り何かを考えている刑事が女いや、自身の嫁の顔色をチラチラと覗き見ては周囲の野次馬がスマホを向けているのも見え、自分の立場と状況の拙さからこれ以上は……
そんな考えを察してか先に来た警官が二人の警官に指示を繰り返して指揮を振るいだした。
「オイッいいから離せ! 何ヤッテンダお前等! 早く捕えろ」
慌てて藤と弁護士が話をつけに刑事の元にと向かった途端。
「何だ、騒がしいな!」
「あ、」
その声に振り返った藤が、よぉ! とでも言った感じで手をかざす二瓶の顔に気が抜ける。
「あぁコラ、関係ネェのが入って来んな!」
拙い立場に威厳を持たせようと後からしゃしゃり出て来た男に公権力を振り翳す山田刑事の一言に、女も強気を取り戻したか更に引っ掻き回して有耶無耶にしようと騒ぎ出す。
「チョットー! 私達はコノ店の店員に暴力を受けたの! 邪魔シナイデヨ!」
嫁の狙いに気付いたのか山田刑事も一気呵成にと乗り出そうと顔に余裕を取り戻し口元が緩んでいた。
「オジさん、今日はこの店ヤッてないからとっとと帰んな! な、アンタも警察にお世話にナリたくネーダロ?」
強気な姿勢というよりも弱い者虐めが板についた上から目線の物言いに、普段この台詞を吐かれれば反抗的な相手は逆撫でされたと感じて逆上し、見た目には警察の正義アピールに繋がる。
社会通年のある人や弱気な人やは、少しばかりの違和感を我慢して面倒事に関わりたくないからと、その場を立ち去る。
しかし、目の前の光景に違和感を覚えたのは台詞を吐いた山田刑事本人だった。
目の前の男は厳ついながらもケロリとした表情を浮かべ、むしろ悦んでいるようにさえ見える。
が、それよりも周りの反応だ。
店の前に居た二人は、仁王立ちで阿吽像のように来る者を見据えていた眼が、興味津々に笑っているようにも見える。
更には、つい今しがた警官の暴挙に慌てていた筈の店主と弁護士も、まるで理不尽に怒る教師の社会の窓が開いているのを見付けた学生のように鼻から吹き出し笑顔を見せていた。
判らない不安感を煽ろうとしていた筈の者が、自分が嘲笑われているように思えて不安を感じている事に、自分がするのは良くても自分がされると嫌なのか
判らない事への恐怖に耐え切れず、喚き出す。それこそが負け犬の遠吠えとも気付かずに。
「何がオカシイんだ! 何を笑ってる! フザケンナコノヤロウ! オイッお前等本当に逮捕するぞ!」
そう言って感情任せに喚くだけならいざ知らず、喚く負け犬根性は二瓶に手を出していた。
と、同時に喚く遠吠えとその手は自身の後ろへと回され、二瓶の足元でうめき声に変わっていた。
「可笑しいのは刑事さんでしょ。国家権力の乱用も甚だしいな。何もしてない通行人に刑事がいきなり手をかけるとはどういう量見だ?」
「こ、コラ、これは公務執行妨害だぞ!」
二瓶は襲いかかった手を払い退けただけだが、そう言って立ち上がった刑事の目に入ったのは、周りを囲む野次馬が向けるスマホカメラのその数々。
数に圧倒されたか焦りの色濃く、刑事は口を紡いだ。
笑う門には福来る




