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129〜始まりの銅鑼(ゴング)〜

 代わり映え。



「じゃ、頼むね! 色々と……」


『…いいから早く行けよ、猪豚!…』




 まだ何かを言い残している気がして楓香を見る透子に、楓香が少し意地悪に送り出す。



「うん、我慢してまぁぁぁす!」



「……ごめん、行ってきます。」




 小さく頷き逃げるように出て行く透子と楓香を、食べ物の恨みの怖さを見るように零は肩をすくめその手の事には関わりたくないぜ! とばかりにモニターへと顔を戻した。


『…あ…』


 が、戻したモニターには発注品の配送完了報告が出ている事に、わざわざ自身の手により食べ物の恨みを買う事をしていたのを思い出した零が固まっていた。


 先程までの感謝の姿勢が変わり果てて帰宅するだろう透子の暴挙を想定した対策……







「ありがとうございました」


――GARARAANN――



 レジを済ませた亜子が、急ぎ藤真の席へと戻ると途中で切り上げていた話の続きを前のめりに確認していた。



「だあ来るって! 来るっ! 来るから!」



 席の脇から食い気味に近付く亜子の顔に、横を向き避ける藤真の肘がテーブルに当たり痛みと痺れに苦悶の表情で厄災を祓うように解き放つ言葉に、亜子はようやく話を飲み込んだ。



「え、じゃあ、本当に来てくれるのね!? 先に言ってよ馬鹿!!」



「馬鹿って……」



 鈴木に連絡が取れた事を亜子に伝えた藤真は、思う所もあって心配も有るが亜子のはしゃぐ姿に不安も消える。



「次は? ……亜子ちゃん?」



 デシャップの注文票を自分で見ろとばかりに厨房側へ押しやり、奥のロッカーへと入って行く亜子を料理長が訳が分からず顔で追っていた。


 亜子も仕事はキチンと(こな)している。コースやデザートやも無く基本の料理だけの注文票に順番通りに出せば良いと理解しているからこそ。



 当然のように戻った理由は化粧直しに呼気の確認にと、来たる鈴木を意識しての事。



 だからこそ、奥へと向かうまでも溢れんばかりの笑顔の亜子に、料理長は何があったかの探りに見ていたが、他の厨房スタッフを見るも首を傾げるだけの反応に、注文票から料理を告げた。



「うにの椎茸帆立とたらこイカ! あ、そろそろグランプリの前菜出す準備しとけよ!」




 厨房から聴こえる声に笑みを(こぼ)す藤真は、会長から店へ先に行って準備の手伝いをと命じられていた。


 別段いつもと変わらぬその役目には、毎度時間より早く来る隠居した元の商店主や嫁や孫に子供達の楽しみにもなっている事から、

 面識を広める狙いもあったが、藤真を引率者にあてるのは単に店の仕事の邪魔にならぬようにとするだけになっている。



 しかし、今回はそれに加えて二つの意味での用心棒の役目を担っていた。



 勿論、先日の大挙して押し寄せた愚の珍客への対応も含めて先んじての考えに決めてある。


 もう一つは連絡が取れた鈴木に対して付き纏う連中の確認と護衛。



 既に入り込んでいる可能性にそれとなく目を凝らすが、今の所は見当たらない。


 茶尾からの映像を朝から確認に何度も見ていた藤真の目には、スマホに入れた映像から切り出した顔の画像が数十枚程。



「何人居んだょ……ったく。」



 見てスグに全員を覚えられる程の才は無い。と、自分を知る藤真が朝からそれを会社のパソコンでやっていたのを見た藤が、終わった頃を見計らい先に行けとしたのも……




――GARARAANN――


「いらっしゃいませ。」



 いつの間にかフロアに戻って来ていた亜子の声に、振り返った藤真は二度見した。



「誰だよ!?」




 少しばかりの気合いを見せる亜子の化粧には、昔の夜の名残りも感じるが、就活時に教えを貰ったメイクの基礎を準備立てて行ったのか、凡そ飲食店の化粧とは思えない程に主役を張る気満々な……



「こちらの席へどうぞ。」



 化粧が変われば気分も変わる。


 一つ前に入った客もその顔と対応の違いに、何の違いか視線を巡らせ奥の準備を答えとして安堵を見せた。



――GARARAANN――


「いらっしゃいませ。」



 鈴木が来ると知っただけでここまで変われる女心と秋の空。


 亜子の様子に圧倒されつつも、接客する相手の顔を見て藤真は記憶に当たり席を立った。



「どうも! お元気でしたか?」


「おお、藤さんトコの」


「真です。まだ皆さん来てないけどアッチで先に飲み物でも……」


――GARARAANN――


 隠居生活に地元を離れた元商店主を奥席へと誘うと、次々に嫁や子供やからやって来る時間になっていた。


「いらっしゃいませ。トーシン!」









――KATAKATAKATA――


 別にした事に反省の意を示しているのでも暴挙対策の為にしている訳でも無いが、透子に頼まれた事の調べにいつの間にかその闇の深さに潜り過ぎたか、床鍋公会と同じだけの犯罪の臭いが漂っていると知る。



『…ひほぉぉぉ、コイツは中々に…』



 透子の頼まれた調べは、田中には確かに消された過去の事故記録が在るものの、人身事故の記録は見当たらない。


 代わりに見付けたのが、沢抹が金皮県知事時代に一発免停の速度超過を1km/hの誤魔化しでゴネた挙げ句に一時去り、後から嫁が運転として挿げ替えに、免停相当の速度超過を県知事権限で(まぬが)れようとしていた事に注目していた。



 その日付こそが……




「あれ、これ多分……」



――KATAKATAKATA――


『…ひほ?…あ、さっき誰かが出て来たって…あれ、鈴木本人だったのか!…』



 楓香の声に零は深みにハマった頭を引き戻され、通信に列挙される鈴木の通し番号No.5939に対し追跡を報告する隠語の稚拙なやり取りの数々を確認していた。



 しかし、零も透子も鈴木の行き先が透子と同じ富士山パスタだとはまだ知らない。


 故に鈴木が何処へ行くのかよりも、無事とは言えないが危険の中の安全を見守る以外にない中で、追う連中の中に時折現れ別の動きを見せるIDと

 別の鈴木の通し番号No.1103で扱っていたTYM-450TAの存在に注視していた。


「何か、多くない?」


 


 入れ代わり立ち代わり


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