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126〜始まりの銅鑼(ゴング)〜

 水と油



 寝起きからの反省に気不味さも感じたのか逃げるように顔を洗いに行った透子だが、起きたばかりも身体の調子の良さに、やはり痩せた効果なのかとお腹周りに目を向けた。


 と、同時に研修初日からの毎日にナグルトを飲んだ効果とを比較に考えるが、比較対象として体を成していない自身に起きた唐突な身体的変化と楓香の出現にと、改めて自分の置かれた状況を再認識させられて……


 悩んでも解らない事だらけの現実に、考えるだけ無駄な事にも思えるが、楓香の為を思えば考える他に無く、その手助けに零への感謝もせざるを得ないと頭では理解出来ているものの、それが悔しいようで恥ずかしく認めたくないような感情に。



――BASSYA!!――


 冷たい水を手いっぱいに顔を洗って、目覚ましなのか化粧乗りの為にか、それとも……



「あああ、冷たっ!」




 その洗面所からの響きに、零の頭に何かが過ぎる。


『…ひほ? 冷たぃ…?…』


「多分顔洗って、水の事でしょ」



『……水? 水、冷たい、水、水? アレか! 水、水だ!…』



――KATAKATAKATA――



 キョトンとする楓香を置き去りに、零は思い出した冷たい水にまつわる何かを検索し始めた。




【地下水脈汚染による浄水場の井戸水汲み上げ停止と取り壊し】



 都下で水道水へ流入する為の井戸水にホルムアルデヒドを含むジオキサンが検出されたのは、最初にとある自動車工場があった地域の家庭用水の井戸の検査での事。



 その後地域の古井戸まで調べてみると彼方此方で検出されだした事に、都は当時その危険に井戸水の飲料規制を呼びかけたが、その呼びかけの内容に汚染の原因究明は無く、ただ浄水無く飲む井戸水は危険としていた。



 更にその十年程の後、隣町処か地形の下る方向にもその汚染が拡がっていたのが明らかな証拠に、NPO団体の地下水脈の有機フッ素化合物(PFOS、PFOA)汚染に関する訴えから南東にある市民の検査に二市の十人程の血中濃度を調べてみると……


 有害物質の血中濃度が通常の1.5倍から2倍等と異常値を弾き出し、その地域の水道水となっていた井戸取水の浄水所でも指針値超えに施設使用停止となった。

 



 都水道局が所管する最初の井戸水汲み上げ式取水施設使用停止となった施設こそが、その自動車工場のすぐ南にあった。


 その施設の解体が行われたのは、まさに南東地域でNPO団体の訴えに血中濃度の検査結果が出て井戸取水施設の停止となった折に、現都知事が許可をした。



 最初の井戸水の検出から十年超程の内にあった事由こそに、零の頭に過ぎらせる事の繋がりがあった。




 モニターにはその自動車工場の二市に跨がる跡地利用のゴタゴタが記載された内容の別々の二市の議事録に、共産主義の党の市議には珍しく中途半端な調べの追求に、手が尽きたのかなぁなぁになった議事録もあった。





――KOTONN――


『…ん? サンクス…』



 楓香が零にと置いたコップ一杯の水に……


――KOTONN――


――KOTONN――


――KOTONN――


『…ひほ?…』



 次々に置かれる水の入ったコップやグラスに、楓香は何杯飲むつもりなのかと顔を見る零に……



「冷たい水。六杯分もコップ無いから、それ飲んだら入れる」




『…ん?……いや、そうじゃねえっ!…』



 零は言った水の数まで覚えていないが、恐らく先程の記憶を巡る際の呟きに反応したものだろう。



「要らないの?」



 楓香の少し怒った感じが申し訳無い気持ちにさせる。


『…井戸水の事をだ!…』


「汲んで来いって?」



 真面目な顔して言われると思わず悪癖が……


『…うむ…』



「ふむぅ……ならこれ、場所は?」


――JABAAAA――


 悪癖の悪戯心をくすぐる楓香の素直さに、すれば笑える話になるのは小学生までだと知る大人には、その先の笑えない危険を踏まえてネタばらしをするのが節度であり、知った大人がやるならそれはタダのクズだと知ればこそ……


――GATYA――


『…冗談です。ごめんなさい…』



「何で零が謝ってんの?」



 顔を洗いトイレまでもを済ませ出て来た透子が、零の犯した何かに自分の反省を上回る問題を期待して、楓香に自分より酷い事をしていないかと輝かせた目を向ける。


 その兄弟喧嘩のようなやり取りに、楓香はため息を(こぼ)し、無駄な配膳に謝る者と出かける準備も出来ていない者と、二人の間抜けな様子に考える。


「ふぅむ……」



 置いたコップの一つを持ち、透子に飲めと差し出すと


「もう行く準備しないとでしょ!」


「ん、やばっ……」



 モニターを振り向き、零の頭を掴みそれに向けると



「で、なら何なの?」



 そのまるで母親のような世話焼きに、零も微妙に子供に戻ったような感覚に説明をと思い返す。



『…水、井戸水で思い出したコレの事だ!…』



 零が腕でモニターに映る文字を指す。


 そこに書かれていたのは自動車工場移転の経緯と跡地の購入者も無く突如として、政治家の鶴の一声に金皮県へと出て行った問題だらけのドタバタ劇に、跡地問題に手を差し伸べた宗教組織の名前が在った。



「……あ、あの車が駐めた神社の裏にあったやつ」


『…ひほ!…』



 更にモニターの別を指し、そこには井戸水の汚染を訴えたNPO団体の記事があり、それがこの家に引かれている水道水の事だと知った楓香が、自身の身体を見やり心配に化粧中の透子を見る。



 別の記事には自動車工場近隣の井戸水から出た汚染問題に触れ、追究する市民実行委も記事にも自動車工場より西にある米軍基地の泡消火剤を疑う内容が多いが、地形図の高低差や移転時期とドタバタ劇からから考えても答えは……



 つまりはそこに、何らかの思惑有り気の権力者がメディアに圧力をかけているのは明らかで……




『…ん? ひーほー…』


 ふと零が地形図に注目し、地図を動かし工場脇の川を下る。


 その川は工場移転の少し前に工事で粘土層まで掘ってしまい、そこより下流は数年渇水河川となった一級河川。



『…これ、あの油だらけの川か?…』



 川の名前に零が思い出したのは……


 


 呪いの人形が巡るはいつの記憶か……


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