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122〜始まりの銅鑼(ゴング)〜

 喰うは何か……



 透子の研修は全て終わり、次回からの配達へ向けての基本的な知識と商品価格等を頭に入れたが、

 売上を伸ばすには、何が売れるかと共に何を売るかもそこそこに考えながら常に勉強して行く感覚が必用と知る。


 商品の売れ筋と利益率との比較に追従するだけでは手詰まりになる事は読める。それは自身を購入者側に置き換えれば理解も早く、

 乳酸菌を含めた健康美容関連の研究をしている企業だけに化粧品は解るが、靴下等の生活雑貨までもが商品として存在する事にこそ勝機が有るようにも見えるのは、

 たかがの利益の金額に、それを自身が買いに出る面倒を、全く関係無い用事で来た者に頼んで済ませられる御用聞き的な扱いは、出不精な者や身体の不自由な者にとっては救いにも成り得る。



 勿論、担当エリアに居る客がどんな物を求めるのかもまだ何一つとして知らず、見ただけで判る程の目も無い。


 これからの日々に少しずつ知る事に、頭では無く体で覚える方が自分には合っていると考え、先ずは自身の体力を知る事からだと配達の自転車を眺めていた。



「お疲れ様。あ、不破ちゃん今日は大食い勝負だっけ?」


「はい。良ければ一緒にどうです?」

「無理無理無理無理……」



 自身の説明が下手だったのか、大食いと称された時点で今更何を言っても拒否されるのは、大泉に言われた無理の数からも知れる。


 そもそも今夜は食べる事に集中したいだけに、別の何かを考える余裕は無い。


 それでも気にして置きたいのは、気さくで世話好きな他人から恨まれる理由も無いその笑顔を失くしたくないからこそ。



「それじゃ来週の配達始めの後で、また!」


「そっか、今度こそだね」



 そう言って笑う大泉は、研修初日の勘違いを既に自虐的な扱いに仲間とネタにしている。


 お陰で透子もスンナリと仲間の輪に打ち解ける事が出来た。



 しかし、一昨日から零がクラックした内容に聞いてはいたが、何の落ち度も無い大泉を貶めるような風雪の流布を今朝いくつか小耳にも挟んだ。


 流しているのは間違い無く小林だと判るからこそ、敢えてその嘘を潰す真実の話を流したが、配達を終え戻って来た人達からは更に嘘を塗り重ねられた話が聞こえた。



 恐らくはルートの顧客の中にも床鍋の者が居るのだろう。最近入ったのか元からか、社の立場上からもそれ等は排除する事は出来無い。


 逆に配達する側がそれをすれば訴えられ兼ねない事にも、現都知事の勝手により辞めさせる事も難しくなった現在(いま)


 組織的犯罪行為をする側ばかりが有意義に事を進めている現状に……



 身分向上だか組織の為だか知らないが、平然と嘘をバラまき他人を貶めるような身勝手な連中の汚いやり口に対する嫌悪感も合わさり、

 透子は怒りと護衛の観点からも、何か抜け出すようで申し訳無い気持ちも絡んで、大泉との会話の肯きにも別れの挨拶にもより深く頭を下げて別れに背を向けた。


 が、透子はまた会う事を念押しするように振り返り、少し考え声を上げた。



「来週、またお願いします!」


「おお、またね」



 幾らかの気が済んだのか、それが自分自身を納得させる為以外の何物でもない言葉だったとも気付くが、それでも言わない後悔よりは良しとし手を振り、家路へと血眼号のペダルを踏みしめた。








――PIKONN――


『…動いた! 楓香、Cの準備も頼むぜ…』

「あぁぁ、うん、OK」



 お知らせ音は例の神社に駐めた車の事、昨夜調べたもののネット上からは契約者の情報は出無かった。


 零は車のGPS追尾を始めつつも、動き出しの反応に10分前までの追録保存映像の再生を始めた。



『…これ…マジか…』



 車に乗り込んでいたのは生安課の刑事と……



「……何なの?」


 大泉を追い出した通信を確認しながらもC用のタグを空けたが、言葉に詰まる零に反応して続きの言葉を待っていた楓香が集中出来ずにチラチラとスマホと零とモニターとを視認するが、埒が明かずに問いただす。



『…ひほ、ちょっと待て…』

――KATAKATAKATA――


 そう言って車のGPSデータの追跡を始めている零が、昨夜同様急場凌ぎに緯度経度情報をマップとリンクさせる為にウェブ開発系のプログラムから仮想モバイルのナビアプリに連動させた。


 ウェブカメラ等の映像や通信アプリの解析にも必要になる為、ネットの回線をなるべく圧迫しないようにGPSデータの情報量を少なくする為の苦肉の策だが、メモリーを増設してあるとはいえ昨夜もNシステムが固まっただけに不安は残るが……


 駐車場を監視していた後からでも確認可能なこの手の録画は常に映像をメモリーに保存し続け10分以上経った分は削除を繰り返す。

 その為、これに使用するメモリー領域を固定し判定基準を変え車と周囲の30秒刻みの画像差位相録画で継続させる事にしてプログラムを書き換えている。


――KATAKATAKATA――



 零が10分前の映像に観たのは生安課刑事が徒歩で来る前に、駐車場に車で乗り付けたもう一人の男。



 零がその顔に見覚えがあるのは当然だった。


 この生安課刑事の深堀りにクラックした折、警察内部の統制を計り知れる削除(デリート)された報告書に在ったあの犯人。



 幼児性愛者による幼児略取未遂の容疑者である胡唆(うさ)三太(みた)の犯罪隠しに、所轄警察署から感謝状を贈るよう迫る為だった事が今この映像で証明されたが、近隣で起きた住居不法侵入犯の顔。



 あの調書画像の中にも名前が出てこなかったこの男だが、生安課刑事と共に例の車に乗り込んだ時点で御里が知れる。




 零が何故に録画を継続させたかは、この神社の境内にある駐車場が契約駐車場だからだ。


 例の車は仲間とシェアリングされていた。


 であれば当然、この車にも名前の分からないこの男の仲間が乗り込んで来る可能性が高い。


 恐らくは追跡をかわす為の追尾対策行動だろうが、やり口は警察の追跡行動の真逆をやっているにすぎない。


 つまりはこのシェアリングシステムの悪用を指南した者の存在も知れる。


 次にこの車に乗り込んで来るのは、警察関係者か床鍋公会の者か……




 何れにせよ、この顔認証にも反応しない過去に逮捕された筈の男と生安課刑事が繋がった事からも、警察と床鍋が共犯関係にあるのは間違い無い。


 それが警察組織の全てかは判らないが、報告書を握り潰した上層部が居る事からしても……



『…腐ってやがる…』


「まだ?」



 楓香はちょっと待てと零に言われて通信を確認しながら待っていた。


 3分程。


――KATAKATAKATA――


『…早過ぎ……』



 出た車のGPS追尾に、録画プログラムの書き換えと差分範囲設定に、通信のIDログからのC検出に、と忙しなくキーボードを叩く零の腕前を以ってしても……



 この透子がネット注文で買いミスをした仕事のカバーと買い物とゲームをするだけの安いデスクトップのパソコン……


 してその中身は、零が金に糸目を付けずネット注文し直し、そっくり入れ替えた自組みのハイエンドPCである。



 それでも尚、このハイエンドPCギリギリのラインでの攻防に何を思い付いたか、零が振り向き楓香に嫌な笑みを浮かべる……



『…ひーほー、百聞は一見に如かず、富嶽三十六景でも観にポートアイランドにでも行くか?…』


「何それ? 動いた車の行き先?」


 


 喰うど、からの侵入に阿吽の呼吸?


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