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12〜出会いと別れ〜

 装備品が揃いダンジョン的な一マス増えただけのホームドラマからようやく外に出ますよ。


「ねぇ、これ」


 腸女の指す床に数滴の血痕が広い間隔で落ちている。

〈……駄目かなぁ……〉

 血痕の先を辿る透子の目には、何か先の未来を見据えた祈りに満ちていた。


「うん、でも今は先ずアンタよ! 今からアンタは小出(こいで)楓香(ふうか)よ!」

「え?」


 突然渡されたメモに書かれている名前をあてがわれ、うんともすんとも何が何やら……

 そもそも何処から何時からそんな名前が透子の頭に降ってきたのか

〈まさか、まだウンコネタ? には思えないけど……〉

 さっぱり訳が分からない。


「選り好みは無し! それしか無いの。今から誰に何と言われてもアンタは小出(こいで)楓香(ふうか)で通しなさい。そうすれば……〈もし……この子が生きてれば……〉とにかくこの漢字と読み方を着くまでに覚えといて」


「え? あ、うん。って、何処に行くの?」

「あぁ、ふじさんにお願いしに行くのよ。だから駅の反対側の高層マンションのテッペンに行くだけ」


〈……富士山に?〉

 何のお願いかは分からないが、楓香は覚えるしかなかった。暫くして楓香が藻掻(もが)


「このふうって漢字は何だっけ?」

「あぁ、カエデでしょ。って、そぉぃぇばアンタ漢字も理解してたの? イメージ凄過ぎね!? ま、もう驚き過ぎて疲れちゃった。どうせまだまだ驚きの事実がいっぱい有りそうだもんね……」


「……………………」

「ぃゃ、何か言いなさいょ。怖いじゃない!」

「…………ごめん」


「まぁ良いわ、こんな風に足が軽くなっただけでも(おん)の字よ。あのシンドさったら……スグに靴が駄目になった理由も今なら頷けるわ……で、覚えたの?」


「うん。小出楓香、二十一歳」


「よし! 着いた」



 高層マンションの入口で部屋番号を打つ……3・7・7・6・っと、楓香が謎を解いた様に尋ねた。


――PIPI――

「あぁ、富士山? でも三十七階じゃ見えそうも無いし、誰なの?」

「え?あぁ、(ふじ)さん? 大家さんの家よ。お行儀良くしときなさいよ。あと、この眼鏡かけといて」


「はい、どなたかしら?」

「不破ですが」

「あ、透子ちゃんか、どうぞぉ」


 ドアが開きエレベーターに乗り静寂が包む、透子はこれから一世一代の大芝居をうつ、楓香と楓香の為に気合いが先走るのを抑え緊張で乾いた喉に唾が引っ掛かる。

 隣を見て緊張が移っていた楓香に声をかけた。


「アンタは誰?」

「小出楓香二十一歳」

「よし! ちなみにそれ隣の部屋の子の名前だから。イクよ」

「え?」

――CHIIIINN――


 ドアが開くと三十七階は全て大家さんの家なのでいきなり玄関だった。動揺を隠せないままの楓香をよそに透子はズカズカと進みベルを鳴らす。


「お久し振りねぇ……透子ちゃ? え? 誰? えぇ?」

「大家さん私、透子ですよ。ちょっと頑張ってその、ダイエットをですね……」



「ぇえええ? そんな本当に透子ちゃんなの?」

「本当ですよ、ほらコレ!」

「あら、それ…本当に」

「透子です。富士山パスタ八合目の透子です」

「おぉ透子ちゃんだ。こりゃまた随分と……」



 何のカードか呆気なく透子と認められてしまったが楓香も富士山パスタは知っている……何となくイメージが。


「……? あ、ひょっとして、あの大盛りナポリタンの店?」

「そちらは?」

「隣の部屋の……」



 どうすれば良いのか判らない楓香に透子が目配せを送ると、ハッと気が付いた。


「小出楓香二十一歳……です」

「え? あの、え?」

「実は同じダイエットで偶然会って意気投合して気が付いたら部屋も隣で私達も驚いちゃって」

「え、この子も? あれ? でも……」


「そぉそぉ大家さんは富士山パスタの専務さんでもあるのよ。私はそこの大食いチャンピオン! ね!?」

「あ、あぁそうです。富士山パスタ専務の藤です。そういえば山谷不動産の会長としか知らなかったか、良かったら小出さんも食べに来て下さいね」

「はい」



「でも、折角痩せたのにウチのパスタ食べたら……」

「大丈夫です、チャンピオンの座をあんなガリに譲る気はありませんから!」

「お、良かった。透子ちゃん来ないと盛り上がんないからな」


「はい。盛ります」



――SUUUU――


 大家と透子の空虚な長い呼吸音だけが時を紡ぐ中、楓香の時は止まっているようだった。



「……で、今日は二人で何しに来たの? 痩せた報告かい?」


「いえ、それもですが、その……私達の部屋と部屋の壁がですね……」


 大家さんの顔が壁という単語に反応し、否、物凄く反応している……

〈え? 何この異様な反応?〉

 鬼気迫る大家さんの顔が近い! 楓香は起立状態で固まって動かない。


〈ヤバい地雷踏んだか?〉




「すまん」

「へ?」

土金(つちかね)不動産の取引先なんか安物買いの銭失いになるからヤメロと言ったんだがお客さんの婿さんの会社を使ってくれって言われて仕方なかったんだよスグに直すから大丈夫。気まで遣わせたみたいだし……迷惑かけて悪かったね」


〈…………あれ?〉


「いえ、あ、というか良ければそのまま、もしくは壁を取っ払って私達同居って事にして貰えませんか?」


「あぁ、ウチは構わないけど良いのかい?」

「はい私も……ね?」

「はい小出楓香二十一歳……です」


「なら壁の件、点検に乗じて全戸改修するから黙っといてくれるなら部屋代半額にしてあげるけどどうだい?」

「うそ、やった。それでお願いします」

「はい小出楓香二十一歳……です」

「決まりだな!」


「あ、あと………………」




 透子が大家さんとまだ細かい話をしている中、楓香は自分が何をしているのか理解し出して罪悪感と不安感に襲われ始め、自分の芯が折れない様に起立していた。



「楓香、帰るよ」



 その言葉に安堵が漏れそうになるが、大家さんがコチラに手を振っているのに気付きお辞儀してエレベーターに乗り込みドアが閉まった所でヘタりこんだ。



「お疲れさん。成功よ!」


 

 出てスグに大家さんの家……やっぱりホームドラマでしたね(笑)

 段々と会話が増えるものだから、私の様に普段の会話がいい加減だと会話文を書くのは一苦労ですが、二人の人間味を感じ取って貰えていると幸いです。

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