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117〜予兆の亀裂音〜

 エンパシー



「いや、昨日ウチの先輩が山で遭難したのかと心配してたんだけど、スマホ落としてただけでさ……」



 茶尾は、それが何の事かも分からない話を思い出そうとしている藤真と亜子に対して、申し訳ない程度に自分が宇宙人の話を思い出そうとした経緯を説明し始めていた。


 よって、藤真も亜子も自分の記憶に宇宙人を探し求めている為、茶尾の話はたいして聞いてはいない。



「でさ、その滝って人曰く(あま)扉岩(といわ)の上にある神社に向かって光が飛んで行って消えた! って話をされたらしくて、それ聞いて何かそんな話を真も言ってた気がして……」



 藤真がその何かに気付くよりも前に……


 同級生を前にして孫の顔を覗かせていた藤真を見守るようにその会話を聞いていた藤だったが、茶尾の話の中に思い当たる事が頭を過ぎり、他の何かに気付き頭の中のパズルを組み替えていた。



 そのパズルの欠片は隙間にハマり、組み上がって見えて来たその一部の絵柄に思わず声が漏れていた。



「天の扉岩!? そうだ、あれもアソコからスグだ……」



 藤の何かを思い出した閃きにも似た低く響く声に驚いた藤真だが、その声に思い出そうとしていた何かに気付く。



「ああ! 天の扉岩、宇宙人、それ、ヤンキーが言ってた話の事じゃねえか?」



 その気付きは亜子にも伝播する。



「ああ! ヤンキーって、透子がよく言ってた麻友子って子の事?」



「ああ、それかぁ!」



 気付きの伝播は茶尾にまで廻り……



 別の何かに気付きをもたらして行く。



「あれ? それ確か宇宙人って、トーシンの事じゃなかった?」



 亜子の記憶に残る話には、宇宙人の正体が藤真だと……



「はあ? 宇宙人はファットだろ!」



 藤真の中では透子であって……


「あ、」


 茶尾は話を思い出したが、更にその会話の先までを思い出し、この質問をした事に後悔を始めていた。



 それは茶尾が学生時代から知る藤真と透子の争いの中でも、小学生の思い出話をする度に藤真と透子の争いのきっかけになっていたのがこの話だった。


 それがいつから男対女の争いになったのかも分からないが、透子と亜子vs藤真と茶尾の構図になっていき、茶尾はしたくもない争いに巻き込まれる日々を過ごす事に。



 にも関わらず、最近では争い事が富士山グランプリに移行していたせいか、この争いの元ネタである宇宙人はどちらか? に繋がるこの話すらをも忘れかけていたが、天の扉岩というワードだけで思い出す程に藤真はしっかりと覚えていた。


 執念深いとも言えるその記憶力には、亡くなった友人への忘れない気持ちも含まれているのを知っているからこそ、忘れる事も諦める事も出来ずに決着の付く事のない争いをも譲れないのだと。


 決して不毛の争いではなく、終わる事を望まない争い。


 それ故に、それが茶尾にとっての不遇の争いの始まりの物語であった事を忘れていた自分に……



「やっち……」



「その、麻友子ちゃんが言ってた話って何なんだ?」



 藤が茶尾の後悔を知らずに尋ねて来た事に、誰も不思議には思わなかった。


 藤真も自分が藤にその話をした記憶は無かったと思えて自ら進んで話を始める。



「ファットと初めて会った時のキャンプの話だよ。あの日の夜にヤンキーがトイレでさあ……」



 トイレの中で強い光を照らされて何事かと、用を済ませて出て行くと外で待っていた透子が倒れていた。


 透子が目を覚ました後、遠くで光に照らされて倒れている何かに気付いた透子が、それが犯人と見て近付くと藤真だった。



 この話が何かをキッカケにUFOと宇宙人の話に変わっていき、今藤真が話している……



「でさ、ヤンキーがUFOを追っかけて出て行ったらクレソンまみれのファットが……」



 子供の頃の記憶は時に、子供の内に子供同士で話せば話すほど、友達からの突っ込みや茶茶入れにより話に脚が付き色付けをされ、元の話が見えにくくなる。



 しかし、頑なにそれ等を拒否し続け、元の話のみを記憶として持ち続ける強い意志を貫く者の記憶力は脚色も洗い流して事実だけを残す。


「トーシンの話はアチコチ話が飛んでて事実に反するって、透子が毎回言ってたじゃん!」



 その亜子が透子に聞いていた話にも耳を傾ける藤だが、既に藤真の話が自身の記憶にも反する事から見切りをつけていた。


「透子ちゃんは何て?」



 前のめりに聞いて来る藤に一瞬戸惑う亜子だが、麻友子の親と藤が知り合いとも聞いていたからかスグに納得し話を始める。



「ああ、確かトイレの前で透子が星空を眺めて待ってたら、急に空が真っ白になって気を失って、気が付いたら麻友子って子が起こしに来てて……」



 自分目線の話だけに脚色が入り込む余地は無く、結果として事実だけが残されている事にも合点が行く。



「……それを宇宙人っていうなら寝ていたトーシンの事だ。って」



「真、お前もその強い光を見たのか?」



 話をまとめるように藤が真に確認する。



「え、んん、何となくだけど、トイレから戻る途中で真っ白になったような……」



 藤は時間軸に合わせて皆の話を繋げていた。


 茶尾の先輩が聞いたと言う、滝の話も含めて……




 それは、途中で何かに気付いた茶尾も同様で、滝の言っていたUFO話の(くだり)と藤真と透子、そしてヤンキーこと麻友子の見たと言う光の話に親和性を感じていた。



 その結果を求めて茶尾は、これまで知らなかった事の確認に藤真でも藤でもよく、その場に居た二人に質問を向けた。



「あのぉ、そのキャンプって、何処でやってたの?」



 その質問に藤は、茶尾も同じ結論に至ったと気付き目を向ける。



「ああ、あれは、六日市のキャンプ場だよ!」



 まだ気付かずにいる藤真の軽い応えに、茶尾は地図を頭に描いたのか、一瞬の後に藤真が天の扉岩で気付いた理由に当たりを付けると、その事実に泳ぐ目が藤からの視線に気付き、この謎解きのような答えに気付いた者同士が目を合わせて頷いていた。



 新たな謎の扉を開いた事への気味の悪さを抱えて……


 

 シンパシー


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