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116〜予兆の亀裂音〜

 目と眼が追うは目的と目指す場所。



「うぅぅぅん、前に亜子ちゃんが見たのはこの中には居ないんだよねえ?」


「はい」


 藤は先日の、警察の捜査協力要請を受け入れなかった故か、確認にかけた電話に反応しての報復行為を考え始めていた。


 というのも、茶尾から映像に居る連中が茶尾の勤務先になっている住宅展示場でもやりたい放題に窃盗や器物損壊を行っていたと聞き、集団で行う事で個人犯罪を見え難くし捕まる可能性を下げる目的に組織化された犯罪集団とは考えたが……



 生活安全課を名乗った警察署内の内線受け付けに、これを予測しての捜査協力要請だった事とも思えたが、だとすればどうして予測が出来たと言うのかに疑問が立つ。


 警察が捜査上の事としても協力要請するならその犯罪内容は話すべきだろう。


 事このような惨状に従業員を危険に晒すようなら尚更に。



 しかもその捜査協力要請の内容に、刑事と名乗った男は、特定の客に対して嫌がらせ紛いの行為をしろと言っていた。


 亜子から聞いた話や茶尾の撮った映像から見ても、もし仮に刑事の言うような嫌がらせ紛いの行為をしていたら、何をされていたかに気がきでは無い想いに腹も立つ。




 詰まる処、この犯罪集団の目的が解らないままだ。


 嫌がらせなのは間違いないだろうが、兎角この集団が行ったのは器物損壊罪の類いと今亜子が確認中の精算だ。


 とはいえ、食い逃げ犯が居たとしても数人分で、大半はカードで支払われている事に要領を得ない。



「一席だけです。あ、これあのグラス野郎の席だ!」


「ああ、あの三十路臭い男二人の?」


「そおです! あの大人デビュー臭え若造が!」



 亜子が客を前に出せなかった学生時代の顔を前面に、怒りの感情を爆発させている事に、客である筈の茶尾は目を合わせないように下を向き黙り込むが……



「茶尾君さあ、その映像貰える?」


「はいっ? あ、勿論!」



「チャッビー、それあたしにも頂戴!」



 明らかに使い道を(たが)える事が予想される物言いに、茶尾が亜子から目を逸らし続けるのも難しくなる頃、ようやく藤真が床の片付けと、料理とガラス陶器の危険物との分類を終え戻って来た。



「チャッビーを困らせんなよ! お前の救世主だぞ!」


「救……まぁ、そうなるか。チャッビー何か飲む?」


「え? ああ、いいよ別に」



 同級生ならではの三人の関係に皆学生時代の顔になっている。



 その様子から藤も安堵の表情を浮かべるが……



「ていうか料理長は何してたんだ?」



「ああ、注文が落とされた料理の再発注とも知らず、平日の昼を過ぎて尚夕方までの忙しさに上機嫌で作ってて何も見てないそうです」


「あぁぁ、ま、いつも通りだな」



 藤真の返事に納得し、そのマイペースさに笑いが溢れていた。










『…ま、待て! ほれ! これを見ろ!…』



「ああ?」



 透子が息を吹き返し形勢逆転となっている、この数分前……




『…あ、…』


――PUUUHH!!――



 零が調子にのったか忘れてか、透子の頭の上で屁をこいた。



「ぐぅほぉっ!? おま、こおす!」



――KATAKATAKATA――


 何事も無く作業を(こな)す零だが、既に一旦の追跡を終え、次の手を考えている事に楓香がその状況から透子を押さえつけておく理由は無くなったと判断し、へそに指をそっと刺し栄養素を戻し始めていた。


 当然、力みなぎる透子の身体は沸き立つ怒りに震えも起きる。



『…ん? 地震か?…』



「ああ、震源地はここだけどな!!」




 そして今……




――BOFUMU!!――



 透子の両の手に潰された零は、その人形の顔を膨らませていた綿にも含まれる空気の層を、一瞬にして押し出され、潰れた顔から魚のように見える世界に頭が追いつかずに気持ちの悪さに嗚咽を漏らす。



『…おへっ、へぇーほ、ひー、ぶ…』



「ふんっ……」



 透子が次の攻撃に移ろうとしていた矢先、楓香が声を上げた。




「待って! まだ動くみたい!」



『…ぶぃぼっ!?…』



 振り返る透子が悔しさを(あら)わに手元の零と解らないモニターを交互に見返し、悔いを残した諦めを握り締め床へ投げ捨てた。



「追えなかったらハサミで切ってやるからな!」



――SUTATATATATATAH――



『…ぶぼぉっ! 切るならこいつ等の二枚舌にしろ!…』


――KATUNN!――



 モニターに映る何処かの店のウェブカメラの映像には、カードを持っていた男女の乗って来た車が映っている。


 そこでは別の連中が、またカードを受け取り買い物を行っていると思われるが、服飾品類の店と眼鏡屋が同居する小規模の商業ビル。



 出口近くに路駐されたその車に近付き何かを受け取り中に入って行ったのは先程とはまた別の十数人程の老若男女で子連れは無い。


 中のカメラは古く外部にも繋がれていない為に様子は覗えないが、出て来る集団は手に買い物袋を下げているが車を過ぎると消えていた。



 今回はまだ小出楓香のカードは使用されていない。


 そんな最中に動き出したと楓香が上げた声であり、それは今回は小出楓香のカードは渡される事も無く、車の中にいる男女が持ったままに移動を始めるとなれば……




 まだこの車は移動先で何件かの犯罪を繰り返して行く可能性が高い。が、その先に行き着く所には……



 と、三人の眼には透子の怒りをも凌駕する犯人を追い詰め小出楓香を救い出す為の信念が、熱く熱く燃えたぎっていた。



 一人は元に戻った視界に対する安堵も含めているが……











「あ、そうだ! 真、昔宇宙人見たとか言ってなかったっけ?」


「何だそれ?」



 茶尾は三人で話す学生時代の雰囲気に、思い出した事に確認するが、藤真からの否定とも取れる応えに自分の勘違いだと理解した。


 が、



「あれ、私も何かそんな話聴いた気がするんだけど……」



「え、宇宙人……」



 亜子の記憶に微かに揺れて、藤真自身も自分の記憶に宇宙人の話を探し始めていた。


 


 目標は遠く、近場に目を付けられたか。


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