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114〜予兆の亀裂音〜

 それが暴れる理由わけ



「ねえ、これって何か、さっきの生安課の刑事と関係してない?」


『…ひほ?…』



 楓香が見付けたのは、大泉の通し番号No.225を追う者達の中に、鈴木の通し番号No.5939を追う者達に指示するTM-537TUの存在に気付きマークしていた。


 しかし今、そのTM-537TUと大泉を追うTKT-F0013が、これまた鈴木を追うTM-342HIと富士山パスタに居ると判り……



「これ、ヤバくない?」


『…コイツぁ猪突案件だぜ…』



 その指示内容に店の状況を察して、知れば怒るだろう透子にどう伝えるべきかとも思案し黙る零と楓香。



 指示の文言からは生安課が絡む事由のようだが、どうにもあの刑事やその嫁の直接的な関与は見られず。


 むしろTM-537TUとTM-342HIや他の者達の個人的な動きが目立っている事から、鈴木や大泉を追い回す悪質な雰囲気が漂うそれと同じに見える。


 生安課自体が絡む事由であるとされているが、あの生安課刑事と嫁の問題とは別にあると踏み、所轄警察への通信記録を調べ出した。



――KATAKATAKATA――




 その最中……




――KACYAHNN!――


「ただいまあっ!」



 鞄の中から取り出した物を、まだ見せたくないのか流し台に置き、透子は二人の元へと勢い良く向かって行く。


「おかえっ!?」


 迎えようと楓香が部屋から顔を覗き出すと目の前に居た。


 その自信みなぎる笑顔には、触れてはイケない気がして目を伏せる楓香に、透子は手を広げ飛びつき抱きついた。



「癒されるぅぅぅ……」




 目を開けると零がモニターに向いたまま腕を出し、USBメモリーを待っているのが見えてげんなりした顔を見せる透子。



『…早く寄越せ…』



 抱きついたままポケットからUSBメモリーを取り出し渡す透子に、零が厳しい言葉を浴びせる。



『…楓香はペットじゃねえ! お前よりキツイもの見せられてんだ…』



 返す言葉もなく口を(すぼ)め、怒られた事に自覚がある子供のような反省面になっているとも知れず、返事の無い透子に零は、癒やしを求めているのはお前だけじゃねえっ! と、言おうとして振り返るが……



『…おまっ…な、んだその顔?…』



 口を(すぼ)め梅干し食べてる(しお)れた婆さんのような顔が、楓香の肩にもたれて恨めしそうに自分を見ている事に、零は笑いを堪えてモニターに顔を戻した。

 


「透子、大丈夫?」



 肩にもたれて固まり動かなくなった透子の顔は、横を向いても見えずにどんな顔をしているのかも判らず対処の仕様がない状況に困っていた。



「ごめんんんん」


「えぇぇ……」


『…ぶっひほ……』


 涙は流さずも泣いてるようなうめき声に、楓香も困り果てた声が漏れ、零は面白がって透子の顔を覗いては笑いを堪えて顔を戻しを繰り返していた。



「……豚人形」



『…ぶびっ?…』




「ふむぅ……」



 肩越しに始まる喧嘩に、ため息を(こぼ)す楓香の意図を理解しておけば、その後の結果も変えられたのか……


 そんな思いを馳せるとも知らず、透子と零の喧嘩が始まったと同時に終わりを迎えた。



『…「ごめんなさい」…』







 と、知らせに光るスマホに気付いた零が申し訳無さそうに腕で指し、楓香に伝える。


「ふぅむ……」


 その読み進める姿には、汐らしい楓香ではなく頼もしさがあった。


 大泉とスーパーに行き追跡者をマークし確認していた中、楓香はこんなにも真摯に通信を確認して、こんなにも面倒臭い零と連携していた事に今更気付かされ、透子は先の行いを恥じていた。



 そんな心を知ってか知らずか、零のニヤケ面が増して行く。




『…やっぱりだ、動いたぜ!…』



「何が?」



 分からないのは透子だけ。



「ふぅむ……」


 透子の戸惑う様子に楓香は、説明すべきか否かを結果如何(いかん)にした零との話を信じて、黙り通信の確認に目を戻した。







――PARIIINN!――



 そのグラスが割れる音と共に立ち上がったのは島口だった。



「こんな汚え店、食ってられっか!!」



 そう言って札をテーブルに叩きつけ店を後にする島口が、首を鳴らす素振りで皆に何かを伝えると、合わせたように暴れていた客の皆が一斉に会計へと押し寄せた。



「少々お待ち下さい。スグにやりますので、すいません。一列にお願いします……」



 その会計が合っているのかの確認も出来ない程に慌しく出口に寄せる足並みは、勝手に出て行った者達が払った者かどの席の相席者か何処の子供かも視認すらも出来ない程。



 そんな混乱にカード払いが押し寄せて尚更の渋滞を引き起こす。



 現金とカードにかかる時間の差はさして無い。


 手間がどちらにかかるかだけの事。

 現金も札で小銭を使わなければカードと等しく、何の手間を省くのかは海外にでも行かない限りはこの現金主義国にあってはカードを持つ意味はさして無い。


 最近のスマホを使ったキャッシュレスですらも、読み込み速度と通信速度で時間の差はさして無い。


 それでも普及したのは触りたくない感染症と、親の金を使わせたい企業から利益還元された若者の行動規範の緩みから。



 富士山パスタのような個人店においてカードやスマホ決済サービスは、その導入コストだけでも赤字覚悟な上に、時折変わるシステムやその障害時に不通になる面倒事やと……


 便利の裏側にある面倒の不便さに、加わったレジ対応の不憫さが亜子の顔を赤らめていた。




――ZIIIIIIIII――



 茶尾は当然その様子もスマホで撮影していたが、突然始まった為に島口が店を出て行く所から。



 床の割れた皿やグラスを踏み付けて、わざと床に染み込ませるように擦り付ける者や、立ち去る際に皿を投げる者。



 すると店の前に路駐された車から重低音の振動がテーブルやドアやを軋ませる。


「何だこの店! 倒れんじゃねえの?」


 その軋み音に反応するように客の一部がドアや柱を掴み押し引きするように叫び、店の柱を蹴り出した。


「潰れちまえよこんな店!」


「それ笑えるう!」




 怒涛の嫌がらせにキレたのは……






「ざけんな! コイツ等全員吹っ飛ばしてやっかんな!」


 楓香のスマホの通信を覗き見ていた透子だった。



『…ひほ、だから猪突には…』


「勝手に覗いてたんだもん」


『…クソっ仕方無え、この猪突押さえとけ!…』



 横たわるも暴れる透子のヘソに指を刺し、栄養を吸い出して力を削ごうとする楓香。



「私の店を愚弄しやがってえ!」


「透子の店じゃないでしょ!」



 異常な数のCが(うごめ)き、そのIDへの指示が淡々と流れて行く中、また小出楓香のカードが使われるのではと踏み、零は待っていた。



『…ひーほー…待ってなお嬢ちゃん、絶対見付けてやるぜ…』


 


 秘技は奥技かスケベか……


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