11〜出会いと別れ〜
ようやく動き出す?
イメージとは……最強成り得るか?
「大丈夫、アンタには私がついてるんだから絶対に出来る!」
透子が見守る中、腸女の手が動き出した。
〈間違いない。この動き! 初めてなのにこの手際の良さ! イケる! 絶対にイケる! これならファッションリーダーも夢じゃないわ……〉
――――――――三十分後。
見守るのに飽きていた透子は隣の部屋の鍵とチェーンを掛け、お昼の洗い物を済ませ冷えた麦茶を差し出し、まるで試験中の娘を応援する母親の日常生活の様になっていた。
そして……
「完成ぇいっ!」
腸女の両手に掲げられた派手なワンピース……
機能性と利便性を履き違えた大量のポケット、多様性と汎用性を履き違えた大量のボタン、色合わせは色物に……
作った腸女の顔がひきつる。
「完璧よ!」
「え!? そ、そう良かったぁ……」
イメージは共有しても感受性は違うと理解したのは腸女だけだった。勿論今は透子には言わず時が来たら告げようと麦茶を飲みつつ心に誓っていた。
「よし、早速着てみるとしますか……!? ぁああああっ!」
「何? 何か間違って……あ、……」
腸女は振り返りスグに理解した。
透子は自分が作った図案が太っていた時の物だと忘れていた。そして、どれだけ自分が太っていたのかを思い知らされていた。
「……ぃゃ、その、出来はその感じで良いの?」
サイズよりセンスの問題と指摘するのを我慢し、見かねた腸女が声をかけると、しょぼくれ顔を上げ頷いた。
「なら大丈夫! ちょっと貸して……あと、他に落ち着いた色の生地は無い?」
「……ある……」
透子は静かにクローゼットから大量の生地を出して渡すと凹み座り込んだ。それを見ていた腸女がミシンの引き出しからメジャーを取り出し座り込む透子の身体を勝手に測り……
――――――――三十分後。
いつの間にか体育座りのまま横になりうなだれていた透子に生地が覆い被さる……
「完成ぇいっ!」
透子は起き上がり両手に掲げた派手なワンピースを見て驚いた……
「え? これ!? サイズ直ししたの?」
「うん、どお?」
「……ピッタリ! 完璧よ! ありがとう。まさかイメージだけでここまで出来るなんて……」
「良かった。ちなみに私の分も作ってみましたぁ!」
「え、こんな短時間で二つも? 腕、爆上がりしてんじゃない……って、それ随分と地味ね……」
ピキッ#
「あ、うん。そおかな?〈アンタが派手過ぎなの……〉」
「まぁアンタは私の理想の女なんだから何着ても大丈夫よ!」
〈ぃゃ…逆に不安になるわっ!〉
「これならイケる! うん、イケる! アレもイケる色々イケるわ!」
――KACHAKACHA、DONDONDONN――
「うち?」
期待が広がっていた透子に不安が過る。
〈まさか、さっきの……?〉
「不破さーん宅配でーす」
「あ、この前の……アレか!? はぁーい今開けまーす……調度良いわ惚れさせてやる……」
嬉しそうに服を弾ませ玄関へと向かうが、扉を開けてスグに一瞬の静寂があった。
〈……確実に引いたね……〉
しかし浮かれて戻ってきた透子は予想とは裏腹に物凄く喜んでいた。
「プふ、あの男、私の魅力に見入ってたわ」
「そぉお、凄いね。〈部屋でそんな派手な服着た女が出て来たらそりゃ見るわ!〉」
「信じて無いわね? まぁ良いわ今から嫌でも知る事になるんだから」
「……ぇ、どういう事?」
「出かけるから! アンタもその服着て見なさいよ」
「あ、うん」
――FUWARI! SURARI!――
…………透子は愕然とし膝をついた。圧倒的敗北感。
「ま、まぁそうよね! 私の理想の女なんだから……〈負け惜しみじゃない! 負け惜しみじゃないのよ透子! 自分の理想なんだから負けて当然なのよ。そうでしょ〉うん……」
そお自分に言い聞かせて立ち上がり宅配の箱をクローゼットにしまい、キッチンの引き出しから何かを取り出し握り締め、何か思いを込めるようにそっと鞄にしまい入れた。
「イクわよ」
「うん」
――BUKABUKABUKABUKA――
「あれ……」
「マジか……」
透子も流石に靴のサイズまで変わるとは思っていなかったが、贅肉と重力に抗えなかった自重に負けた肉が広がっていた分だろうか……
ひと周り分の余白が出来ていた。透子と二人で色々と履き試すがどれも微妙に歩き難い。
「あぁもう、いいや! どうせスグ近くだしサンダルでイクかぁ。ちょっと足痛くなるかもしれないけど我慢して!」
そう言うとクローゼットから派手なビーチサンダルを二足分出して来た。
ようやく外に出る準備が整い出ようとすると、今度は腸女が何かを思い出し透子の服を引く。
「ちょっと待って!」
「え?」
腸女はクローゼットの下に転がるチャッビーを持ち上げる。
〈解ってるわよね!?〉
と玄関の棚に置き
〈頼んだわよ!〉
と念を送る。
その姿を透子が見て不思議そうに尋ねた。
「何やってんの?」
「この子にお留守番を頼んだ所」
「……アンタのセンス疑うわぁ」
ブチッ#
「〈ぃゃ、アンタにだけは言われたくないっての!〉そぉお? でも、きっとこの子は役に立ってくれるハズよ! 〈感じるもん〉噛み的にね」
「ま、私の作った零君をそんな、誉めてくれて……ありがと。まぁいいからイクよ!……よろしくね零君……」
『…ビッチが…』(幻聴?)
顔を紅らめチャッビーに部屋を任せ、お互いの感受性の違いを認識し合い、ドアを開け踏み出した。
「さぁて、賭けね……」
零君はレイくんですよ……わかりますかね?(笑)