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105〜勇気の一歩〜

 頭隠して尻隠さず



「こんな身勝手……」


『…ひほ、これこそ床鍋が裏に隠す真の顔だ…』


 梱包作業を済ませた商品を配送し終え、慌ただしさから解放されたのも束の間に、床鍋の通信アプリのやりとりを確認していた楓香は、そのあまりにも中身の無い軽薄な者達の愚劣な考えの羅列に対して怒りを覚え始めていた。


 そんな軽蔑すべき汚物言を、数日に渡り見続けていれば当然の反応だ。

 それでも今の今まで我慢出来ていたのは、透子と交わした相手の気持ちになって考える、人の心を知る為の努力。



「これは悪い事でしょ?」


『…ひーほー…』


 楓香の改まった疑問符に、更なる穴を探しクラッキングを仕掛けていた手を緩め、モニター端のウィンドウにチラリと目をやれば、下水に流れ落ちる汚物の如くクズな文言の数々に呆れたように応える零。


『…こんなんだからカルトは目も、ああ腐るんだろ…』



「この人達になら、デブる使っても……」

『…ひぃぃぃ…ほ?…』


 ヤッちまえ! と思うもスグに答えが濁る。


 デブるが何なのかさえも未知数の存在で、零が知っているのは透子と同じく、小出家に押し入った奴等が壁を壊してこの部屋に入って来た時に、透子が使った悪魔の羽による極一部の性能のみ。


 それが攻撃に使えるのか、対象となる生物に特徴があるのか、その原理や対象範囲も効果も解らない事だらけの得体の知れない物の使用許可を安易に応えられる筈も無ければ、迂闊に応えて楓香がどう行動するかも解らない。


 そんな楓香を見れば、首から下げた判断の着けられない危険性の高いソレの球体部分をつまみ、手持ち無沙汰に人差し指と親指で転がすように弄っていた。


 焦る零!



『…ソレは…アレに、アイツに聞けよ!…』


「……絶対怒ると思う」



 焦り声を荒げた零とは対象的に、楓香は透子の顔を頭に過ぎらせたのか、しおらしくなっていた。


 楓香の顔を覗いた零が気不味さから気休めに何か声をかけようと考えるが、指で転がしているデブるが気になり言葉に詰まる。


 しおらしいが怖ろしい……


 零は静かに顔をモニターに戻し固まりそうな腕を振り、クラッキングを再開しようと頭を戻す。






――KACYAHNN!――



「ただいまぁ、何がそんな忙しいの? 喧嘩でもした?」


 帰宅し中に入るも応えが無く、人手不足のメッセージが頭を過ぎる。

 零に指示された通り、藤真に聞く必要の無い既に判明していた鈴木の名前を訪ね書かせ納得させて来たが、その理由となった忙しさとは何なのか?

 調理台に荷を置き、何をやっているのかと部屋に入って見れば、パソコンとスマホに向かい二人静かに並び座って黙々と……


「え?」


 零のメッセージから予想していたのとはかけ離れた状況に、頭が追い付かない。


「ん、おかえり透子」


 楓香の妙な間が重苦しさを伝播する。

 返事をするも楓香の視線は重く下を向く。

 

〈……何これ?〉


 ふと横で、静かにパソコンを前にし微動だにせず座っている人形が居る事に、これ以上ない程の違和感を覚える透子。


『………』


 本来であれば、これは正しく違和感を覚える事は無い。

 しかし、これに違和感を覚える事が正しくなった今となっては、確認する他に無い。



「……ぉぃ」


 楓香を気にしてかけた小さな声にも反応の無い人形に、出会い頭に死んだふりをされた熊の気持ちを理解した。


 抵抗しないなら肉として、食えるかどうか確認してやろう!


 そんな具合に人形の頭を鷲掴みに、握り潰す……



 が、手応えが無い!?




 いや、無くて当然の手応えこそが違和感の正体だとすれば……



 何かに気付きハッとする。透子は頭部を握り潰したまま振り返り、その答えを求め何かを探していた。


 クローゼットに向けた透子の目が細まり、軽蔑の眼差しに変わる。




――FU――

「そこっ!」



 一瞬何かが動いた気配に、握っていた人形を忍者の手裏剣のように投げ付けた。



――BAKONN!DABADABADABA――


 崩れ落ちるクローゼットにあった棚や小物やの数々が、人形と共に床まで雪崩落ちて行く……



「……あ、れ?」


『…ひほーーーっ!?…』




 透子の(わざ)とか否かも判らない焦りの顔を他所に、慌てて隣の小出家側から飛び出して来た人形は、透子に投げ付けられた身代わりにしようとしていた自分と瓜二つの人形よりも、映画キャラクターの人形……


 いや、フィギュアと言った方が適当か。


 映画での華々しい活躍とは裏腹に、床に落ち無惨に横たわるそのフィギュアを心配し、自身が何をしていたのかも忘れ駆けつけた人形。



 それは、透子が投げ付けた己と瓜二つの人形の衝突により崩れ落ちた、棚の中央で大事に飾られていた物だ。


 まるで目の前で仲間を失ったヒーローのように、横たわるフィギュアを腕に抱き、肩を震わせる……人形劇!?


『…こ、この、(ひと)人形(ひとがた)殺しがあっ!…』


「はあ?」



 零の物言いに対抗しようにも目の前の惨状に心が痛む。


 透子が気配の先に投げようとした折、人形の首がミリミリともげそうに軋む感触から途中で手を離してしまった結果、クローゼットの棚に直撃。


 大岡裁きなら褒めて貰える処かも知れないが、結果が結果……


 それでも最初に仕掛けてきたのは零の方。売られた喧嘩を買っただけ! そんな思いが透子の口を押す。



「何が人形(ひとがた)殺しだ、この駄フィグがっ!」


『…駄!? この造形美の価値観も解んねえナイセンスの芸術殺しが!…』


「誰が芸術殺しだ! 自分の顔見てから言えっての!」


『…ああっ!? そりゃ、お前………』


「……」




 どうする事も出来ない事実に気付き、突然静かになった二人。


 楓香は床鍋への怒りの矛先をどうするべきか悩む中、アホらしさから気遣い二人にかける言葉を探すが見付からない。

 考えた先に、狭く極端な世間しか知らない楓香だが、何かを悟り問題の答えと思えて零に確認する。



「ふぅむ……そっか、悪い事言ってる人にはかける情けも無いって事?」



 自らが作った物に鏡を見ろと、自身を馬鹿にした事に気付いた馬鹿と

 ある意味で生みの親を馬鹿にした結果、製作者に粗悪品だと認定された馬鹿。


 かける言葉も返す言葉も無い二人は楓香の質問に、情け無い顔を向ける他に無かった。


「それ、カルトの顔?」


 


 目は口ほどに物を言う


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