104〜勇気の一歩〜
かみとにらめっこ。
二瓶が知った頭を抱える情報とは、床鍋公会が組織的に借入していた国の金に、床鍋属の国会議員が議員特権を使い優遇していた問題に絡み、二瓶の追っている相手の関わりが出て来た事。
そして、それには都知事も絡んていた事の報告だった。
しかし、今回の床鍋議員の捜査で出来る期間を知っていたのか、都知事は疲労を理由に病院に逃げ込み面会謝絶している。
何処から情報が伝えられたのかは都知事が警察権を持つ警視庁からなのは間違いないだろうが、警視庁に何処から漏れたのかが問題だ。
つまり、二瓶の居るこの建物の中にも裏切り者が居る。
それも上の方に……
都議選を前にした都知事は今、自らが作った政党の応援もせずに病院内に引き籠もり、様子を覗っているのは選挙の戦局と捜査の目。
二瓶が追っている沢抹踏滋議員サイドにとっても、都知事が作った政党の丘元三月都議が再選しないと自らの進退問題にまで関わって来る可能性がある。
それは、あの裁判制度の根幹を侮辱する弁護士議員の立場を乱用した診療カルテの偽証工作の件だ。
もし都議選で落選すれば議員特権による裁判拒否が使えなくなる。
そうなれば裁判に引き摺り出そうと立件する為に捜査の手を強め、事務所や関連する企業や団体にも……
都議でありながら活動拠点としていたのが金皮県の縦巾市内だと知れる事にも繋がる。
それを知られれば、丘元の黒い噂である人体実験好きのサイコな側面から、沢抹議員との黒い関係を疑う記事が抑えの効かない週刊誌等に出て来る可能性もある。
当然、そこまで行けば沢抹が持つ利権団体である日本弁連や特定メディアや利権互恵関係団体や
そして、責任を追われていた有名な役員を海外逃亡させる事で前役員にも現役員にも恩を売った自動車企業の広告主圧力を用いてメディア全般に等々と
いざ自らに降り掛かって来れば黙らせるだけの圧力特権は有しているが、そうなる前に動ける手立ては無く、丘元都議の再選が必至だった。
丘元都議自身、沢抹踏滋議員が推す、目線逸しの煙草叩きの後押しにと仕掛けた見せしめ裁判だった。
法外な慰謝料を吹っ掛けて一度判例を作ってしまえば、この国の裁判はその法外な判例に基づいて事務的に判決を下して行く。
それを逆手に取った吹っ掛け裁判が、金皮県の特に縦巾市内で横行していた。
裁判官の人事権に口を出せる特権を持つのは統轄する長であり、県の地裁なら県知事だが、本来その独裁性から行使する者は居なかったが、沢抹が金皮県知事時代メディアに知られる事無く行使した様な動きが見られた。
その後押しをしていたのが、同じ金皮県議連から選ばれた当時の総理大臣だった。
同じ自動車企業の献金を受け、消費税増税や派遣法やと大手企業の役員にとっては笑いが止まらない政策の数々に、遂には労働組合を黙らせる為に人件費削減と大量リストラを行なった。
自動車企業のトップが行なった非道な手法を【世界ではスタンダード】と言う吊るし札を付けメディアに顔を出し、のうのうと経営者なら当たり前の事だと唱う。
それを時の総理大臣のブレーンとなった経済学者が擁護し、新自由主義を無理矢理にこの国の現状に必要な物であるかの如くに話を挿げ替え詐欺の手法で洗脳して行く。
それは経済団体寄りの大手企業の役員達の口元を緩ませる。
給料を下げる口実にデフレを使い、給料計算とは別計算になる役員報酬を上げ、投資型から貯蓄型のに変え内部留保率を上げておいて、消費税増税等で不景気を創出した。
自動車企業の非道を会社全体の為と称し、それを見本とした企業のリストラが横行。
それにより自殺者や自己破産者に浮浪者が増え、何とか就職に辿り着けた氷河期世代をも更に地獄に突き落とす事となった。
その自動車企業の役員こそが近年海外に逃亡させた役員だ。
当時、欧州で活発な環境問題の話が浮上し、その急先鋒となっていたのが排気ガス問題だった。
そこで欧州の自動車企業の役員だった男はアジアの自動車企業に問題を責任転嫁させる為に買収を持ちかけるが、国際法の柵に営利が得られない事から経営統合的な形を取った。
しかし、この国では環境意識も人権意識もあまりにも希薄であり、自らの責任転嫁の思惑等よりも斜め上を行く責任転嫁の方法を、政治家から持ち掛けられた。
それこそが煙草叩き、自転車叩き、ビニール袋叩きの環境問題の責任転嫁だった。
その煙草叩きの団体役員こそが現都議の丘元であり、ビニール袋叩きを始めた環境大臣が現都知事であり、自転車叩きの吹っ掛け裁判を始めた弁護士が日本弁連の……
更に沢沫が煙草叩きの裏で操っていた覚醒剤の販路拡大に暗躍し、資金洗浄していたのが床鍋であり、全てはその当時から続いている関係だ。
その関係が、それぞれの思惑や利害関係から少しずつズレていたのか互恵関係崩壊の様相を呈しているようだった。
都知事と沢抹はフェミ団体の取り合いで関係が拗れたようにも見える。
そもそも沢抹が縦巾市で行った博覧会の借金返済に、オリンピック予算を都から奪い金皮県に横流しさせた事が、都知事にとっての弱みになってしまった事もあるだろう。
互いの弱みが互恵関係どころか、互いを監視し合う関係に……
それは、責任転嫁に立場的権力弱者叩きのファシズムを蔓延させ、庶民心情のコントロールを容易くする為ポピュリズムに乗り、自らが国民にさせて来た近所同士で監視し合う隣組システムと同様に……
「都知事が後援団体を取るか、自身の政党議員を取るか、か……」
二瓶は、コピー用紙に書いた関係図のようなメモ書きの、都知事の文字をぐるぐると赤ペンで囲っていた。
その関係図にペンの色からか、端に書かれた金皮県警赤葉警察署の文字が目に入り、何気無く見た筈のその文字に何かが引っ掛かる。
眉間にしわを寄せ、自らの直感めいた違和感の正体を探ろうと、その文字を関係図の中心に考え出していた。
「んっ? だとすれば……都議選次第では横浜市長選もあるのか!?」
その関連性から何かに気付き目を光らせた二瓶だが、それはチャンスにはなるが戦局は、昨日気付いた過去と現在の支軸の違いから探るにも、この狙い目に攻め込む為の準備にも、何処まで上が組織の長として戦えるのかに尽きる。
上層部が腰抜けかアチラの仲間の可能性も含め、その時迄に見極めておく必要がある事を肝に銘じた二瓶は、都議選の結果を待たずに動き出そうと部屋を後にした。
――BATANN――
二瓶が秘書室のドアを開けると、野上達が一斉に振り返る。
「招集ですか?」
「ん、ああ頼む」
二瓶が話すまでも無く理解されている事に頼もしさを感じるが、自身の行動が読まれ易いのではないかと捜査に不安を感じて少し考えるが信頼の証と捉え、気合を入れて上層部への上申と確認に足を向けた。
――BATANN――
UPP……




