01〜出会いと別れ〜
誤字脱字も色々とご指導含めこの作品への愛を増せます様に皆様方と共に歩みを進めたいと思いますので、よろしくお願いします。
「まだだ、まだイケる!明日の其の壱……キログラム」
午後の八時半
最寄り駅から十五分、スポーツジムの隣にある筋肉猛者共が通う肉食系大衆食堂のカウンターの真ん中で骨肉に貪りつき、一人異彩を放つ色白のOLとはかけ離れた3Lサイズの赤ジャージを纏った女。
不精な長髪を無理矢理纏めてお団子ヘアーを三段にし、顔を紅らめ念仏の様に唱える姿は鬼の様相。
ジム帰りの筋肉猛者共が牛魔王と呼び一目置く女、透子二十一歳。長林製菓の営業を汗臭いでは無く脂臭いと言われ派遣切りされた浮浪中のデブ女。
しかし中身は女! 夢は見る。理想の体型や彼氏や家に食卓に料理にデザートに、食材にすべく牛や豚やを育てて……と、デブになるべくして育つ夢を見て。
162cm 98kg
B94 W120 H130
これだけデブが明らかにも関わらず尚、まだ理想体型を思い描き痩せられると言いつつも、努力はせずに考えつくのは……
〈痩せるにも健康的に! やっぱり繊維質を摂らないと!〉
「明日の其の壱……キログラム。おっちゃんシーザーサラダ……ぃゃ、やっぱりタルタルチキンサラダ追加で」
と、決して脂質を抑える事無く肉を頬ばり広がる皿の数。
隣にいたヨレヨレスーツの男が頼んだ唐揚にまでフォークを突き刺し食べてしまっているのに、獲られた男は目を見開き輝かせて喜び勇んでいる。
「よ、良ければコレもお試し下さい!」
残りの鶏唐に自前の調味料をかけて差し出すと、その皿を受け取り男を睨みつけながら一つ頬張りゆっくりと頷き親指を立てる。
その後も黙々と食べ続けている中、ヨレヨレスーツの男は薄ら笑いにお辞儀をしながら店を去って行った。
食べ終わって会計を済ませれば店内の筋肉猛者共に、お疲れしたっ! と、見送られ、店を出て路地裏に入り一本目の角を曲がったスポーツジムの真裏にあるアパートニ階が透子の住処。
部屋に着くなり鞄からスーツを取り出し次亜塩素酸水をスプレーして脂汗臭を消臭し、ラックにかけ 団子ヘアーをとめる櫛を抜き、倒れる様にベッドインしてゲームにログイン。
盛りに盛った……否、本体からすると削りに削った【スキニー】と名付けた清楚系アバターで透子がやりたいのは、【松駿】と言う名の熊アバターとのゲームチャットだ。
何でも無い会話にも えへらえへら笑ってヨダレを垂らし
『いいわ』
『そぉソコ』
『イッちゃう?』
と、色々と楽しそうに尊むのが日課になり、レベル上げだけで五ヶ月が過ぎていた。
そうしてとある森の中、ニ人は岩肌に空間の裂け目の様な黒い影を見つける。
松駿
『何だこの割れ目、GATEかなぁ?』
スキニー
『手を入れてまぁ探ってみては?』
松駿
『(無視)とりあえず先に行くよ』
スキニー
『待ってイクなら一緒に』
松駿
『(無視)アレ? この割れ目狭いなコレGATEなのかなぁ』
スキニー
『私の水魔法で周りの堀を濡らして広げて割ればGにスポッと入れるわ』
と、水魔法を撃ち えへらえへら顔を紅らめ、つまみ食いしていたデザートトマトを頬ばり噛む直前に
「おぅ割いてやんよ!」
頭に響く女の声に驚き、トマトを丸呑みして喉に詰まらせ藻掻き喉や腹を引き裂くように悶えるも、血の気が引きそのまま意識を失った……
――JURURURURURU――
鬱陶しい程の眩い陽の光に目を覚ますと透子の理想体型の姿が目の前に?
「おぉ尊い……こんな姿に成れたなら」
そお両手を伸ばし抱き付きたくなる衝動に身を任せ体を起こし ふと思う〈ん? 身体が軽い! あれ、腰回りの感触が無い……〉そこで失神前を思い返した。
「やばっ! トマトで死んで、ココは噂の異世界か?」
と、幽霊に成ったのかと戸惑う自分と動きが合わず、此方を冷たい目で見ている理想体型の女の姿は、鏡でもなく実体がある……
つまり自分の身体では無い!
「あんた誰!」
女が目を見開き口を開いた。
「私はあなた」
透子は思うに〈このありがちな会話の流れは……やっぱり異世界系? SFファンタジー系か、ここはお決まりな流れに乗るべきか否か〉等とアニオタ思考を巡らせ、一応乗ってみた。
「ぃゃぃゃぃゃ、異人さんみたいな事を言われても」
羨む程の理想体型の女は流れを無視して急に何かに気付いたのか、思い返す素振りを見せる。
「はいはいはい、そぉね! そりゃそぉね、うんうん」
と一人頷き思い付いた様に次の瞬間放たれた答え。
「私は あなたの肉!」
……さっぱり意味が分らない。
が、思い返すに回想短く出来うる限りファンタジー世界を思い描いて考える。
「肉、昨日の……ハラミの妖精?」
吹っ切れた様に爽やかな冷たい解凍の風が帰って来た。
「いや、お前の肉!」
と、透子の腹に向け指を指す理想体型の女!
透子は腹を摩りハッとし見直す!
腹を!
足を!
腕を!
胸を?
首を摩り
顔を摩り
尻を摩り
そしてもう一度胸を擦る……?
透子は察した!
しかしアチラと違って吹っ切れ無いモノがある。
理想体型の女を舐める様に見直した。
女の腹!
顔!
足!
腕!
尻!
胸を見直し俯き静かに吐いた。
本音を……
「何故だ、何故にお前の方が胸がデカイ!? あんた私の肉片なんでしょ? 私より顔も小さいし可愛いし……
でも、私ファンタジー系好きだから分かってる。あんたは私が思い描いて具現化された理想の女! だから私より可愛いのもセクシーなのも分かる。分かるの……
でも! 何で? 何で私の胸も増やさねぇんだよ? あぁあっ!」
こんな本音にも、さらりと解凍される。
「あぁぁ、私割いただけだから……お前の肉を減らす事は出来ても、増やす事は出来無いみたい!」
――GUSSA!!――
明ら様に分かっていながら馬鹿にして言って来たんじゃないのか? と、思えてしまう透子の本音を打ち砕く無慈悲な現実感……
〈あれ? でもコレそもそも夢ヲチ的な可能性は? というか現実世界なのか異世界なのか、まだ部屋すら出てないじゃん!〉
窓は曇りガラスだから開けて確かめたいのだけれども、開けると目の前はジムのサイクルマシーンフロアだ。目が合うわ家バレするわで迂闊に開けられない!
〈あっ! でも異世界で窓の向こうはアノ森の中の割れ目とかあるかもかぁ?〉
と、静かに五センチ開けて覗いて分かり即閉じた現実世界。
……考えた。考えて今後コイツとの生活やらに色々な現実社会での問題が浮かび悩み問答し諦め更に問題が浮かんでは考え悟ってはみたものの……
「やっぱ納得いかねぇぇえっ!」
「……胸?」
この作品を皆様も愛せますよう頑張ります。