困り事
…これは一体どういう事なんでしょう。なんでここに?そもそもどうやってここが分かったんでしょうか。昨日フェイさんからお店をいただき、今日から色々頑張るぞと気合を入れてお店の前まで来ました。正直なところ、ホコリっぽいとか、床がところどころ抜けてるとか問題はあります。ですがそんな事よりも、何よりも予期していなかった事態が私の目の前にあります。
───私のお母さんが、窓からお店の中を覗いています。
「…いやぁ、ね?私の可愛いメルアちゃんがお店を開くって言うじゃない?そんなの、お母さんとしては気になっちゃうのよ〜。どんなお店かな?とか、危なくないかな?とか〜?それで、来ちゃった。てへっ。」
てへっ。じゃないんですよ。そもそもなんで場所がわかったんですか。超能力…?
「そんなの簡単よ!メルアちゃんの居場所は魔力を辿れば直ぐにわかっちゃうし。あとは〜、お手紙貰った時の魔力の流れからここの街を見つけ出して、その辺のおじ様に手当たり次第聞きまくったら発見しちゃった!」
相変わらず凄い行動力と速さですね。こういう所はやっぱり親子似ているものなんだな。…というか、居場所バレていたんですか。なんだか恥ずかしいな。
よしよ〜しと言いながらぶぅちゃんを抱っこしているお母さんを見ながら、昨日の夜のことを思い出します。
私は何かあるとき、必ずお母さんに手紙を書いて報告するようにしてました。1人で暮らしていても、心配はかけたくありませんから。なので昨日もお手紙を書いたわけなのですが…。
店舗をいただいたので、お店を開きます。
知っているかもしれませんが、悪夢はより美味しかったです。
こんな内容で、あとは些細な文章を付け加えてお手紙を送りました。ちなみに、お手紙はポストのようなものはなく、適当に折って、息をふ〜っと吹きかければ魔力で届くそうです。初めてやった時は、目の前で紙がばらばらになったことに驚いて、何通も送ってしまいました。今では微笑ましい思い出ですね。
…そんな内容しか書いていないのに、連絡も無しにいきなりお母さんが覗きをしていたので、私は困り果てていたわけです。どう見ても危ない人でしたからね。あの姿は。
それと、悪夢が美味しい事については。
「あぁ、それね。お母さんもあれ好きなのよ〜。お肌にも良いらしいし!メルアちゃんと食べ物の好みが一緒でお母さん嬉しいな〜!」
との事でした。私だけの秘密だと思っていたのに、夢魔の中ではもしかして常識だったのでは。…ちょっと悔しい。…でも、お母さんと同じなのは、凄い、嬉しい。
そんな事を考えてぼーっとしていると、お母さんが突然口を開きました。
「で?で?メルアちゃんはどんなお店やるの?やっぱり雑貨屋さん?いいわよね〜雑貨屋さん。ほら、可愛いもの多いじゃない?お母さんもついつい沢山買っちゃうのよ〜。…あ、もしかしてお洋服屋さん!?メルアちゃんの着てるお洋服も可愛いし、そういうお洋服を作って売ったりするのかな?う〜ん、どれも楽しそ〜!」
相変わらずお母さんは楽しそうにお話しますね。落ち着くけど、圧が強いな。
夢を喰べるお店をやりますよ。詳しくは何も決めてませんが、そんなお店聞いた事ないので楽しそうですから。
「…夢を…喰べる…お店かぁ…!」
あ、お母さんの目がキラキラしてる。なんか良くない事を言いそうな予感がします。ぶぅちゃんも察したのか、こっちに来てくれました。よしよし。
「ぶぅ…!」
ぶぅちゃんは可愛いな。癒しですね。
お母さんはキラキラしながら少し考えている様子です。なんでしょう、良い提案でもあるのかな。
「…私もやる。」
…え?今なんて…。
「私もやりたい!!そのお仕事!メルアちゃんと一緒に!!」
その提案は予想外だな…。私が驚いて何も言えないでいると、お母さんは不安そうに話してくれました。
「…メルアちゃんがお家出て1人で暮らすってなった時、お母さん本当は凄い寂しくてね…?でもほら、メルアちゃん私と同じで気になったら止まらない性格だから、気持ちはわかるし止めたくはなかったのよ。それで1人でメルアちゃんを観察して過ごしていたんだけど、こんなお仕事を始めるって言うじゃない!もしもお母さんとまた一緒に暮らすのが嫌じゃなったら…一緒にやりたいなーなんて…?」
今途中凄いこと暴露しませんでしたか?私を観察して過ごしていたって聞こえましたけど。
でも、こんなに不安そうなお母さんも初めて見ましたし、出ていく時にそんな気持ちだったことも初めて知りました。いつも通りニコニコしながら、楽しい事沢山あるよと言って送り出してくれていたのですが…。大人は隠すのが上手いんだな。私もそうなりたい。頑張るぞ。
私は別にお母さんが嫌で出ていった訳でも無いですし、むしろお母さんは大好きなので、正直凄く嬉しい提案なのですが…お家とか色々大丈夫なんですか?私は今の家から引っ越す気ありませんけど。
「…!それなら大丈夫!お母さんがメルアちゃんの家に引っ越してくるから!実家はあのまま残しておいて、いつでもみんなで帰れるようにしましょ!…家族の大切な思い出が沢山ある場所だもの…!」
私のお家、狭いんだけどなぁ…。
でも、お母さんがこんなに喜んでくれるなら、まぁ、いっか。
「〜♪メルアちゃんに大好きって言われちゃった〜!ふふっ!」
こうして、またお母さんと一緒に暮らして、お店をやることになりました。
…楽しみだな。ふふっ。