君のチッタ
足は海岸に向かっていた。
この浜辺が好きだ。
島の果てまで、すっとつづく美しい岸部と水平線。いつまでもみていられる。
それにしても、島に来てから、、数時間ごとにいろんなことが矢継ぎ早におこった。
しかも、、どれも人生級のイベント。
“なんだよ・・・ここ・・・”
時間経過のない不思議な世界。世の中は、知らないうちに時が過ぎていたりする。知人はみな歳をとって、自分だけ子供だったりして・・・。
膝をかかえたマークは涙目で、笑っていた。
?いや、でも、サリーは一晩で大人になった。
ここは、数日で・・・。じゃあ、数か月後には・・・。
脳裏にうかぶ子供の顔をした白髪の自分。
ジョーがせっせと、島に人を補充しているのはそのせい?
“だから、子供ばかりいる・・・”
「お得意の妄想風船、ふくらんでるね」
振り向くと、少し後ろにキャプテンがいる。パイプに何か仕込みながら、話しかけてきた。
いつも気配なく、そこにいる。
「いいじゃないか」
バッチリ目が合った。微笑んでいる。
「ザックと話してくれたかい」
マークはうなずいた。
「ありがとう」
なんでお礼を言われるのかわからない。
「ザックは、いつも何かを伝えられないで、すぐ意識の世界に行ってしまう。今はそこに逃げ込んでいるわけではないんだが、昔の癖だ。それもザック。それがザック。どんなザックでもいい」
キャプテンと話をしているうちにさっき、ザックを一人にしたことを後悔した。あれでは、奇妙な自分をさらしたザックから逃げてしまったみたいだ。きっとザックは自分が嫌われたと思ったにちがいない。いや、もっとよくない。あの様子から、ザックはいつもそうした扱いを受けてきて、もう何も感じないくらい慣れてしまっているんだ。体の痛みにも、心の痛みにも、何も感じない。
自分も、そんな扱いをする一人になってしまった。
「君のチッタが好きだ」
いっつも、やさしい目でみつめてくる。そのたびに悲しくなるのはなぜだろう。
「毎晩、わからない文字や言葉を聞きにやってきた。雨の日も、風の強い日も、自分はずぶ濡れだったが、本は大切にシートにくるみ、いつも大事そうに抱えていた。ザックにとって本は何だったのかな」
ザックのところへ引き返そう。マークは立ち上がった。
海風が髪をなびかせる。
風にのった、かすかな香り。波打ち際を歩くサリーが、ニーロの手を引いて、こちらに向かっている。
先ほどのワンピースを着ていない、いつものつぎはぎの服。
「なんで?」
ささやくように聞いた。
「みんなのようすが…」
さびしそうなサリー。
ニーロが波と遊んでいる。そこにいたキャプテンは、跡形もない。
浜辺に人影はない。また以前のように、三人きり。
「でも、いいんだ」
なにがいいんだろう。
「うん」
サリーが何を納得したのか、わからない。けど、うれしい。
「いこう」
「うん」
差し出した手をサリーが握りしめる。つないだ手にニーロがぶら下がった。ニーロを肩車して、歩き出す。
ずっとみていたい。マークの晴れやかな横顔とその先をみつめる翡翠のような深い緑。
一日のおわりにはまだ時間があった。雲はすでに色づき始め、流れる風が三人の髪をやや、強めに梳いている。紅の雲と水、風、一瞬の黄昏を焼きつけておこう、永遠に思い出せるように。
三人は同じ思いを抱いていた。




